私・江口美月(えぐち みづき)の夫――桐谷彰吾(きりたに しょうご)は、インフルエンサーの森本絵奈(もりもと えな)と専属契約を結んだ。彼女はセレブ妻のキャラクターを売りにして、夫婦間の親密さを匂わせる投稿をSNSにアップしているが、彼女が住んでいるあの高級マンションは、彰吾が私のために買ってくれたものだ。そのことを問いただしても、「ただの演出だろ。いちいち目くじらを立てるな」と、彰吾は面倒くさそうに吐き捨てるだけだ。胸に湧き上がる疑念を、無理やり押し殺した。息子の桐谷陽斗(きりたに はると)がひどい風邪をこじらせて、私は何日も徹夜で看病を続けた。そんなある日、疲労のあまり倒れ込んだとき、陽斗と彰吾のひそひそ話が聞こえてきた。「パパ、今回は僕が仮病を使ってあげたから、パパと絵奈ちゃん、一緒にいられたんだよ。ママ、すっかり騙されてるね。今度はパパの番だよ。ママに内緒で、僕も絵奈ちゃんと一緒に住みたい!」寝室のドアの前に立ち尽くす。視線の先には、彰吾の肩に寄りかかって、声を潜めてそんなことを囁く陽斗の姿がある。水なしで飲み込んだ薬が、まるで巨大な石のように喉につかえている。それに加えて下腹部を襲う激痛に、立っていることもままならない。彰吾は甘やかすような笑みを浮かべて、陽斗を腕の中に抱き寄せる。「いい子だ。絵奈も会いたがってたぞ。これは男同士の秘密だからな、ママには内緒だ」まるで氷の海に突き落とされたかのように、全身の震えが止まらない。逃げるように寝室から後ずさって、洗面所に駆け込む。蛇口から出る冷たい水が肌に触れて、ようやくほんの少しだけ理性を引き戻す。ここ数日、陽斗が体調を崩していた。それなのに、どうしても病院へは行きたがらなかった。幼い頃から体が弱くて、食事も人一倍気を使って育ててきた。普段から少し走っただけでも息を切らしてしまう。気が気ではなく焦りばかりが募る中、出張中だった彰吾がなんとか往診の医者を手配してくれた。診察を受けて薬を処方されたものの、一向によくなる気配はない。毎晩のように頭が痛いと泣き言を言っていた。何日も徹夜で看病を続けて、運悪く重なった生理のせいで、気絶しそうなほどの下腹部の痛みに耐えている。ほんの1時間前、帰宅した彰吾を玄関で迎えたとき、彼は心底痛ましそうな顔をして私を抱き
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