これは、遥か昔の話だという。気候は温暖で、大地には多種多様な生き物が生息していた。草木は高く伸び、ビルのような巨木が林立し、弱肉強食――自然摂理に忠実な世界が、そこにはあったらしい。その地域に寒冷な時期は訪れず、いや、私の見立てでは星そのものが熱帯だったのではないかとさえ思う。 そしてその世界には、今では到底考えられない生命体が存在していたという。それが真実かどうかは疑わしい。だが、情報を無限に記憶し続ける生命体がいた――そんな話が、まことしやかに語り継がれている。 私は、それを信じたい。たとえ科学で証明できなくとも、今とは異なる技術体系、いや、自然摂理そのものによって発展した世界があったのだとしても、私は信じたい。 それこそが、我々を救う鍵なのだから。 「おい、ソウ!!」 「ソウ!!! 起きろ! 狩りに行くぞ!!」 鼓膜を震わせる怒声の主は、銀髪で筋肉隆々の男だった。漆黒のTシャツに同色のズボン、その上から古(いにしえ)の紋様が刻まれた黒と茶のローブを翻している。ソウの親父――ゲンだ。 (なんだよ親父……一昨日まで『明日にする』って言ってたじゃねえか。眠いんだよ、クソ……) 心の中で悪態をつきながら、ソウは重い瞼を持ち上げた。中学生ほどの少年であるソウは、寝癖のついた黒髪を緑と茶のターバンの様な物で強引に後ろへ流している。 「わかったよ、起きた起きた。はいはい、起きましたよーだ」 地面に木の板と葉を敷き詰めただけの、お世辞にも寝心地が良いとは言えない簡易ベッドから、泥のように重い身体を起こす。それを仁王立ちで射抜くように睨んでいるのがゲンだった。 「おっせぇわ、たわけが!!」 「昨日言ったことをもう忘れたのか? 今日は他の狩人と共同戦線を張り、あの『バガール』を仕留める。一族の命運を懸けた大一番なんだぞ!」 眉間に深い皺を寄せ、ゲンが至近距離まで詰め寄る。 「え?そうだっけ? 昨日そんなこと言ったかな~。ははは、記憶にございませーん」 ソウは肩をすくめ、わざとらしくしらばっくれた。 「はぁ……もういい。どうせそんなこったろうと思ったわ。ほらよッ!」 ゲンの手から放り投げられたのは、「三つの目」と「六枚の羽」を持つ巨大なハエだった。テニスボールほどの質量があるその塊は、すでに事切れている。 「
最終更新日 : 2026-07-09 続きを読む