交通事故で顔に深い傷を負って二年目、私、高梨真香(たかなし まなか)は重度のうつ病を患った。夫の高梨徹(たかなし とおる)は、私の面倒を見てもらうためだと言って、自分の秘書、相川莉奈(あいかわ りな)を家に連れてきた。たとえ顔が変わってしまっても、徹は昔と変わらず私を愛してくれているのだと、私は信じていた。けれど、その夜。目を覚まして部屋を出ると、夫の部屋から莉奈の甘えたような涙声が漏れてきた。「私、ただ見ていられなかったんです。美羽ちゃんはまだ小さいし、真香さんはずっと情緒が不安定で、顔だってまだ……」美羽ちゃんとは、私と徹の娘、高梨美羽(たかなし みう)のことだ。「美羽ちゃん、毎日あんなお母さんを見ているんですよ。怖くならないはずがないじゃないですか。徹さん……私が真香さんの薬をこっそり替えたこと、怒っていませんよね?」部屋の中が、しばらく静まり返った。やがて聞こえてきたのは、徹の低い声だった。「お前も、美羽のことを思ってのことだろう……それに、真香をせめて穏やかに逝かせてやるほうが、このまま苦しませ続けるよりずっといい」その先の言葉は、もう耳に入らなかった。心臓を強く握り締められ、そのまま息まで止められてしまうような痛みだった。胸元を押さえた拍子に、首にかけていたネックレスがぷつりと切れた。まるで、私と徹の関係がとっくに壊れていたことを、今さら思い知らされたみたいだった。私はずっと、自分が先に壊れてしまったのだと思っていた。でも違った。先に壊れていたのは、私が最後まで信じようとしていた徹の愛だった。……膝から力が抜けそうだった。それでも私は、その場を離れた。気づけば、下唇に歯が食い込んで、血の味がしていた。そうでもしなければ、泣き出してしまいそうだった。今はただ、美羽に会いたかった。今の私に、もう一度生きたいと思わせてくれるのは、美羽だけかもしれなかった。けれど、眠っている美羽のベッド脇まで行き、小さな頬にそっとキスをしようとしたときだった。美羽は悪い夢から覚めたみたいにぱっと目を開け、そのままわっと泣き出した。「美羽、泣かないで……ママだよ。怖くないよ……」けれど、いくら声をかけても、美羽は泣きながら私を押し返し、小さな手で叩いてきた。少しでも近づ
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