All Chapters of 『Rainy Tokyo-レイニートウキョウ-』: Chapter 11 - Chapter 13

13 Chapters

Rainy Tokyo 第十一景「優しい記憶」

玄関のドアを閉じると、未来はしばらく動けずにいた。 雨に濡れた身体で寄りかかった鉄の扉が、冷たく感じた。 ドア越しに、外の雨の音が聞こえる。 未来は、自分の手でもう一度左耳に触れた。 会議室での、ひやりとした指の温度を思い出した。 俯いて、唇を噛んだ。 どうして、今頃になって、あの人に遭うんだろう……。  -☂️-  ——4年前未来は少しそわそわしていた。 銀のトレーを持って、お店の出入り口をずっと見ていた。 鈴の音と一緒に、古い木製の扉が開いた。 いつもの時間だった。 一人の男性が入ってくる。 金茶の髪。涼やかなグレーの瞳。端正な顔立ち。 男性は窓辺の席に座って、未来の方を見てくる。今日も、来てくれた。未来は早く鳴る鼓動を感じつつ、注文票を持ってテーブルに近づく。 「いらっしゃいませ。ご注文は——」 「いつものでいいよ」 テーブルに肘をつきながら、軽やかに言う。  -☂️-  未来は男の座るテーブルにブレンドコーヒーを置く。 「今日も、いい天気だね」 窓の外を見ながら、男は言う。 「そう、ですね」 そんな短いやりとりでも、未来にとっては嬉しかった。 「……あのさ、仕事上がりって何時かな?」 男は未来の方に向き直って言う。 「このあと、もしよかったら少し時間もらえる?」 「え、あの、お客様…!」 突然の台詞に未来は狼狽えた。 「——神城零。零って呼んでいいよ」  -☂️-  「零さん…。その、私…初めて、で……」 未来は、この後の事を考えると、恥ずかしすぎて思わず両手で顔を隠してしまう。 白い素肌がピンク色に染まっている。
last updateLast Updated : 2026-07-02
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Rainy Tokyo 第十二景「冷たい夜」

窓の外は一面、都会の夜景だった。 人工の光が、そこかしこに煌めいて、まるで空の星を落としてきたみたいだった。 外の景色はこんなにも綺麗なのに、悠吾の胸の中はずっとざわついていた。 都内のホテルの最上階のラウンジに、悠吾と未来はいた。 そして、目の前には——神城零。 「零さん…すみません。今日は、ご馳走になってしまって」 未来は申し訳なさそうに言った。 「いや、いいんだ。君たちのお陰で、いい商談にもなったしね」 零はそう言って、こちらをちらりと見る。 「こっちから誘ったんだ。遠慮しないでくれ」 悠吾は居心地の悪さに、食事の味など全く覚えていなかった。 少しの間沈黙が続いた。 零は静かにこちらを見ていた。 沈黙を破るように、未来が口を開いた。 「あの、それじゃあ私たち、ここで——」 「実は、話があってね」 零がその言葉を遮った。 「雨宮くんにも、是非聞いてもらおうと思って」 悠吾の胸の奥が、軋んだ。 「未来」 零の声が低く落ちた。 そして、まっすぐに未来を見据えた。 「俺たち、やり直さないか」 「……え」 未来の小さな声が聞こえた。 悠吾は、目の前の男が何を言っているのか一瞬分からなかった。 「あの時は、自分に余裕も力も無かった」 零は続けた。 「でも、今なら、今の俺なら、未来を幸せに出来る」 その声は真剣だった。 「——まっ…」 未来が困惑した声を出す。 「幸せにする自信が、ある」 「——待って!」 「だから、もう一度やり直そう」 「零さん——!」 未来の声が弾けた。 一瞬、空間が静まり返った。 「……」 沈黙が流れた。 未来は、肩を震わせながら俯いていた。 「……何で」 悠吾は、言いながら零を睨んだ。 「何で、俺がいる必要、あったんですか……」 膝の上で握られた拳が震えていた。 行き場の無い怒りのようなものが湧いていた。 零は、テーブルに両肘をついて悠吾と向き合う。 「……君、未来のこと、好きなんだろう?」 「……え?」 言われた瞬間、悠吾の中で何かが動いた。 「だから、俺にとって君は恋敵」 零は、冷たい目で悠吾を見据えていた。 「君にも、俺の本音を聞いておいてもらいたかったんだ」 「……」 悠吾は、ただ俯いて黙っていた。 零はテーブルからそっと立ち上がる
last updateLast Updated : 2026-07-04
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Rainy Tokyo 第十三景「書架の奥」

梅雨が明け、一段と蒸し暑さが強くなった午後。 悠吾は自社の会議室で、一人打ち合わせの準備を進めていた。 書類をテーブルに並べていく。 空調が少し弱めだろうか、額に滲んだ汗をハンカチで拭う。 —なんで、そんな言い方するんですか— 手に持ったハンカチを見て、握りしめる。 後悔ばかりが思い出された。 悠吾は奥歯を噛み締めた。 「やあ、雨宮くん」 声に驚いて、悠吾は振り返る。 会議室の入口のドアに零が立っていた。 腕を組んで、ドアに寄りかかっている。 悠吾は零のその態度に小さな苛立ちを覚えた。 「神城さん、随分早いですね。まだ、時間までありますよ」 「失礼のないようにと思ってね」 相変わらず、笑顔だけは爽やかだった。 「すみません、まだ準備中なので」 そう言って悠吾は、ドアの側に立つ零の脇をすり抜けていった。 通り過ぎる瞬間、冷たい視線を強く感じた。 -☂️- 悠吾は資料室のドアを開けた。 部屋は暗かったが、カーテン越しに外の日差しの暑さを感じる。 資料や備品が並んだ書棚が幾列も並んでいるのが見える。 悠吾は部屋の電気を点けてみる。 弱々しい光が書架を照らす。 閉じたカーテンのせいか、まだ薄暗く感じる。 悠吾は、書架の奥へと進む。 打ち合わせに使う予定の製本ファイルを書棚から探す。 確か、この奥の方にあったはず……。 突然、資料室の入口のドアが開いた。 零が入ってきた。 「零さん、話って何ですか……?」 神城と、——大空さん? 悠吾は、思わず書棚の影に身を隠してしまった。 「すまない、こうでもしないと二人きりになれないから」 言うやいなや、零は自身の両腕で、未来を入口の扉に縫い付けるように押さえて向かい合う。 「ち、ちょっと、零さん?!」 未来は目を見開いて固まる。 「教えてくれないか」 零の低い声が聞こえた。 「君は…今、雨宮くんが好きなのか?」 悠吾の胸が跳ねた。 自分の名前を出されたのと、それを未来に聞いたということに、驚きを隠せなかった。 「そんなの、零さんには——」 「関係なく、ないよ。俺は、今でも君を愛してる」 零の言葉に、未来は息を呑んだ。 零は、まっすぐに未来を見る。 未来はそのグレーの瞳から、目を背けられなかった。 「君は、忘れてしまった?」 そう言ってから
last updateLast Updated : 2026-07-06
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