1年前、御堂俊哉(みどう としや)の愛人・姫野愛梨(ひめの あいり)が、私の前に押しかけてきた。俊哉は部下に命じて、お腹の子が流れるまで彼女を痛めつけさせ、そのまま外へ放り出した。そして目の前で土下座をして、額を床に打ち付けて血まみれになりながら、3時間、許しを乞い続けた。これが、10年も愛してきた男なのか。あまりに無様なその姿に、結局、情に流された。けれどしばらくして、俊哉が郊外の別宅にあの女を囲っているのを見つけた。今度は、私が叩き出した。結婚式の3日前。俊哉に首を掴まれ、2階のベランダに押さえつけられた。彼は、怒鳴り散らした。「俺たちは一度、愛梨の子どもを死なせてるんだぞ。二度目なんて、耐えられるわけがないだろう!ただでさえか弱い子なんだ。お前だって同じ女だろう、どうして分かってやれないんだ!瑠璃(るり)、俺が選んだのはお前だ。俺の一生だって、お前にくれてやる。それでもまだ足りないのか!どうしてあの子を、許してやれないんだ!」次の瞬間、駆けつけてきた秘書が告げた。愛梨が見つかった、と。直後、2階から突き落とされた。腕の骨が折れた。息もできないほどの激痛の中、それでも俊哉を見上げた。彼は、ただの一度も振り返らなかった。どこまでもひどいその男の背中を見つめているうちに、10年分の想いが、静かに冷めていくのが分かった。電話をかけた。「奏多……あの人とは、もう結婚したくない。ここから、連れ出して」電話の向こうで、日向奏多(ひなた かなた)が息を呑む気配がした。「今、どこにいる!」「……俊哉との、家……」腕の激痛で冷や汗がにじむ。かすれた声で、それだけを絞り出した。「待ってろ、動くな。すぐ行くから!」遠ざかっていく奏多の声を最後に、意識がぷつりと途切れた。気がつくと、病院の真っ白な天井と――怒りに燃える奏多の整った顔が目に入った。目の下には、うっすらと隈が浮かんでいる。一晩中、眠っていないのだろう。「目が覚めたか。具合はどうだ」少し動いただけで、右腕に刺すような痛みが走った。「先生が言ってた。右手は粉砕骨折で、うまく治っても、もう絵は描けないだろうって」奏多は目を真っ赤にして、吐き捨てるように言った。「なあ、瑠璃お嬢様。言っちゃ悪いけど、あれだけ賢いくせに、どうしてあんな
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