私はついに、憧れ続けた絶景ルートを走り始めた。車窓の外には連なる雪山。速度を落とせば、手を伸ばすだけで届きそうなほど低く、澄み切ったコバルトブルーの空が広がっている。展望台のそばに新車を停め、私はゆっくりとカメラを構えた。カシャリ、とシャッターを切る。その瞬間、私は少しだけ放心した。こんなふうに、自分の意志でカメラを手にするのは、一体何年ぶりのことだろう。かつて一弥を支えるために、私は自分の輝かしいキャリアを捨て、写真家としての夢を諦めた。自分自身の存在価値さえも、あの家に置き去りにしていたのだ。けれど、こうして再び憧れの地に立って、ようやく気づかされた。私の胸にあったあの情熱は、ただの一度も本当には消えてなどいなかったのだ、と。それでも、ほんの少しだけ心残りはあった。父は、もうここにはいない。こんなに素晴らしい景色を、一緒に見ることができないなんて……そんな感傷に浸っていたとき、前方から突然、騒がしい声が聞こえてきた。音のする方へと目をやると、黒いバイクが無造作に斜めに止められていたのが見えた。オーナーらしき青年が地面にしゃがみ込み、困ったような顔でエンジンを覗き込んでいる。どうやら旅の途中で故障してしまったらしい。私はもともと、見ず知らずの他人のトラブルに首を突っ込むつもりはなかった。けれど、そのまま通り過ぎようとした瞬間、その青年がふと顔を上げた。「すみません」彼は私の方を真っ直ぐに見つめると、屈託のない笑みを浮かべた。「ちょっと手を貸してもらえません?」私は思わず足を止めてしまった。認めざるを得ない――非の打ち所がないほど整った、綺麗な顔立ちをしていた。若く、何ものにも縛られておらず、どこか奔放な自由さを全身から漂わせている。まるで、真夏の眩しい日差しをそのまま形にしたような青年だった。「何を手伝えばいいの?」「次の街まで乗せていってほしいんです」彼は完全に動かなくなった相棒のバイクをポンポンと軽く叩いた。「こいつ、絶賛ストライキ中なもんで」私は彼の物怖じしない物言いに、思わずくすりと笑ってしまった。「私が悪い人間だとは思わないの?」「悪い人?」青年はおかしそうにぱちぱちと瞬きをした。「君みたいに綺麗な人が、悪い人のわけないでしょう」
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