ジェイドレゾナンス ー新星に灯る始まりの血脈、深緑の衝撃ー

ジェイドレゾナンス ー新星に灯る始まりの血脈、深緑の衝撃ー

last updateLast Updated : 2026-07-19
By:  未来が見えないUpdated just now
Language: Japanese
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未来は情報崩壊の危機に直面していた。そんな中、深海で発見されたのは二億年前の技術「謎のコア」。それは情報崩壊を止める唯一の鍵だったが、起動には太古の技術が必要だった。Dr.Jは特殊部隊を中生代へ送り込む。その時代には灼熱の過酷な世界を生き抜く父・ゲンと息子のソウ。二人は単なる先住者ではなく、進化の謎を解く“始まりの血脈”の継承者だった。コアの正体とは、そして人類の未来は。時を超えた接触が歴史を塗り替え、親子の運命が交差する。中生代と未来が激突する、時空を超えた壮大な物語がいま始まる。

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Chapter 1

第一話 命の鎖

これは、遥か昔の話だという。気候は温暖で、大地には多種多様な生き物が生息していた。草木は高く伸び、ビルのような巨木が林立し、弱肉強食――自然摂理に忠実な世界が、そこにはあったらしい。その地域に寒冷な時期は訪れず、いや、私の見立てでは星そのものが熱帯だったのではないかとさえ思う。

そしてその世界には、今では到底考えられない生命体が存在していたという。それが真実かどうかは疑わしい。だが、情報を無限に記憶し続ける生命体がいた――そんな話が、まことしやかに語り継がれている。

私は、それを信じたい。たとえ科学で証明できなくとも、今とは異なる技術体系、いや、自然摂理そのものによって発展した世界があったのだとしても、私は信じたい。

それこそが、我々を救う·なのだから。

「おい、ソウ!!」

「ソウ!!! 起きろ! 狩りに行くぞ!!」

鼓膜を震わせる怒声の主は、銀髪で筋肉隆々の男だった。漆黒のTシャツに同色のズボン、その上から古(いにしえ)の紋様が刻まれた黒と茶のローブを翻している。ソウの親父――ゲンだ。

(なんだよ親父……一昨日まで『明日にする』って言ってたじゃねえか。眠いんだよ、クソ……)

心の中で悪態をつきながら、ソウは重い瞼を持ち上げた。中学生ほどの少年であるソウは、寝癖のついた黒髪を緑と茶のターバンの様な物で強引に後ろへ流している。

「わかったよ、起きた起きた。はいはい、起きましたよーだ」

地面に木の板と葉を敷き詰めただけの、お世辞にも寝心地が良いとは言えない簡易ベッドから、泥のように重い身体を起こす。それを仁王立ちで射抜くように睨んでいるのがゲンだった。

「おっせぇわ、たわけが!!」

「昨日言ったことをもう忘れたのか? 今日は他の狩人と共同戦線を張り、あの『バガール』を仕留める。一族の命運を懸けた大一番なんだぞ!」

眉間に深い皺を寄せ、ゲンが至近距離まで詰め寄る。

「え?そうだっけ? 昨日そんなこと言ったかな~。ははは、記憶にございませーん」

ソウは肩をすくめ、わざとらしくしらばっくれた。

「はぁ……もういい。どうせそんなこったろうと思ったわ。ほらよッ!」

ゲンの手から放り投げられたのは、「三つの目」と「六枚の羽」を持つ巨大なハエだった。テニスボールほどの質量があるその塊は、すでに事切れている。

「うわああああああああああああ!!」

それを見た瞬間、ソウの眠気は吹き飛んだ。バネが弾けたような勢いで後ろへ跳び退く。

「何しやがるボケ親父ぃ!!」

「ああ!? お前こそ何しとんじゃボケ!! 俺がどんな思いでそのフライバエを捕まえたと思ってんだ!」

ゲンの拳が怒りで小刻みに震える。それもそのはず、この数日間、寝食を惜しんで追い回し、ようやく仕留めた希少な「供物」なのだ。

「だってよ親父! そいつ、排泄物(ウンコ)食うんだぜ!? しかも色んな奴の! それを食うってことは、間接的にウンコ食ってるのと一緒だろ!!」

断固拒否。ソウは必死に訴えるが、ゲンは一切の慈悲を見せない。

「……四の五の言うな」

ゲンは拾い上げたフライバエを掴み、獲物を狙う猛禽の如き速さで距離を詰める。

「待ってくれ親父! 俺が悪かった! 今回は本当に――」

謝罪の言葉を言い切る前に、強靭な指先がソウの顎をこじ開けた。間髪入れず、グロテスクなフライバエが口内へと押し込まれる。

「んぐっ!? がばっ、あああっ……!?」

強引に咀嚼させられ、喉を通り抜ける異物感。ソウの瞳に屈辱と不快の涙が浮かぶ。

「……ふん、世話の焼ける。だがなソウ、今日ばかりは俺がいても、お前を守りきれる保証はないんだ」

(もごもご……最悪だ……今、喉の奥で足が動いた気がしたぞ……クソ親父……)

涙目で悶絶する息子を見下ろし、ゲンの表情が「戦士」のそれへと変わった。

「ソウ、よく聞け。我ら一族に伝わる“宿る力”――それは我らに刻まれた呪いであり祝福だ。喰らったものは、お前の血肉となり力と化す。願え、宿らせろ。己の芯から力を呼び覚ませ」

ゲンが一歩踏み込み、静かに構えを取る。

――宿れ、フライバエ。

刹那、ゲンの身体から悍ましいほどのプレッシャーと共に漆黒の靄が立ち昇った。

バキバキと音を立てて肩から二本の異形な羽が突き出し、額には第三の目が、血走った状態でカッと見開かれる。

ゲンは羽を羽ばたかせ、重力を無視して宙へと舞い上がった。

「ソウ! そのアホな脳みそを回せ! さっさと形態変化しろ、狩りに遅れるぞ!」

(うぜぇ……マジでだりぃ。いつかはやる時が来ると思ってたけど……よりによって最初の「宿し」がフライバエかよ)

ソウは脳裏に、これまでの修行で叩き込まれた「思念法」を呼び起こす。

(脳内での対話、喰らったモノの残滓……そして、変貌した己のイメージ……!)

(今まで一度も呼応しなかったくせに、こんな最悪な気分で……!)

しかし、やるしかない。ソウは深く呼吸し、濁った意識を一点に研ぎ澄ませる。

自身の脳に、深く、鋭く念じた。

(――俺と、共鳴しろ)

その瞬間、頭蓋の中で無数の声が反響した。自身の思考に、羽虫の羽音のような、ざわつく「他者」の感覚が混ざり合う。

視界が激しく歪み、平衡感覚が消失する。だが、すぐにそれは鋭敏な「覚醒」へと変わった。

(……成功だ。次へ行くぞ!)

休む暇はない。イメージを具現化させる。

(フライバエの核を掴め。俺と混じり合い、新たなカタチを成せ――!)

全身の筋肉が強張り、神経を熱い奔流が駆け巡る。ソウは地を蹴り、叫んだ。

「――宿れ、フライバエ!!!」

ドッ、と激しい衝撃波と共に、ソウの肩からも異質な羽が突き出した。

「うおおおおお!! できたじゃねえか、この馬鹿息子が!!」

変貌を遂げたソウの姿を見て、ゲンは満足げに口角を上げた。そして、その視線は遥か彼方、死地となる狩場の方角へと据えられる。

「ソウ、行くぞ。……今日は、命を使い切る覚悟をしろ」

二人が空を切り、目的地へと急ぐ。

しかし、その狩場からはすでに――この世のものとは思えない絶望の響きが轟いていた。

――ズドドドドォォォォンッ!!!

大地を揺らす爆震。

辺り一面、吹き飛ばされた土埃と、無残に引きちぎられた植物が舞い踊る。

視界を覆いつくす茶色の帳(とばり)の向こう側。

巨大な黒い影の中で、不気味に輝く二つの赤い閃光

それは、地面を数百メートルにわたって抉り取るほどの絶大な暴力の爪痕。

そして、その破壊の跡には――

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第一話 命の鎖
これは、遥か昔の話だという。気候は温暖で、大地には多種多様な生き物が生息していた。草木は高く伸び、ビルのような巨木が林立し、弱肉強食――自然摂理に忠実な世界が、そこにはあったらしい。その地域に寒冷な時期は訪れず、いや、私の見立てでは星そのものが熱帯だったのではないかとさえ思う。 そしてその世界には、今では到底考えられない生命体が存在していたという。それが真実かどうかは疑わしい。だが、情報を無限に記憶し続ける生命体がいた――そんな話が、まことしやかに語り継がれている。 私は、それを信じたい。たとえ科学で証明できなくとも、今とは異なる技術体系、いや、自然摂理そのものによって発展した世界があったのだとしても、私は信じたい。 それこそが、我々を救う鍵なのだから。 「おい、ソウ!!」 「ソウ!!! 起きろ! 狩りに行くぞ!!」 鼓膜を震わせる怒声の主は、銀髪で筋肉隆々の男だった。漆黒のTシャツに同色のズボン、その上から古(いにしえ)の紋様が刻まれた黒と茶のローブを翻している。ソウの親父――ゲンだ。 (なんだよ親父……一昨日まで『明日にする』って言ってたじゃねえか。眠いんだよ、クソ……) 心の中で悪態をつきながら、ソウは重い瞼を持ち上げた。中学生ほどの少年であるソウは、寝癖のついた黒髪を緑と茶のターバンの様な物で強引に後ろへ流している。 「わかったよ、起きた起きた。はいはい、起きましたよーだ」 地面に木の板と葉を敷き詰めただけの、お世辞にも寝心地が良いとは言えない簡易ベッドから、泥のように重い身体を起こす。それを仁王立ちで射抜くように睨んでいるのがゲンだった。 「おっせぇわ、たわけが!!」 「昨日言ったことをもう忘れたのか? 今日は他の狩人と共同戦線を張り、あの『バガール』を仕留める。一族の命運を懸けた大一番なんだぞ!」 眉間に深い皺を寄せ、ゲンが至近距離まで詰め寄る。 「え?そうだっけ? 昨日そんなこと言ったかな~。ははは、記憶にございませーん」 ソウは肩をすくめ、わざとらしくしらばっくれた。 「はぁ……もういい。どうせそんなこったろうと思ったわ。ほらよッ!」 ゲンの手から放り投げられたのは、「三つの目」と「六枚の羽」を持つ巨大なハエだった。テニスボールほどの質量があるその塊は、すでに事切れている。 「
last updateLast Updated : 2026-07-09
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第二話 遊覧飛行
ゲンとソウは、蒼穹のただ中を突き進んでいた。 眼下にはどこまでも続く緑の絨毯、上空には綿菓子のような雲が悠然と流れている。 だが、ソウにはその雄大なパノラマを味わう余裕など、微塵もなかった。「ソウ、お前なぁ……なんだ? その飛び方は。見てるこっちが酔うわ!」 ゲンが顔をしかめて吐き捨てる。 ソウの羽ばたきは支離滅裂だった。パタパタと不格好に動かしたかと思えば、突然硬直して石のように墜落する。慌ててバサバサと産まれたての雛のように羽ばたき、急上昇する――その無様な上下運動を延々と繰り返していた。 空中でぐらぐらと木の葉のように揺れる息子。その不安定さは、見ている者の胃をキリキリとさせる。「仕方ないだろぉ! こっちは、はじめてなんだよッ!」 必死に叫ぶが、風に声がかき消される。 羽の動きはぎこちなく、気流を掴むどころか、空気に弄ばれている状態だ。それでも彼は、折れそうな心で前へ進もうともがいていた。「これでぇ……もア、がんばってぇェェェェェアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!」 反論しようと意識を口に向けた、その刹那。 集中力の糸がプツリと切れた。 ソウの体は揚力を失い、真っ逆さまに重力へと身を投げ出した。「ったく、本当に手のかかる野郎だッ!」 ――ばさっ! ヒュンッ! ゲンは一瞬で六枚の羽をV字に折り畳んだ。 フライバエの特性を完全に掌握した無駄のない挙動。空気を切り裂く鋭い音が響き、ゲンは弾丸と化して急降下する。 額に浮かぶ「三つの目」が、落下するソウの座標を精密にロックした。 距離、加速度、風向き、そして落下の放物線。 すべての情報が、異能の脳内で瞬時に演算される。 ――ドンッ! 空気が爆ぜた。最高効率の出力で空を蹴り、ゲンは音速に近い速度で空間を跳んだ。 次の瞬間、ゲンの逞しい腕の中には、魂の抜けたような顔をしたソウが収まっていた。「うわぁぁぁ……し、死ぬかと思った……」「捕まえたぞ。……まったく、空中で喋る余裕があるなら羽を動かせ」 ゲンは片腕でソウをがっしりと抱えたまま、再び大きく羽を広げる。 墜落のエネルギーを滑らかな旋回へと変換し、滑空へと移行。二人の体は、見えない氷の上を滑るように優雅に空を駆けていく。「まだ、練習が必要そうだな……」 ため息混じりのゲンの声には、呆れと、そして息子を失わずに
last updateLast Updated : 2026-07-09
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第三話 蘭痴気
ソウ一行が向かう、やや前に遡る。「ヤン!バガールの群れだ!今日はいい日になりそうだな!こっちはもう腹が減って死にそうだ。さっさと狩猟しようぜ!」 そう叫ぶのは、狩人らしい見た目のラルクだ。 そしてラルクの前方に見えるのは、鹿のような姿で、本来の鹿より一回り大きい獣――バガール。角は捩れ、今にも岩を砕きそうな見た目をしている。そのバガールが群れを成し、大陸を横断している姿に、二人は感動していた。「しっかし、こんだけいりゃあ、一月以上は持つな。ラルクよ、他のメンツはどうした?」 ヤンもまた似たような格好をしており、頬には火傷の跡が残っている。喋るたびにその痕が生々しく痛々しく見えるが、本人としてはどうってことないのだろう。「え?どうしたって、知らねえよ。そういやヤン、あの親子は後で来るのが毎度のことだからいいとして、村から駆り出されたのは俺らだけじゃないはずだよな?」 本来なら十数名が、ここで落ち合う予定だった。 定刻――陽が直上に昇り、二対の巨木が交差するこの場所で、バガールを狩る約束だったのだ。「ああ、間違いなくそうだ。仕方ねえ、俺らだけで先に頂いちまうか」 仕方ないと言ってはいるが、ご馳走を目の前にしたハイエナのような表情を、二人は顔を見合わせてニヤつかせる。「ラルクよ、準備はできているか?」「当たり前だ、ヤンよ」 そうして二人は構えた。 バガールの群れに対し、臆することなく眼差しを向け、力を込める。『『――宿れ、土蟹《ツチガニ》よ!!』』 二人の身体の一部が形態変化する。 ラルクの左腕が黒く染まり、異様に大きく膨れ上がったかと思うと裂け、硬質化し、真っ黒な鋏腕へと変わった。 ヤンも同様に、右腕が真っ黒な鋏腕へと変化している。 この二人は、以前に土蟹を食し、何度も何度も食べては思考し、また食べては思考する――そうして辿り着いた、努力の賜物だった。 ライバルであり、親友だからこそ互いを高め合えた結果である。 だからこそ、村の食材調達を担う狩人となり、自分たちだけでなく村全体へ意識を向けていた。「ヤン、出遅れるなよ!」――シュンッ、ツツ、ズバッ、メキメキ、ジャキッ。 ラルクは一気にバガールの群れへ突進し、一体の首を鋏で掴み、そのまま捩じ切った。 バガールは一瞬の出来事に、まだ目を見開いたまま、自分の身体を見上げ、奇声
last updateLast Updated : 2026-07-09
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第四話 怪物と狩人
ヤンは無策のまま、思いのままに怪物へと飛び出した。右腕の鋏で怪物の首を狙い、飛びかかる。「待つんだ、ヤン!!」立場が逆転していた。ラルクを止める側だったヤンが激昂し、ラルクは友を失いたくないあまり、未だかつてない行動に出ている。怪物の頭である梟の目が細まり、まるで笑顔を連想させるかのような表情へと変わった。(流石に、やばい。ヤンは我を忘れている。俺がどうにか……)「クソっ……あまり使いたくない手だが」ラルクは脳内で“あるもの”を思い描いた。そして左腕の鋏に、それを合体させるように思考する。それは、鋏に《空気貝》を融合させたイメージだった。貝は、自身が動く際に殻を閉じる衝撃で前進する。その発想から、腕に装着すればジェットスピードで移動できるのではないかと、以前一人で形態変化の練習をしていたものだ。「こいっ! 《空気貝》!」すると、鋏の周囲を囲うように貝が幾重にも重なり、まるで鋏がロケットのように、開いた殻を鋏後方へ向けて装着された。(これなら、間に合うはず!!)――ガカッ、ドヒュン。複数枚の貝が開閉した衝撃で、空間が一瞬波打つ。それと同時に、左鋏腕が前方へ凄まじい勢いで引き出された。ラルクは出力と同時に、怪物へ向かうヤンへと照準を合わせていた。鋏で浮き上がる身体を捻り、もう片方の腕でヤンを掴もうとした、その時だった。「ケキャッッ」怪物は前足を振り上げ、鷲の鉤爪のような鋭い爪をヤンへと伸ばした。ヤンは避けることができず、そのまま串刺しにされる。貫かれ、投げ捨てられた直後、さらに後ろ足で――ズドン、と。身体は無残にも踏み潰され、原形を留めないほどに破壊された。「ヤン……ヤン!!!」あまりに一瞬の出来事だった。戸惑いと涙が止まらず、ラルクはどうしていいかわからなくなる。怪物は楽しげに、大地をドンドンと踏み鳴らしている。その様子があまりに不愉快で、ラルクの心はさらに締め付けられた。「ラルク……」「ヤン! 大丈夫だ、まだ……まだ、なんとか助かるかもしれない! ほら、形態変化すれば自己再生だって――」ラルクは大粒の涙を流しながら、必死に叫ぶ。「それ……は……ムリだ。分かったなら……はやくいけ!」(まったく……お前が努力してるのは知っていたさ。その姿、ものにしたんだな……生きろよ、ラルク……アンナいまいくから……)やが
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第五話 情報共有
ソウは、ラルクの話を聞いて身震いし、悲しい顔を浮かばせた。ゲンとソウは村から離れた場所に住んではいるが、元を辿るとルーツは同じで、たまに遊びに行っていたのだ。そのため、食料調達をする狩人を尊敬しているソウは、ヤンとラルクをおじさんと慕っていたのだ。しかしながら、ヤンとラルクは2人とも老け顔なだけでおじさんではなくまだ二十歳にもなっていない青年である。「ラルクおじさん、それで具合はどう?」「ソウ、あのな、言っとくけどな、俺はおじさんじゃねぇから!」「えー、そうなの?おじさんにしか見えねえけど。」 ソウの一言は、ラルクに違う意味で大ダメージを与えた。その場に消沈するラルクはもう、間抜けの殻だ。「その辺にしとけよ、ソウ。コイツは強いんだ、お前も見習えよ。」「ゲンさん、アンタそれ、何にもフォローしてないから。はー、まあ、少しは喋って気は紛れたよ、ありがとうな。とりあえず、あの怪物がどういう動きをするか、分からない点が多い。幸い奴と出会った距離もここからだと離れてるし、村からも距離はある。それに俺を追わなかった点も気になるし、一旦、ヤンの墓、仲間の墓を立てて弔いたい。」「そうだな、ラルク、一つ聞きたいことがあるんだが、その怪物てのは人型だったか?人の言葉は喋ったのか?」「ゲンさん、いいや知性はあるものの、ヤツは人語は話さない。そして人型かと言われたら、そうとも言えるし違うとも言える。」「なんだ、そりゃ、、どういうことだよ。」「ヤツは4足歩行の生き物と、2足歩行の生き物を足したような姿だ。そして、各部位が複合的な形態をとっていた。あと、あいつは俺たちのことをおもちゃかなんかと思っているように思えた。思い出すだけでむかつくがころすことで愉悦感に浸っていたように思えた。」 ラルクはまがいなりにも狩人であり、ヤンが居なくなった今、彼は変わろうとしていた。いつもは説明をヤンに任せっきりだったラルクは、理解して説明することが狩人にとって大切なことなんだと認識した。現地で起きた事象への理解、認識と解説の齟齬が無いように伝える。これにより狩人の情報共有は、前線で有利になり、狩る対象の難易度を下げる他、こちらの狩る効率化、引いては生存率を大幅に上げるのだ。 しかしながら、あくまで情報であり、こちらの予想を超えてくる場合もある。それが今回の件だった。しかしながら、生存率
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第六話 野営
 ーーソウ一行は村へと歩みはじめていた。「親父ぃ、今こそフライバエの形態変化を使いこなす時が来たようだな! このオレのフライバエを!」「ソウ、お前、切り替えが早すぎねえか。人が死んでるっていうのに……。」「悪いな、ラルク。こいつはこういう奴なんだ。気にしないでくれ。じゃないと、こいつの空元気がバレてしまうからな。まあ、あんまりしみったれるのは俺も好きじゃない。ラルク、お前もあまり思い詰めるなよ。」「ゲンさん、あんたなんか変わったな。その、いい意味でだけど。」「お? そうか。まあ、そりゃこいつの面倒見てたら、大概どうでもよくなるわな。」 ゲンはソウの頭を、わしゃわしゃとガサツに撫でた。「おいっ、クソ親父、やめろよ!」「あっ? 誰がクソ親父だ! このガキャ!」(あー、また始まったよ、この親子。まあ、それだけ仲がいいってことなんだな。) ラルクは二人を俯瞰して見ている。 二人の様子を見ていると、ヤンと馬鹿をやっていた頃のことを思い出した。「にしても、あんたら相も変わらず遅刻するよなあ。まあ、今回はそれが正解だったとは思うが。」 ーー親父、見てろよ。フライバエだ!「わーった、分かった。あとで見るからな。まあ、遅刻したのはそういうことだ。こいつがお寝坊さんだからよ。これからだが、俺らは飛んで向かおうと思うが、お前は飛行能力持ちか?」「ああ。まあ、高度は出ないが一時的には飛ぶことはできる。ただ、エネルギーが足りないな。脳でイメージしようにも疲れが先に出て、頭が痛い。これ以上やると、こっちの身体が持ちそうにない。」「なるほどな。分かった。おい、ソウ! フライバエはやめだ! 歩いて村まで帰るぞ!」「え〜、嘘だろ。掴みかけてたのにー。まあ、仕方ねえか。じゃあ村まで距離あるし、今日は野営する感じ?」「そうだな。俺らが使ってた所まで行くつもりだ。んで、夕方には歩いて着くはずだから、道中は気を付けつつって感じだ。」「ゲンさん、別に俺のこと置いていってもいいんだぜ?」「そういうわけにはいかない。仲間を見捨てるのは御法度だからな。ほら、こんな所でだべってても仕方ねえ。行くぞ、二人とも。」「分かった。迷惑をかける。」「はーい、いきやっせー。」 腑抜けた態度でソウは返事をするが、ゲンは気にも留めず、元いた野営地の方向へと足を伸ばした。 ◇  そし
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第七話 寝坊助
ーー穏やかな風が、新緑の香りを孕んで三人の間を通り抜けていく。 小鳥のさえずりが心地よく響く、清々しい朝。本来ならば、希望に満ちた旅立ちの風景であるはずだった。 だが、その中心で一人だけ、心臓がやかましく警鐘を鳴らしている者がいた。(あ、やべっ。これ、またやらかしたか……? 二人とも、目が笑ってねえ。怒るのやなんだよなー、朝っぱらから……) ソウは、まだ微かに残る睡魔の膜越しに、自分の置かれている絶望的な状況を把握した。 昨晩の情景が、走馬灯のように脳裏をよぎる。焚き火を囲み、干し肉を噛み締めながら交わした熱い作戦会議。「日の出と共に発つ」「起きた順番で互いを叩き起こす」……。指切りこそしなかったが、それは男同士の、否、過酷な冒険に身を投じる者たちの鋼の約束だったはずだ。 しかし今、ソウの視界にあるのは、突き抜けるような青空ではない。 仁王立ちで太陽を背負い、巨大な影を自分に落としている、二人の「激怒した大人」のシルエットだった。 ソウが起きられないのには、実は深刻な(と本人は主張する)理由がある。 彼の寝相は、もはや芸術の域に達していた。朝日が昇り、その光が地を照らし始めると、彼の体はまるで光を拒絶する深海魚のように、無意識のうちに日陰を求めてゴロゴロと転がっていくのだ。今朝もまた、彼は約束の場所から十メートルほど離れた、湿った岩影の窪みにすっぽりと収まっていた。「ソウ。お前……まーたやったな」 ゲンの声は、低く、地を這うような重圧を伴っていた。仁王立ちのまま見下ろすその顔は、逆光で見えない。だが、放たれる殺気だけで、彼がどれほど「待たされた」か、ソウには痛いほど伝わってきた。「ゲンさん、こりゃあ……。昨日あんなに威勢よく『一番に起きてやる』なんて言ってた理由が、ようやく分かった気がするよ。……逃げ足だけは一流、ってことだろ?」 ラルクはやれやれと首を振り、肩をすくめる。その皮肉めいた視線が、ソウの胸に突き刺さる。「何だよ! 二人とも、アンタらはおじさんだから朝が早いんだろ! こっちは育ち盛りなんだよ! 睡眠は成長の糧なんだ、仕方ねえだろ!」 ソウは、半分は寝ぼけ、半分は気まずさからの防衛本能で、起き抜け早々に吠えた。「それに、寝相なんだからどうにも出来ねえし! 勝手に体が動くんだよ、本人の意思は関係ねえんだ!」 逆ギレ気味に言
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第八話 村へ到着
三人は額から汗を流しながら歩いていた。 どうやら野営地からかなり距離を進み、村の近くまで来たようだ。 「あっちぃ……まだ着かねえのかよ、村」 気怠そうにソウが言う。 彼はターバンのような布を頭に巻いて髪を後ろへ流していたが、暑さに耐えきれず、今はそれを手に持って歩いている。逆立っていた蜥蜴のような髪も、汗に負けてぺたりと額に張り付いていた。 「ゲンさん、あとどれくらいかわかりますか?」 ラルクは汗を拭いながら、状況を確かめるように年長者のゲンへ尋ねた。 「さあな。だが……ほら、あそこだ」 ゲンは顎で前方を示す。 「村の周囲に咲く苦花《ニガバナ》が見える。あれが確認できるってことは……おそらく、あと数キロってところだろう」 「おお、あと少しか。早く村に着いて身体を休ませたいな」 ラルクは空を見上げ、期待を込めて軽く伸びをした。 だが、空から降り注ぐ日差しは容赦なく、湿った熱気が肌にまとわりつく。三人は不快感と疲労に苛立ちを募らせながら、それでも「もうすぐ休める」というイメージだけを支えに歩き続けた。 やがて――道が開けた。 これまでは、蔦や地表に張り出した根が行く手を阻む、道とも呼べない悪路だった。だが今、三人は村へと続く、はっきりとした道へと踏み出していた。 「かあ……やっと、着いたか」 ラルクは安堵の息を吐く。同時に、これから村長たちに伝えねばならない事柄を、頭の中で整理し始めていた。 (ヤンのこと……それに、狩りに出た食糧調達の狩猟班が、俺たち三人を残して全滅したこと……言わなきゃならない。 ヤンは、村長にとって大事な孫だ。孫が先に逝ったなんて……どう説明しても、村長の心に深い傷を残す。老体なのに……くそっ。俺があの時、もっと全力でヤンを掴んでいれば……) 「おーい、ラルク? ぼさっとするなよ。老け顔が、さらに老けて見えるぞー」 ソウの声に、ラルクははっとして顔を上げた。 「ああ、悪い。考え事してた」 ソウは目をぱちぱちと瞬かせる。 (……なんか、いつもと反応が違うな。 やっぱり、みんなのこと……特にヤンのこと、考えてたのか。 そうだよな。俺も、ヤンのこと尊敬してたし。猟の策略とか、すげえ丁寧に教えてくれた。親父は戦い方ばっかだったけど……頭使うのも、意外と楽しか
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第九話 村の長
三人は、村長の自宅までやって来た。 村長宅は周囲の住居とは一風変わり、構造からして崩れにくい堅牢な造りをしている。木造ながら重厚感があり、豪華な装飾が施されていた。なぜか扉の横には、村長本人の銅像まで置かれている。「いつ来ても、この家はでけえよなー。あと、この銅像、ほんと趣味悪いよな。」 ソウはそう言いながら、村長の銅像をぺちぺちと叩いて確かめている。「おい、お前。そんなベタベタ銅像触るなよ。」 ラルクは呆れたように言った。 ――コンコン。 ゲンは、相手に聞こえるよう、やや強めに扉をノックした。「爺さん、いるか? 狩猟班遊撃のゲンだ。バガールの件から戻った。いるなら出てきてくれ。」 すると、きぃ……と音を立てて扉が開いた。 いかにもという風貌の白髪の老人が姿を現す。顎髭はぼわっと伸びているが、その佇まいには歴戦を潜り抜けてきた猛者の風格があった。村長は、見た目とは似つかわしくない木製の長いジョウロを、杖代わりにして立っていた。(相変わらず、ヤンの爺さんって変なんだよなぁ。あのジョウロ、本来の使い方で使ってるところ、一度も見たことないし。)「おお、おぬしら帰ってきたのか。ご苦労じゃったな。これで食糧問題も一段落じゃろう。……ん? ゲンよ、久方ぶりじゃのう。童も元気に育っておるようで安心じゃわい。こんな場所でもあれじゃから、どれ、客間でわし自慢の苦花ティーでも飲むか? カカカカカカッ。」 村長は高らかに笑いながら、ジョウロをとん、とん、と地面に打ちつけた。「爺さん、それどころじゃないんだよ。その……や、ヤンが……。」「なんじゃ? 最近目が悪くてのう。ラルクもおったのか。して、ヤンはどこに行ったんじゃ? お前と一緒に狩りに出ておらんかったか?」「だから、そのヤンのことなんだが……。」「なんじゃ、ヤンがどうかしたのか? また悪い癖が出たか。罠を張ってから帰るとか言って、まだ戻っておらんのじゃろ。」 ヤンガは、長い髭をもさもさと撫でながら言った。「……違う。奇妙な怪物が現れて、それで狩猟班のみんながやられた。ヤンも……その犠牲になった。亡骸さえ、持ち帰ることができなかった……。」「……いま、何と言った? それは本当なのじゃな?」「そうだ。現に、我々は編成の異なる三人で、この村に戻ってきたんだ。俺とソウは怪物と直接交戦していないが、こ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第十話 代償
 ――村人たちは、ゲンたちによって大広間の物見台の近くに集められていた。 およそ三百名ほどの村人が物見台を正面にして立ち、その台の上にはゲン、ラルク、ソウ、そして村長であるヤンガの四人が並んでいる。(ザワザワ……ザワザワ……)「一体なんなの? こんな大勢集めて。村長を決めた日の宣誓日以来じゃない? こんなことするなんて。」「なんだってんだ。日も暮れてしまう時間帯だぞ。」「わたしも夕飯の支度をしてたら、あの少年が『おばさん、今から大事な発表があるから物見台に来て。絶対だよ!』って、真剣な眼差しで言うから来てみたのよ。そしたら村のみんながいて、びっくりしたわ。」 村人たちは一体何事かと、不安を口々にしており、事態を飲み込めていない様子の者ばかりだった。 ゲンは、ぱんぱん、と手を叩き、視線を集めた。「みんな、集まってくれてありがとう。今ここに呼んだ理由は、全員に関係することだ。そして、悲しむ者も出るだろう。単刀直入に言う。我ら食糧調達に出た狩猟班は、奇妙な怪物と遭遇した。三班とも全滅状態で、生き残ったのは、おそらく我々三人だけだ。」(!!?) 村人たちは理解が追いつかない様子だった。思考を止める者、驚きを隠せない者、それぞれの顔に疑問と混乱が浮かんでいる。「ゲンの言っておることは本当じゃ。わしの孫、ヤンも、そやつに殺されたのじゃ。」(ザワッ!!) 悲鳴や「信じられない」といった声が、一斉に四人へと向けられる。それも無理はないと、彼ら自身が理解していた。だが、これしか方法はなかった。「私の息子、ジェスは? いないの? ねえ、全滅ってどういうことなの? 捜索したら、いるかもしれないじゃない! 時期尚早すぎるわ!」 母親としての叫びは、あまりにももっともだった。 だが、ゲンが「三班とも全滅」と言った理由がある。 ラルクは知っていた。班長たちは、すでに死んでいる。 ヤンの最愛の人アンナは班を率いており、残る二つの班の班長の頭も、怪物の胴体に乗せられているのを、ラルクはこの目で見ていた。 つまり、あの場にいた者が生き残る可能性は、極めて低い。仮に生き延びていたとしても、食い繋ぐ物資は足りない。集合場所であり緊急避難先でもある二対の巨木に、生存者は現れなかった。帰路でも、誰一人として遭遇していない。 ゲンやラルク、ソウは、道中で仲間の痕跡を探
last updateLast Updated : 2026-07-13
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