いつものように洗濯物を干そうとベランダに出た時だった。 ほとんど同じタイミングでお隣の木井さんもベランダに出てきた。 手にはライターと線香。 日課の一服の時間だったようだ。「こんばんは。偶然ですね」 見なかったことにはできないので、先手を取って挨拶する。 木井さんは私がいるのに気付いていなかったのか、小さく飛び跳ねた。 それから私と洗濯物が入ったかごを交互に眺め、困り顔をした。「こんばんはー……。タイミング失敗しちゃったなぁ」「吸われるんでしたらお気になさらずどうぞ!」「いやいや、臭いが付いちゃいますよ」 言いながら大げさに手をぶんぶんと振る木井さん。 マイペース具合と言い、どこか結城ちゃんに似ている気がする。「まだ干す前ですし。木井さんさえ良ければ吸ってる間にちょっとお喋りしましょうよ!」 私の申し出に木井さんは子供の用に目を輝かせる。「本当に吸っちゃって大丈夫ですか?」「嫌いな臭いじゃないし、気にしませんよ」 私が応えると、彼はポケットからライターと線香を一本取り出して慣れた手つきで火をつけた。 真っ白なケムリが風に揺られながら緩やかに夜空へ昇っていく。 それをぱくりと口に含んで、木井さんは幸せそうに笑った。「いやぁ、実は僕禁煙しようと思ってたんですけどね。失敗しちゃったんです」「禁煙? 健康診断で引っかかったりしたんですか?」「いや、うちの家内が嫌だって言ってまして。仏壇もないのに部屋が線香臭いのは耐えられないって」 木井さんは寂しそうに零して、細くケムリを吐き出した。 龍のようにくねくねと身をよじらせながらこちらへ向かってきたケムリを捕まえようと手を伸ばしたけれど、触れた所から崩れて逃げられてしまう。「次吸ったら出て行くって言われてるんですけど、どうしてもやめられなくて。こうやって家内がお風呂に入ってる隙に吸いに出てるんですよ」「えっ、それって大丈夫なんですか
آخر تحديث : 2026-08-15 اقرأ المزيد