All Chapters of わたしといっしょにうたおうよ! ~歌姫を目指す猫少女の百合恋愛物語~: Chapter 21 - Chapter 30

30 Chapters

わたしといっしょにうたおうよ!㉑

「ふう。うまくいったからよかったけど、歌で代りにとか言い出した時には、何を言い出すのかとびっくりしたわ」 石畳を歩いていると、カンナから先ほどの無茶について抗議を受ける。「いやー、あれで駄目だったら、カンナが何とかしてくれると思ってた。カンナ、頭いいもん」「あっきれた。アメリって本当に物事をいい方にしか考えないのね」 分かっていたけど、という風にカンナが溜息をつく。「二人とも、ありがとうね」「いえいえ、そんな」「私なんて、ただ居ただけですし」 おばさんの感謝の言葉に謙遜する。 私たちは、道中他愛もない会話をしながら、ゆっくりクロの家に向かった。 そして、夜会の日が来た。エントリー記入机でずっと待っているが、クロはまだ来ない。鍵の交換は見届けたが、今日は念のため、カンナにクロの家に行って貰っている。「間もなく締め切りですよ」 係員が私に告げる。「あとちょっと待ってください!」 私は、必死に待ってもらう。「クロ様、まだ来ないの?」 出場まで暇を持て余しているミケが、私に心配そうに訊いてきた。相変わらず、ひよこのようにノラがちょこちょこ後を付いている。「治るのが少し遅れてるのかも」 額に滲む嫌な汗をぬぐいながら、ミケに応える。クロの声が治るまでに多少の誤差はあるのだろう。そう思いたい。私たちはじりじりとクロを待った。「アメリさん、本当に締め切りたいんですけど」「……分かりました」 エントリーシートの末尾にアメリ、と走り書きをする。エントリーが締め切られたアナウンスが会場に流れ、一番手の歌手が紹介されて、歌い始める。私は意気消沈しながら、なんとなくミケと一緒に控室に入った。「あれ? クロは?」 先に入っていたユキが訊いてくる。クロの呼び方がずいぶんフランクになっているが、これはこの間の留守番でかなり親しくなったためだろう。 私は黙って、首を横に振った。「駄目かー」 ユキたちがお揃いで溜息をつく。「クミも、クロお姉ちゃんとお話してみたかったなぁ」「今まで、夜会ではろくに挨拶も交わしていなかったものねえ。何か近寄りがたい雰囲気があって。実際は、結構取っつきやすかったけど」 サツキがクミの頭を撫でながら言う。「とりあえず、ミケはミケのステージを頑張るだけだわ。クロ様が戻って来た時に、隣に立てる資格を手に入れないと」「
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉒

「今晩は。まりあさん居ますか」「ここに居るわよ。今日は何のご用かしら?」 問題を抱えた時に訪ねると、まりあさんがいつもいてくれる。こんなに心強いことはない。「あの、まりあさん。まずはこれを返しに来ました」 私はまりあさんに歩み寄って、薬のチューブを渡す。「役に立ったようでなによりだわ」 まりあさんは、チューブを微笑んで受け取る。「それで、あの……前に話した、声の出なくなった『友達』のこと、憶えてますか?」「ええ、良く憶えているわよ」「友達の声が、まだ戻らないんです。私もう、どうしてあげたらいいのか分からなくて……!」 私は、真剣にまりあさんに訴えかけた。「もっと心を安らかにして。あなたまで疲れてしまっては、元も子もないわ」 まりあさんが、優しく私の頭を撫でてくれる。思わず、涙が零れそうになった。「そうだ。ちょっと待っていてね」 そう言ってまりあさんは奥に引っ込み、少しすると何かを持って戻って来た。それは、ハーモニカだった。「まりあさん、それは?」「妹の形見。これを、あなたのお友達に受け取ってほしいの」 まりあさんが、ハーモニカを差し出して、私に頼んできた。「まりあさん、形見って……! いけません、そんな大切な物!」 私は、まりあさんの申し出を慌てて断った。「いいの。あなたのお友達は、音と共に生きる猫。せめて、このハーモニカを吹くことで心を癒してほしい。天に召されたあの子も、ただ、思い出にしているより、誰かの役に立つことを喜ぶわ」「まりあさん……。分かりました、妹さんの形見、友達に渡します」 こうまで言われては、まりあさんの申し出を受けないわけにはいかない。私は、ハーモニカを受け取り、深々と礼をする。まりあさんが、私やカンナにとても優しい理由がよく分かった。まりあさんの優しさは、神の愛に生きているからだけじゃない。私ぐらいの歳の女の子に、妹さんの面影を重ねてしまうのだ、きっと。「ただいま。クロ、まりあさんから大切なプレゼントがあるよ」 いつものノックでカンナに中に入れてもらうと、クロに声をかけた。クロは体育座りのまま、ゆっくりと生気のない視線をこちらに巡らせた。私は、クロの目の前で屈み、ハーモニカを差し出す。「まりあさんの、妹さんの形見なんだって。このハーモニカを吹くことで、心を癒してほしいって、まりあさん言ってた
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉓

 プログラムは順調に進んで行き、私たちの一番手のミケがステージから戻って来た。「ねえ、訊きたいことがあるんだけど」「点数以外のことなら何でもどうぞ」 ミケは例によって尻尾を振っている。「不審な客っていなかった? この間の、あのおじさんみたいな――」「ミケはあなたたちと違って振り付けするから、客席なんて見てる余裕ないわよ。先に言ってくれれば、始まりや終わりにちらっと見るぐらいはできたかもだけど」「そうだね、ごめん」「じゃあ、もうすぐ出番だし、私たちが見てこようか?」「お願い」 ユキたちに監視を任せる。「いるね。キナ臭いのが十何人も」 ステージから戻って来たユキが、開口一番こう告げた。「黒スーツで、いかにもその筋っぽい連中でしたわ」 カクテルの顔が深刻だ。「そう、ありがとう。何も起こらないといいんだけど……」 背筋に嫌なものが走る。もうすぐ大トリ、私の番だ。 アナウンスに迎えられて、ステージに上がる。本当だ。ガラの悪そうなのが結構いる。なるほど、この二週間何もしてこないと思ったら、仲間を集めてたのか。『ねえ――』 イントロが終わり、歌い始めようとした刹那、何かが私めがけて飛んで来た。 火の点いた瓶!! 私は、とっさに大きく飛び退いた。私の居た場所で瓶が破裂し、中の液体が一気に炎上する。火炎瓶だ!「お嬢さんを出せコラァ!」 やくざ者の怒号とともに、あちこちで炎上が起こる。観客席は阿鼻叫喚だった。大会中止のアナウンスが流される。酷い! こんなことしても、クロの心は離れていくだけなのに。これじゃクロの声も治るに治らない。 とにかく、ステージ上にいては危ない。私は奥に引っ込むと同時に、猫の社会に警察とかいうものがないことを呪った。 あのおじさん、いや、クロに倣って私もあの男と呼ぼう――は会場にいただろうか。控室を覗いて見たが、誰もいない。カクテルやミケたちは無事だろうか。特に子供のクミが心配だ。 耳が後ろに向き、尻尾がアーチ状に曲がり、毛が逆立つ。私が誰かをこんなに憎むなんて、生まれて初めてだ。 ともかくも、ここにやくざ者たちが流れ込んできたら危ない。私も早く外に出ないと。 ステージ施設を出ると、絶叫や悲鳴があちこちから聞こえてきた。ステージ前面のあたりでは、ところどころでまだ火が勢い良く燃えている。「ミケ! ノラ! カ
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉔

「おら、出てこい!」 クロの家の下に着くと、見覚えのある後姿が手下二人と一緒に、ドアを狂ったように蹴っていた。おそらく、ピッキングが効かなくなったので、古くなっているドアを蹴破ろうという魂胆なのだろう。止めなければ! 私はヤスさんたちと急いで階段を駆け上がる。先頭を駆け昇っていたヤスさんが二階に着くと、不意打ちでショルダータックルをかけ、ドア蹴りに夢中になっていた三人を、まとめて吹き飛ばした。すごい。シュンさんとゴローさんも、ヤスさんに続いて押さえ込みにかかる。「くそ! てめえら何しやがる! 他人の家庭の問題に首突っ込むんじゃねえ!」「クロやおばさんが、どれだけ嫌がってるかわからないの!? 夜会でみんなに、火炎瓶まで放り投げて! 何考えてんのよ!!」「餓鬼が、やかましい! 俺がもっと大きくなるには、クロの力が必要なんだよ! 親に尽くすのが子の役目ってもんだろうが!」 ああ、コイツはもうだめだ。子供を愛すべき対象でなく、支配の対象としてしか見ていない。暖簾に腕押しだ。私は、これ以上の問答は諦めて、こんこん、こ、こんこんとドアをノックした。「カンナ、クロ、おばさん、私だよ。大家さんが貸してくれた用心棒が、ドアの前にいた三人を押さえつけてくれてる」「アメリ……。私、怖かった!」 カンナの泣きそうな声が聞こえる。余程心細かったのだろう。「もう大丈夫だからね」 ベランダは狭い。加勢しようにも私の入り込むスペースがない。カンナたちを安心させることに注力した。 どのぐらいの時間、そうやって拮抗していただろう。眼下に広がる光景を見て、私は言い放った。「おじさん、私たちの勝ちだよ。もう逃がさない。クロたちも、出てきて大丈夫だよ」 あの男も、首を伸ばして、階下の様子を見た。そこには、ミケとノラ、カクテルに率いられた、大家さんの部下たちが十数人集結していた。クミは、部下の一人に負ぶわれている。「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!!」 あの男は、最後の力を振り絞ると、ヤスさんを跳ね除け、階段へ向かって驀進した。「俺はもっと大きくなるんだ! 街角のチンピラで終わってたまるかよ!!」 しかし、廊下に差し掛かったところで足がもつれた。悲鳴を上げながら、階段を転げ落ちる。ぐしゃっという鈍い音がして、それきり静かになった。 私は、恐る恐るあの男に近づいてみた。
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉕

「みんな聞いて! クロの声が戻ったの!」 何となくアンニュイな空気を払うべく、私は階下に降りて、吉報をミケたちに知らせた。「よかったね、クロ!」「クロ様、本当ですか!?」「クロ、マジ!?」「おお、イッツ・ミラクル!」「驚きですわ!」「クロお姉ちゃんのお歌聴かせて!」 カンナとミケとカクテルが、クロに一気に迫る。「ちょっと! そんなに一気に言われても」 一斉攻撃に気圧されるクロ。クロのひと声に、「おおっ」とざわめきが起こる。「ねえ、せっかくだから、祝賀会を開かない? クロの声が戻ったことを記念して」 クロが困っているようなので、私が仕切ってしまおう。「さんせーい!」「クミ、おやついっぱいもってきたよー!」「あ、またそんなにおやつばかりバッグに詰め込んで!」 みなの足は、自然とクロ家へと向かった。 狭い。さすがにクロの家に十人は狭い。狭いところは大好きだけど、ちょっと限度というものがある。かと言って、他にいい場所もなく。ユキはクミを膝の上に乗せて、スペースを作っている。私とカンナも、寄り添って密着する。いくらカンナが好きでも、夏場だったらたまらないな、これ。ミケとノラも、同様に寄り添う。みんなの真ん中には、ちゃぶ台と、その上にクミがバッグから出したお菓子が並んでいる。「えー……、みなさまには、交代での護衛などのご助力をいただくうちに、この度めでたく声が出るようになりました。厚く御礼申し上げます」 クロが妙に畏まった挨拶をする。こいうとき、どういう態度を取ればいいのか分からないのだろう。仲間内なんだから、もっと自然体でいいのに。 祝賀会は、粛々と進んでいった。まあ、何だかんだでついさっき人死にが出たわけで、あんな男でもどんちゃん騒ぎはどうかと思う。クロも、バカ騒ぎはあまり好きではないようなので、これでいいのかもしれない。「そうだ。アメリ、もう私には必要ないから。まりあさんに返してあげて。とても感謝しているって伝えてちょうだい」 クロは、ハーモニカをポケットから取り出し、私に手渡した。「うん、分かった。きちんと伝えるよ」「ねえ、クロお姉ちゃん。お歌うたってよ!」 クミからリクエストが飛ぶ。 クロも、ずっと歌いたかったのだろう。照れくさそうに立ち上がる。「じゃあ、久しぶりに『ライジング・バード』を」 クロが歌い始めると
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉖

★ ミケ編 ★「ミケ、ノラちゃんが来てるわよ」 クロ様の祝賀会の翌日、ミケはママの声に起こされた。窓の外を見ると、まだ太陽が夕日にもなっていない。ノラと一緒に歌の練習に行くのが習慣だけど、何だってこんなに早く。「用意があるから、少し応接間で待たせておいて」 ミケはママにそう応えると、あくびを噛み殺して、ぬいぐるみでたくさんの、我ながら少女趣味丸出しの自室で、いつものフリフリの服に着替えを済ませ、ハンドバッグ片手にフローリングを歩いて階下に降りていき、洗面所で洗顔と歯磨きと髪の整えを済ませる。軽くお化粧を済ませると、応接間へ向かった。 応接間はゆったりしたソファとガラスのテーブルがあり、それぞれの面には、ママの用意してくれた紅茶が乗っていた。たっぷりのミルクに、角砂糖二つを入れて飲むのがミケの好みだ。「おはよう、ノラ」「あ、おはよう、ミケちゃん!」 いつも、おどおどしている感じのノラだけど、今日は一段と落ち着きがない。それに、着ている服に何やら妙な気合いを感じる。ミケの趣味に併せてか、ノラもフリフリだ。「歌の練習ね。なんでこんなに早く来たのか分からないけど、お茶を飲んだら出発しましょう」 いつもノラがお弁当を作って来るので、朝食は食べずに出ていくのが習慣だ。「あの、その、今日はそうじゃなくて……」「練習じゃないなら何なのよ」 やっぱり様子がおかしい。「デ、デート……しようかなって……」 ミケは、危うく口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。激しくむせてしまう。まさか、あの奥手なノラが、デートを切り出してくるなんて!「ミケちゃん大丈夫!?」  ノラが慌ててミケの背後に回ってきて、背中をさする。「何を言い出すのよ、突然!」 何とか呼吸を整えながら、ノラの様子を見ると、顔面を真っ赤にして俯き、両手の指を所在無げに組み合わせてもて遊んでいる。どうやら、本気のようだ。「駄目……かな?」 仔猫のような瞳でじっとミケを見つめてくる。ミケは、ノラのこの視線に弱い。 でも、昨日のクロ様の進化を目の当たりにして、焦る気持ちがあるのも事実。このままでは、どんどん差が開く一方だ。できるなら、寝る間も惜しんで練習に打ち込みたい。 しかし、心の奥底で、この間のアメリの「私と同じ失敗をしないで」という言葉がリフレインする。 すべてを犠牲にして歌に打ち
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉗

 さて、これからどうしよう。歌の特訓を始めてもいいけど、今日はなんとなく余韻を大切にしたい。そんな気分にさせられた。 そんなわけで、二人で、公園の遊歩道をぶらぶらして余韻を楽しんでいると、見知った姿にばったり出くわした。「あ、居た!」「何よ突然、大声出して」 カクテルのユキだ。ミケたちを見つけると、大声を出して駆け寄ってきた。「だって、銅像前にもステージにもいないんだもん。手分けして、公園中探し回っちゃったよ。ステージ前で落ち合うことになってるんだ。良かったら、付いてきてくれない? 大事なお願いがあるんだ」 ユキが手を合わせて、拝み倒してくる。カクテルがミケにお願い? どういう風の吹き回しだろう。気になるといえば、気になる。「OK、話を聞かせてもらうわ」 せっかくの余韻を、台無しにされたのはちょっと腹が立つけど、好奇心が上回った。「ノラはどうする?」「私も、ミケちゃんと一緒に行くわ」 着いたステージでは、クロ様とアメリが歌の練習をしていた。よくよく聞いてると、アメリの歌声が何か物足りない。もちろん、その原因はクロ様の歌が進化したせいだ。 ステージの周りには、ところどころ焦げ跡が見られた。昨日の火炎瓶の傷跡だ。見ていて少し、悲しい気持ちになった。「ミケ、ノラ、今晩は。よかったね、ミケ見つかったんだ」「今晩は」 休憩に入ったアメリとクロ様が、ステージ上から挨拶してくる。カンナの姿は見えない。ユキとはすでに挨拶済みなようだった。「今晩は。何だか、カクテルがミケにお願いがあるらしくて」「それで探してたんだ。でも、カクテルがミケにお願いって珍しいね」 やっぱり、アメリもそう思うか。「で、お願いって何?」「あ、それはみんなが集合してからで。そろそろ戻ってくると思うから」 ユキの言う通り、ほどなくして、サツキに連れられたクミと、ユカリが別方角からやって来た。「あー、よかった。ユキが見つけてくれたのね」「くたくたですわ」「ミケお姉ちゃん、今晩はー」 それぞれ、軽く挨拶を済ませる。「さて、今度こそお願いとやらを聞かせてほしいんだけど」「うん、あのね。振り付けを教えてほしいの」 歌いながらの振り付けは、夜会で唯一、ミケだけがやるパフォーマンスだ。「でも、振り付けても夜会では得点にならないわよ?」「知ってる。でも、得点なんかど
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉘

 ミケのホームグラウンドの銅像前で早速互いのテクニックを教え合おうとしたものの、先ほど互いに言い合った「教えるのが下手」ということが、早速謙遜でも何でもないことが判明する。 仕方ないので、ミケは歌いながら、パートごとに動きをゆっくり見せていくことにした。「へええ~! よく考えられてるんだねえ!」「とりあえず、取り入れられそうなのから取り入れてみましょうよ」「そうですわね」「クミ、くるくる~って回るのやりたい!」 早速、四人組はどうやって動きを取り入れるかを相談し始める。ミケは、今のうちにノラの差し入れてくれたスポーツドリンクとバナナで水分と体力を回復する。 ノラと一緒にベンチに腰掛け、手を繋ぎながらカクテルを眺めていると、彼女たちは歌いながら振り付けをし始めた。はっきりいてたどたどしいし、動きがばらばらだけど、十回、二十回とこなすうちに、少しずつ形になり始める。次の夜会には、結構な振り付けが見られるかも知れない。「ノって来たとこ悪いんだけど、そろそろミケに歌を教えてもらえないかしら」「あ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃって」「でも、歌はどうしますの?」「ミケお姉ちゃん、私たちの歌、歌える? 歌詞カード出そうか?」「そうね。歌詞カードがあるのなら、あなたたちの歌でいいわ。ただし、振り付けの練習は禁止。ミケは歌に集中したいから」「オッケー」「了解ですわ」「いいよー」「というわけで、異存なし。ミケの声質だと、クミと同じ高音パートだね」 こうして、ついにカクテルと歌うこととなった。アメリは、彼女たちから何を掴んだのだろうか。『夜空に 星が 輝く ジュエリー・スカイ。歌を歌おうよ あの空に響かせようよ 空はどこまでもつながっているから』 最初は上手く歌えなかったけど、だんだんと慣れてくる。そして、慣れてくると、観察する余裕が出てくる。 カクテルを観察していると、歌うことそのものがとても楽しそうであることがよく分かる。 そういえばミケは、楽しく歌ったことがなかった。ミケにとって歌は、常に挑戦だった。どうしても打ち破れない得点の壁にいつもイライラしていて、口さがないアンチから付けられたあだ名が『尻尾振りのミケ』。 今日、ミケはノラのおかげで新しい世界が開けた。だから、色んなものを吸収していこう。彼女たちの「歌うのが楽しい」という想
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉙

★ クロ編 ★ 次がカクテルの出番であることを告げるアナウンスが流れる。「お。そんじゃー、行って来ます!」 ユキが私たちに敬礼して、意気揚々と仲間とともにステージへ向かう。「そういえばアメリ、最近カンナを見かけないけどどうしたの?」「ああ、ちょっとね」 アメリが答えをはぐらかす。彼女が隠し事をするなんて珍しい。ちょっと顔が寂しそうだ。あまり追及しない方がいいのかも知れない。 それにしても、アメリは不思議な猫だ。 ミケはあんなに性格が丸かっただろうか? 前の夜会での、アメリとのやりとりから、急に人柄が丸くなった気がする。 隣町の片隅に埋もれていたカクテルも、アメリと出会ってこの街で脚光を浴びることとなった。 そして、何より変わったのが私だ。歌しか友達が居なかった私が、アメリとの出会いを通じて、たくさんの友人に恵まれた。声が出なくなった時、アメリの尽力がどれほど心強かったか分からない。 アメリは、みんなの幸福の招き猫だ。 声が戻った日の夜、私は自分の歌が新たな地平を切り開いたのを実感した。それは、再び歌えるようになった喜びと、恋。 私は、アメリに恋してしまったようだ。でも、アメリにはすでにカンナがいる。私は、カンナを裏切れない。二人の関係を踏みにじることができない。苦しい。恋って、こんなに苦しいものだったんだ。どきどきする以上に心が苦しい。「クロ、出番だよ」 私は、アメリに揺さぶられて我に返った。出場アナウンスにまったく気が付かなかったらしい。いつの間にか、カクテルも戻って来ている。「ごめんなさい。行きましょう」 私とアメリはステージに向かった。 私たちが姿を現すと、会場は割れんばかりの喝采に包まれた。ミケの九九点でテンションが上がっていることと、私の復帰。また、前回あの男のせいで台無しになってしまったというアメリの歌が聴けるということなど、様々な要因があるのだろう。 紹介が終わり、イントロが流れる。『ねえ手を取って 私と一緒に歌おうよ みんなで歌おうよ あなたの優しさが好き みんなの笑顔が好き。 手を合わせて 顔見合わせて 一緒に歌おう さあのびやかに さあ高らかに』 私たちが歌い始めると、それまでの熱狂が嘘のようにしんと収まってしまった。驕りでも何でもなく、聴衆が私の歌に聴き惚れているのが実感として分かる。私の歌を聴き逃
last updateLast Updated : 2026-07-16
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わたしといっしょにうたおうよ!㉚

★ アメリ編 ★「とうとう今日、行ってしまうのね。寂しくなるわ」 翌日の夕方、いつもの教会で、私とカンナはキャリーバッグを手に、まりあさんと最後の挨拶をしていた。「はい。あ、これクロから返すように頼まれました。とても感謝していると伝えてほしいって」「ありがとう」 ハーモニカを差し出すと、まりあさんは妹の形見を愛おしそうに受け取った。「お花のこと、お願いします」「ええ、任せてちょうだい」 カンナの育てていた花は、植え替えてまりあさんたちが面倒を見てくれることになった。植え替えはもう済ませてある。「他のみんなには挨拶はしたの?」「いいえ。クロとまりあさんだけです。寂しくなってしまうので。本当はクロにも黙って行きたかったんですけど、それでは迷惑をかけてしまうので」「そう」「じゃあ、まりあさん。私たちはこれで」「待って」 踵を返して旅立とうとしたところに、まりあさんが待ったをかけてきた。「あなたたちに祝福を。あなたたちの旅が幸多からんことを、アーメン」 まりあさんが十字を切る。「ありがとうございます。それではまた、いつか会いましょう」 私たちはまりあさんに会釈して、教会を去った。「ね、アメリ。どこへ行く?」「南へ! 暖かいところに行こう!」 二人で歩きながら、ノリと勢いで行先を決める。 私たちは、様々な街を巡り歩いた。色んな人《猫》々と出会い、そして別れた。 あの街のように、歌の大会を開いている街がいくつかあった。その中には、ミケのような振り付けを重視する街もあった。あるいは、楽器の演奏も自分でやらなければいけないところや、歌ではなく、ダンスの腕前を競っている街もあった。 そういった街に入る度に、イベントに参加して、行きずりの友人を増やした。歌オンリーのイベントでは、高い評価を得たけど、動きが入ると途端に厳しい。 世界は広い。学ぶ事だらけだ。 そんな放浪のある日、私は「あっ」と叫んだ。「どうしたの、アメリ?」「あ、ううん。何でもないよ、行こう」 それは、とても良く見知った、懐かしい人間だった。 でも、私はカンナと共に生きると決めたんだ。さようなら、ご主人様。私は、心の中で決別を告げた。首輪と首の鈴、ご主人様との絆はこれだけでいい。「私と一緒に歌おうよ!」 今日もどこかの街で、私の歌声が響き渡る――。
last updateLast Updated : 2026-07-16
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