Todos os capítulos de 迷宮都市の葬儀人: Capítulo 41 - Capítulo 50

50 Capítulos

第41話 探索

「おやまあ、道に迷いなされたか。村まで戻れて何よりでしたのう」 困惑する二人に、老人は相好を崩してにこにこと笑っている。細まった目にまぶたが垂れ、ほとんど黒目しか見えない。どこか作り物めいた雰囲気を感じる笑顔だった。「このあたりの道は人が歩いたもんと、獣が歩いたもんで入り組んでおりますからのう。霧の中を歩くのは村のもんでも難儀でしてな。無理はなさらず、霧が収まるまで待った方がよいですのう。さ、小屋まで案内しますじゃ」 老人は返事も聞かずに歩き始める。仕方がないので二人もそれに従い、昨晩泊まった小屋へと一旦戻った。「ご老人、霧はいつもどれくらいで収まるんだ?」「1日のこともあれば、10日も続くこともございますなあ。山の天気は読みにくいもんで。ああ、晩の食事も用意しますで、ゆっくりなさってくだせえ」 老人はそう言い残してそう言い残して去っていった。「最大10日か……。そんなのんびりしている暇はないぞ」 サイラスが渋い顔でぼやく。この村で足止めされている間にエンバーとすれ違ってしまったら打つ手がなくなってしまう。「サイラスさん、この霧ってなんかおかしくないですか? 屍喰い蝶はまっすぐ飛んでたはずなのに」 濡れた身体を拭きながら、アイラは素朴な疑問を口にする。「ああ、普通じゃないな。方向感覚が狂わされているのか、あるいは転移でもされているのか……」「魔術的な罠が仕掛けられているってことですか?」「断定はできんがな」 サイラスにせよアイラにせよ魔術の心得はない。聖職者が起こす奇跡と魔術士が扱う魔術は混同されがちだが、実際にはまったく原理を異にするものだ。魔術について表面的には知ってはいるが、魔素を読み取って術式を解明するなどは専門外なのだ。「とはいえ、霧が収まるまでじっと待つって選択肢はないな。これが魔術的なものなら、ずっと晴れない可能性だってある」「黒幕の仕掛けなんでしょうか……」「そうかもしれんし、違うかもしれん」「でも、この辺りには昔から霧が出るんですよね。だとすると村の人たちも巻き込んでしまったことになります」「村人がグルの可能性だってある。何にせよ、推理するには情報が少なすぎる」 サイラスはパイプを咥え、ため息と一緒に紫煙を吐いた。オドゥオールがいればすぐに解決できたかもしれない。アイラと二人だけの追跡は無謀だった
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第42話 葬祭

「今夜は葬式があるのです。よろしければお手伝いいただけませんかのう。人手が足りませんで」 夕食を終えると、老人がこんなことを言い出した。「今日は新月ですよ。なのに葬儀をするんですか?」「ええ、この村のしきたりで」 驚くアイラに、老人はにこにこと満面の笑みを崩さない。 冥府を司る陰神は月の女神でもある。新月には冥府への道が閉ざされ、死者の魂が迷ってしまう。新月の葬儀とは、聖光教会の教えとは真っ向から異なるしきたりだった。「ご宗旨が違いましたかのう。何せ田舎で、町とは色々違いますもんで。無理にとは申しませぬ」「はい、すみませんが――」「世話になってるからな。手伝わせてもらおう」 サイラスはアイラの言葉を遮った。そして小声で耳打ちする。(葬儀を見ればこの村の信仰がわかる。そうなれば霧の魔術を解く手がかりが得られるかもしれん)(あっ、なるほど) 異教の祭儀、それも死者の魂を迷わせる可能性があるものに参加するなど、本来なら聖職者としてするべき行為ではない。だが、サイラスもアイラも原理主義者ではなかった。審問官が居合わせているなら話は別だが。「では、葬式は村の広場でございますので」 二人は暗い霧に溶けそうになる老人の背中を追いかける。濃霧で濡れた地面は少しぬかるんでいて、一歩ごとにびちゃりびちゃりと湿った音を立てる。 広場にはいくつもの松明が灯されていた。揺らめく炎が霧に霞む風景をぼんやりと照らし出している。他の村人はすでに集まっていたようで、十の人影が歪んだ楕円を描いて並んでいた。村人は年老いたものばかりで、深く刻まれた皺が炎で強調されている。「で、俺たちは何を手伝えばいいんだ?」「ああ、そちらに並んでいただければ」「立ってるだけでいいのか?」「ええ、わしらの祈りが終わるまで、ご一緒いただくだけで大丈夫ですじゃ」 二人は老人に指示された場所に立つ。すると村人たちの中央に黒い棺が二つ並んでいるのが見えた。(これってあの祭壇と同じですよね)(ああ、棺の数は違うがな) サイラスとアイラ、そして老人を含めると棺を囲む人数は13になる。これは小屋にあった祭壇の像と同じ数だ。 棺の中には、年老いた男女が横たえられていた。霧のせいか肌はしっとりとしており、死んでいるようには見えない。それどころか、組んだ手を乗せた胸がわずかに上下
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第43話 霧中模索

「何なんですか、あれ!?」「知るか! とにかく逃げるぞ!」 棺から現れた霧に襲われたアイラとサイラスは森の中を駆けていた。道もまた霧が立ち込めており、視界はまともに利かない。木の根や雑草に足を取られながらも必死に走る。「でも、森の中を走っても結局村に戻されちゃうんじゃ……」「ああ、だからひとまずこうする!」 道の先に現れた石像にサイラスが火霊石を投げつける。爆音が轟き、石像の上半身が砕け散った。「この石像が魔法陣か何かを構成している可能性は高いだろ。だから片っ端からぶっ壊す!」「ち、力技……」 アイラは思わずツッコんでしまうが、ひとまず出来そうなことと言えばそれしかないのは否定できない。魔術の心得がない二人では、対抗魔術などのまっとうな手段は取れないのだ。「ああ、これはひどい。骸の王を讃える像を壊しなさるとは。新たな身体をお借りしましたら、最初に石像づくりを致しましょう」 老人の囁きが聞こえた。離れているのに耳元で囁かれているかのようだ。そして霧の中から満面の笑みを浮かべた老人の顔が現れる。「くそっ、もう追いつかれたか」「力技がありなら、こういうのもありですよね!」 アイラが飛び出し、老人の頭に三節棍の一撃を叩き込む。正体は不明だが老人が骸の王にゆかりのある魔のものであることは間違いない。例え人間の姿をしていようとも、そうとわかれば手加減をするアイラではなかった。 三節棍は老人の側頭部に命中し、そのまま撃ち抜く。手応えが妙に軽い。老人の頭が首からちぎれ、地面に落ちて重い音を立てる。「えっ、ちぎれた!?」 頭蓋骨を砕くつもりの容赦ない一撃だったが、いくらなんでも首からちぎれ飛ぶような威力はない。予想もしなかった結果にアイラの動きが一瞬固まる。「馬鹿野郎! ぼうっとするな!」 サイラスに突き飛ばされ、アイラの身体が地面に転がる。先程まで立っていた場所は老人の首から吐き出された紫色の霧によって覆われていた。「おそらく霧が本体だ。肉体を傷つけても意味はねえ」「ほほほ、ご明察でございます。我らは隠者。霧の底に棲まう者。微塵の身体を持ち死を拒絶する者。しかし偉大なる骸の王を讃え言祝ぐには不便な身体でございましてな。まつろわぬ方たちに、せめて肉体だけでも捧げる機会を差し上げているので
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第44話 炎上

 追っ手の目を盗み、サイラスとアイラは村へと戻った。 霧の魔術は空間を捻じ曲げ方向感覚を狂わせるようだが、対象を探知するような効果はないらしい。道中で発見されることはなく、宿として案内された小屋まで無事にたどり着いていた。「まさかここに戻るとはやつらも思わんだろ」「灯台下暗しってやつですね!」「そんなところだ」 サイラスはパイプに火をつけ、一服吹かしてから部屋の隅にある祭壇を指さす。「アイラ、この祭壇だがどう思う?」「どうって言われても……」 黒い棺を囲む13体の木像。木像は村を囲む石像にそっくりだった。いかにも魔術の媒介物らしく見えたのだが、破壊しても霧には変化がなかった。「像じゃない。棺だ」「あっ、棺!」「石像の周辺に棺に当たるものはなかった。もしあの石像がこの祭壇を模したものだとしたら、棺はどこにある?」「石像が囲む中心の場所……あっ!」 そこまで聞いてアイラはハッとする。石像は村を中心として囲んで配置されている。棺に当たるものは村の何処かにあるはずだ。「そうだとして、どうやって探しましょう? 外をうろうろしていたらさすがに見つかっちゃいますよ」「探すんじゃない。向こうから出してもらおうぜ」「えっ、それって……?」 不敵に笑うサイラスの視線の先には、煌々と燃えるストーブがあった。 * * *「む、村が燃えている!?」 森を捜索していた老人たちが村に戻って目にしたのは、赤々と燃え上がる家々だった。サイラスたちを案内した小屋だけではない。老人の家も、村人の家も、鍛冶小屋なども赤い火を吐いて燃え上がっていた。「あの不届き者どもめ!」 老人は激昂する。この村には骸の王から授けられたと伝わる秘宝があるのだ。隠者の魔術の源であるそれが破壊されれば、霧は形を維持できず霧散してしまう。 秘宝を保管しているのは集会所としている最も大きい建物だ。駆けつけると、草葺の屋根が激しく燃え上がり、今にも崩れ落ちそうだ。老人は比較的若い肉体の村人を二体、炎の中に突入させる。 霧の身体は生物を操るが、その性能は肉体に依存する。使い捨てるのは老いた肉体からというのがセオリーだったが、この緊急事態でそんなことは言っていられない。 身体のあちこちに焼き焦げを作りながら、黒い棺を担いだ村人が炎の中から飛
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第45話 対面

 アイラが棺を砕いた瞬間、燃え盛る集会所を囲む村人たちの動きがぴたりと止まった。老人も同様だ。目を見開いたまま固まり、わずかな間に続いて倒れ伏す。首がもぎ取れ、ごろりと転がる。「うおー、あっちい!」 猛火の中からサイラスが飛び出す。その直後、集会所の屋根が崩れ落ちた。「ひゅー、間一髪だな。倒壊に巻き込まれたら<防熱>なんかじゃとても耐えられねえ」「やっぱりこれが魔術の核だったんですね」 アイラは荒い息を吐きながらへたり込んでいた。<聖鎧>はすでに解けており、反動を受けているのだ。<聖鎧>は1分間だけ超人的な戦闘能力を与えるが、時間を過ぎれば強烈な疲労に襲われ、日に1回だけという制限もある。 徐々に辺りが明るくなっていく。燃える家々に照らされているわけではない。光の源は空から降り注いでいる。村を覆う霧が薄くなり、太陽が顔を出していた。猛獣の牙を思わせる山並みがくっきりと浮き上がった。 山の中腹に古城が見えた。尖塔がいくつも設けられ、まるで天に向かって槍を突き立てているようだ。石壁には枯れた木の蔦がびっしりと張っているが、侵食によるひび割れなどは見られなかった。「こんなデカい城がすぐそこにあったのかよ……」 突如として姿を現した巨大な建造物にサイラスは目を丸くする。城まではここから歩いて一刻もかからないだろう。屍喰い蝶を離してみると城の方角へ向かって飛んだ。「ようやくゴールが見えたな」「これを隠すための霧だったんですね」 二人の切り札はアイラの<聖鎧>である。 それを回復させるため、村の焼け跡で一泊してから古城へと続く道を歩みだした。 * * * 古城の門は開け放たれていた。内部に照明はなく、薄暗い空間がぽっかりと口を開けている。ランタンを灯して踏み入ると、埃が舞い上がり黴の臭いが鼻を突く。「エンバーは来ていないようだな」 床に積もった埃に足跡がないことを確認したサイラスが呟く。「普通に考えればそうですが、エンバーさんなら上の階に直接飛び込んだりもしそうじゃないですか?」「あー……否定できんな」 屍喰い蝶は上の方向に飛んでいる。この先に一連の事件の黒幕がいるのであれば、上階のどこかなのだろう。「不死者も足跡を残すとは限らん、か」「あの霧のような怪物がこの城にも潜んでいるかもしれません」「ああ、気を引き締
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第46話 不死の王国

 死霊術師の長い長い語りが始まった。 それは咳混じりでひどく聞きにくいものだったが、昏い情念が滲み出るような語りだった。 * * * ――それは万年の昔に遡る。 一人の男がいた。 男は神の敬虔な信徒で、陽神を敬い、陰神を崇めていた。神をより深く知るために、経典を熱心に研究し、日々祈りを捧げ神との対話を試みた。 何年、何十年とそんな日々を過ごしたが、彼に恩寵が授かることはなかった。神の恩寵がなければ、奇跡の顕現は出来ない。奇跡の強さは信仰の深さに比例すると言われる。男は誰もが認める信仰心を持っていた。だが、なぜか神は男を選ばなかった。 それでも男は信仰を止めなかった。そもそも己の解釈が間違っていたのかもしれないと、より研究にのめり込んだ。経典の外にも知識を求め、医術を学び、錬金術を学び、魔術まで修めた。男は信仰者として以上に賢者として名を高めた。 ある時、ひどい疫病が男の国を襲った。聖職者たちは熱心に祈ったが、癒やしの奇跡もこの病には太刀打ちできなかった。麦の穂が刈られるように人々の命が瞬く間に失われていった。 男の周囲も例外ではなかった。妻と娘が病に斃れた。師や友人を幾人も失くした。家畜も全滅し、財産を失った。男自身も病に冒され、一命を取り留めたものの全身に醜い爛れの跡が残った。男は人目を避け、引きこもって何かの研究に打ち込みはじめた。 疫禍が収まる頃には、国の半分以上が死んでいた。死体は路傍に放置され、それを喰らう禽獣や魔物が街中に蔓延った。神殿を野良犬がうろつき、屋根に蝙蝠が巣を作るほどの荒れようだった。 隣国の王はこれを好機と見た。兼ねてよりこの国の土地を欲していたのだ。隣国とは奉じる神が異なっていた。疫病は彼らの神が齎した奇跡であると喧伝し、すべてを奪い去るべく軍を発した。 隣国の軍は思うままに奪い、犯し、殺した。見目のよい若い女と子どもには首輪をかけて奴隷とした。踏み躙られる民たちは隣国に災いあれと神に祈ったが、それが叶うことはなかった。 半分に減った民のそのまた半分を狩り尽くした頃に、王の軍勢の前に一人の男が現れた。男の顔は醜く爛れ、目は白濁して見えているのかもわからない。歯もほとんどが抜け落ちて、口はぽっかりと空いた黒い穴になっていた。手足は枯れ枝のように細く、その身からは死臭を漂わせていた
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第47話 偽物

 サイラスとアイラは必死の思いで鎖の猛攻を躱していた。外れた鎖が床を叩き、石畳を砕く。こんなものが直撃したらただでは済まない。「おい、エンバー! 正気に戻れ!」「私たちのこと、仲間だって言ったじゃないですか!」 躱しながら、大声で呼びかける。だが、エンバーの表情はまったく動かない。茫洋とした視線もどこを見ているのかわからなかった。「ちっ、エンバー相手じゃいくらなんでもどうにもならん。一旦退くぞ!」「逃がすと思うかね?」 死霊術師が指を鳴らすと、背後の扉がひとりでに閉じられた。アイラが飛び蹴りを入れるがびくともしない。「こうなったら<聖鎧>で……!」「やめとけ! それで突破できなかったら詰みだ!」 切り札を使おうとするアイラをサイラスが止める。<聖鎧>の効果時間が終わればアイラはろくに動けなくなってしまうのだ。「とりあえず、こんなもんでお茶を濁すかね!」 サイラスの手から小壺が投げられた。それは鎖によって迎撃され、空中で砕ける。中身の聖水が撒き散らかされ、エンバーと死霊術師の身体を濡らし、白い煙を上げた。少し遅れて床に散らばったものが沸騰し蒸気が立ち込める。道化師との戦いでも使った聖水の煙幕だ。 視界が遮られたせいか、鎖の動きがでたらめになった。その隙に二人は広間に林立する柱のひとつに身を隠す。「効くとは思えねえが、時間稼ぎにはなったか」 煙幕の中からエンバーが出てくる気配がない。護衛のために死霊術師の側から離れられないのだろう。死霊術師自身に戦闘力はないという見立てには間違いがなさそうだった。「しかし、エンバーはどうしちまったんだ。あの野郎に操られているのか、骸の王の后ってのが本当だったのか……」 サイラスが白髪混じりの頭をかきむしる横で、アイラは口に手を当てて考え込んでいた。つい先程の光景に違和感をおぼえていたのだ。「サイラスさん、あのエンバーさんってひょっとして偽物じゃないですか?」「偽物?」「だって、エンバーさんって聖水効かないですよね。それなのに、さっき聖水がついたら煙が上がってました」 アイラが思い出したのは、メイズ郊外で死体の回収をしていたときのことだ。不死者が嫌うはずの聖水を、エンバーは平然と扱っていた。「偽物なら、本物のエンバーさんほど強くはないかもしれません」「それなら一丁試してみるか」 サイラスが柱
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第48話 悪魔

 獣が咆哮した。 山羊頭の巨人の手のひらには、偽エンバーの身体が載せられていた。その身体はあちこちが折れ曲がり、頭部が半分潰れて脳漿がこぼれていた。もう片手には、やはり壊れた人形のようになっている死霊術師の細く枯れた身体があった。「よくも……よくも……我が女帝を! 我が肉体を! 我が秘術を持ってひき肉に変えてくれる!」 山羊の口が開いた。赤黒い口腔には無数の臼歯が螺旋を描いてびっしりと生えており、薔薇の花びらを連想させた。女帝と死霊術師の身体がその中に放り込まれ、ぼりぼりびちゃびちゃと噛み砕かれる。「この身は悪魔! 我が作りし魂の器の中で最も頑健! 最も剛力! 貴様らもすり潰して、この身の血肉に変えてくれる!」「あらら、ジジイの身体を捨てたら途端に元気じゃねーの」「なおも愚弄するか! 儂の肉体には無数の魔導印を刻んでおったのだ! 魔術の深奥を知らぬ愚昧な虫けらどもにその価値は永遠に知れまい!」 悪魔の拳が振り下ろされ、石畳が円形に陥没し、砕け散る。サイラスとアイラは左右に飛んでそれを躱した。「なんつー馬鹿力だ」「でも、遅いです!」 振り下ろされた拳をサイラスが小剣で斬りつける。アイラは懐に飛び込み、三節棍で脛を打って離脱する。悪魔が攻撃し、それを躱して反撃する。そんな単調なやり取りが何度も繰り返される。「虫けらども無駄な足掻きを!」 悪魔は激昂し、攻撃が激しくなる。しかし大振りな攻撃は読みやすく、サイラスもアイラも当たる気がまるでしなかった。「こいつ、体術はまるきり素人だな」「不死者を顎で使って、自分はろくに動かなかったんでしょうね」 しかし、サイラスたちの攻撃も効いている気配がない。小剣は切り傷ひとつ、三節棍も痣ひとつ残せない。こうなると不利なのはサイラスたちの方だ。不死者に疲労はない。持久戦となればやがてジリ貧となるのは目に見えている。「ふざけおって……! ならば分けた魂をさらに戻す!」 悪魔はもともと空だった。いまは死霊術師と女帝に宿した二つの魂を統合して収めているが、悪魔の性能を引き出すにはそれだけでは足らない。 分けた魂は自身を含めて十三。道
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第49話 圧倒

「おお、骸の王の后よ! ついにお目にかかれるとは!」「后ではない」 エンバーが棺を引きずりながら、山羊頭の巨人に近づいていく。しかし、その背には常とは異なるものも背負われていた。「サイラスさん……あれってもしかして……?」「ああ、たぶんそういうことだろうな……」 アイラとサイラスはエンバーの背中を見た。そこには、老若男女、そして異形を含んだ7つの生首が鎖に絡んで吊り下げられている。それらは苦悶の表情を浮かべ、瞬きをし、口を歪めている。まだ生きているのだ。「そ、それは我が魂の片割れ!? なぜ貴女がそれを!?」「狩ってきた。お前が最後だ」 エンバーが無造作に前蹴りを繰り出す。悪魔の片膝が逆に折れ曲がり、鮮血を吹き出し白い骨が露出する。「どうやってそんなことが……」「分かれた魂は引かれ合う」 悪魔は片膝を付いていた。それはまるで、貴人に対して跪いているかのように見えた。「フハ、フハハハハ! 分命の術にはそんな秘密もございましたのか! ああ、偉大なる骸の王よ! 御身の后よりまた新たな智慧を頂戴しました!」「后ではないと言っている」 悪魔の額に、エンバーの白い手が添えられる。エンバーと同じ大きさはある山羊頭がゆっくりと下がり、地面に押し付けられる。悪魔ははっはっと荒い息を吐いていた。エンバーの剛力に抵抗しているのだが、それはまるで従順な犬が主人に伏せをしているようで滑稽な有り様になっていた。「骸の王はどこにいる?」 エンバーは悪魔に問うた。墓場に吹く風のような冷たい声だった。「后が知らず、私めなどが存じ上げる道理がありましょうか。王の后よ、御身こそ骸の王がいずこにおられるか……」「后ではないと言っている」 悪魔の頭が床に押し付けられる。石畳にびしりと罅が走った。山羊の眼球が半ば飛び出し、血の涙が溢れ出す。「き、后よ。御身は骸の王に后となるべく創られたのでは……」「そうだ」 ごきり、と鈍い音がする。山羊の口腔からもどす黒い血が溢れ出した。エンバーの圧力によって歯が砕けたのだろう。「わ、わからぬ。わかりませぬ……。御身は骸の王の后なのでは……」「違う」 ごきり、ごきり、ごきり、鈍い音
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最終話 二人は幸せなキスをして終了

 Ding-dong、Ding-dongと教会の鐘が高らかに謡う。人々が教会の前に集い、新たな門出を迎える二人を祝っていた。 一人は長身の女。今日ばかりは黒い外套ではなく、白無垢のドレスを身にまとっている。頭には銀製のティアラが載っているが、腰まで伸びる銀髪の方がそれよりもなお美しい。長いまつげに縁取られた瞳は真珠のようで、茫洋としてどこを見ているのかわからなかった。 一人は白髪混じりの短髪の男。決して背が低いわけではないのだが、女と並ぶと小男に見えてしまう。目の下には濃い隈ができ、頬はげっそりとこけていた。口さがないものが見れば「死相が出ている」とでも評しただろう。「まさかサイラスさんとエンバー師匠が結婚するなんて……」 目の前の光景に呆然としているのはオドゥオールだった。エンバーを高位の魔術師と誤解し、教えを請ううちにいつの間にかエンバーを師匠と呼ぶようになっていた。結局何も教えてもらえてはいないのだが、あの超然とした態度を崩さないエンバーが結婚などという俗事に関わるとは信じられなかったのだ。「あー、もしかしてショック受けてんの? ウケるー。誰がどう見たってあの二人は事実婚状態だったじゃん」 そんなオドゥオールをからかうのはツバキだった。ツバキはツバキで盛大に誤解をしているのだが、それを否定する者はここにはいなかった。「俺も未だに信じられんがな……」 濃い髭をしごきながら呟いたのはゴゴロガだった。サイラスとエンバーとは二十年来の付き合いだが、二人の関係が只事ではないことは気づいていても、それが色恋沙汰とは到底思えなかったのだ。 そんな二人に、ツバキはあからさまにため息を吐いてみせる。「はあ、これだから男どもは。ね、アイラだってわかってたでしょ」「あ、ははは。どうですかね。お二人とも仕事とプライベートは分けるタイプだったので……」「えー、アイラちゃんもお子ちゃまだなあ。そんなじゃ嫁き遅れちゃうぞ」「は、はは、そ、そうですね」 冷や汗をかきながら応えるのはアイラだった。 この結婚の発案者はアイラだったのである。エンバーが骸の王の后ではないことを証明するには、別の誰かと結婚すればよいと言ったのだ。そんなのは承知するわけがないとサイラスは呆れたのだが、試しに尋ねてみるとあっさりと「わかった」と了
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