私・陸川遥(りくかわ はるか)は椎名律人(しいな りつと)と別れたあと、「大富豪」といわれる陸川孝之(りくかわ たかゆき)と結婚した。つい先ほど、その孝之が彼自身の全財産を私名義に移すと言い出し、私は慌てて断ったものの、彼の真剣な思いに押し切られてしまった。そして彼は、愛があるからこそ、お金で示したいとも言うのだった。そうすることで、私に誰にも頼らず生きられる強さを与えたいらしい。財産移転の手続きまで、わざわざ私の生まれ故郷であるA市で行うよう手配していた。やむを得ず、私はA市で一番大きな法律事務所へ向かった。予約名を告げようとしたその瞬間、背後から聞き覚えのある嘲笑が飛んでくる。「おい。あれって昔、律人のことを必死に追いかけてた遥じゃないか?でも残念だな。律人はもう婚約してるんだから」一瞬動きを止めた私は、ゆっくりと振り返る。そこには見慣れた顔ぶれがいた。大学時代の同級生たちだ。そしてその中心に立つ男。仕立ての良いスーツを身にまとい、その目元は冷ややかで、周囲を寄せ付けない冷淡な空気を漂わせている。5年経った今でも、一目ですぐに分かった。律人。一瞬、その場の空気が静かになったが、次の瞬間には、彼らが一斉にざわつき始めた。「まじで遥なの?じゃあ、あの格好はどういうこと?」「エルメスにブルガリ?買えるわけがないから、どうせ偽物だろ?」「ここは律人の法律事務所なのにな。そんな場所で、律人に金持ちアピールなんて、まじで笑えるんだけど」馬鹿にするような笑い声が次第に大きくなっていく。だがこんなことには、とうの昔に慣れ切っていた。大学の頃から、彼らは律人の周りでいつも私を馬鹿にしていたから。当時、私が律人に想いを寄せていることを知らない人はいなかったと思う。私は律人に毎朝弁当を作り、彼の講義が終わるのを待ち、深夜まで図書館で勉強する律人に付き添った。そんな私を律人は拒みもしなかったが、受け入れもしなかった。39度の高熱を出した時でも、私は無理をして律人のスピーチ大会を見に行った。大会後、倒れそうになっている私を見て、律人は淡々と言った。「試しに付き合ってみよう」そうして、私たちは付き合うことになった。付き合ってからも、律人の態度は相変わらず冷たかったが、それでも期末には
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