いつものように、茜は客室のドアを大きな音を立てて閉めた。わざとやっているのが分かっている。俺が折れて、彼女のもとへ謝りに行くのを待っているのだ。けれど、俺はソファに座ったまま、微動だにしなかった。しかも、昔のように悔しさに涙をこぼすことも、焦りで胸を締めつけられることもなかった。ただ、ふと……こんな生活に疲れてしまったのだと思った。自分が何も悪いことをしていないのに、逆に捨てられた犬みたいに彼女の機嫌をうかがい、許しを乞うなんて。豪邸のリビングの冷房は十分に効いていた。それでも、テーブルの上に置かれたアイスクリームケーキは少しずつ溶け始めていた。まるで、俺と茜の夫婦関係のようだった。どれだけ必死に繋ぎ止めようとしても、俺たちの間にできた亀裂は、少しずつ増えていくばかりだった。俺は指先で溶けかけたアイスをすくい、口に運んだ。甘ったるい味は、胸の奥に広がる苦しさを少しも和らげてはくれなかった。俺と茜が結婚して、3年目になった。1年目の誕生日、彼女は会社に泊まり込み、徹のミスした企画書を徹夜で修正していた。2年目の誕生日当日、彼女は徹に付き添って、隣町への出張に行った。そして今年、彼女はまた、徹からの一本の電話で、俺一人を大雨の中に置き去りにした。ぼんやりと物思いに耽っていると、突然、客室のドアが開いた。こちらへ歩いてくる茜の姿を見た瞬間、胸が大きく跳ねた。俺の口元にまだ少しアイスがついていることに気づくと、茜は困ったように小さくため息をついた。そしてティッシュを取り出し、優しく拭ってくれた。「あなた、ごめんなさい。さっきは頭に血が上って、言い過ぎた。あなたが焼きもち焼きなのは分かってるわ。これからは仕事以外で徹と二人で会うことは、できるだけ控えるから」その言葉を聞いた瞬間、3年間溜め込んできた感情が一気に溢れそうになった。目頭が少し熱くなってる。茜が自分から歩み寄ってくれたのは、これが初めてだった。けれど、俺が口を開く前に、彼女は続けた。「今日、徹を病院へ連れて行ったところを誰かに撮られて、会社のチャットグループに流されたの。今、社内では徹が人の家庭を壊した不倫相手みたいに言われてるよ。徹は怪我したのに、私たちのことで巻き込まれて……だからお願い、会社のチャットグ
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