レストランで陽介と腹を割って話をしてから、彼はおとなしくなった。ただ大人しくなっただけじゃない。研究所に長期休暇を願い出て、いつ戻るのかも告げず姿を消したのだ。あいにく、研究所はプロジェクトの最繁忙期を迎えていた。陽介が突然抜けたせいで、皆の仕事が山積みになった。航平が毎晩遅くまで残業するため、私は下のカフェで彼が仕事を終えるのを待つようになった。両親も、男の人を夜道で一人で歩かせちゃいけないと言うし。もっとも、両親に言われたからじゃない。私自身、航平を送り迎えしたかった。仕事の疲れを少しでも癒してあげたかったから。研究所から疲弊しきった様子で出てくる航平を見て、私はすぐさま駆け寄った。あんなに疲れた顔を見ていたら、切なさと同時に陽介に対する憤りも込み上げてきた。もう完全に未練はなかった。それどころか、他の人のために陽介を恨むなんて。昔の私なら、きっと想像もつかなかった。熱いミルクティーを渡すと、助手席の航平が研究所での出来事を色々と話してくれた。その時、何かに思い当たったのか、彼が目を輝かせてこちらを見た。「そうか、周防さんっていう研究所の天才がいるじゃないですか!忙しさで頭がどうかしていたんです。お願いです、なんとか助けてくれませんか……」彼が両手を合わせて、おねだりをしてくる。私は思わず吹き出して、うんと頷いた。ずっと助けたいと思っていたけれど、ここ6年間はずっと海外にいたし、自分から進んで申し出るのも躊躇われたのだ。身分上の制約も多かったから。航平が嬉しそうに所長へ電話を入れた。色々と面倒な手続きがいると思っていたのに、予想外なほどあっさり承認が下りた。私が加わったことで、プロジェクトは順調に動き出した。航平も夜遅くまで働き詰めになることはなくなり、少しは余裕が出てきたみたいだ。他の研究員からも一目置かれるようになり、所長から極秘で、正式に帰国して働かないかと持ちかけられた。でも、迷った。このA市は、私にとって辛い記憶ばかりが残っている場所だから。今さら陽介なんてどうでもいいはずなのに、この場所にいること自体に無意識の拒絶反応が出てしまう。この街は、私にあまりにも多くの苦痛を与えすぎた。大学生の頃、奈央に意図的に誘導されたことで、私はクラスメートたちから孤立させられた
続きを読む