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第3話

Author: 金運招来の翡翠札
首元が、かっと赤く染まった。

愛梨は大きくよろめき、そのまま後ろへ倒れ込んだ。カップが手から滑り落ち、派手な音を立てて砕け散った。

「瑠璃さん!ど、どうして押したりするの?

俊哉くん、お腹が……赤ちゃんが……!」

涙ながらに、悲鳴のような声を上げる。

「瑠璃!何をしてるんだ!」

俊哉の目は、私を焼き尽くさんばかりの怒りに燃えていた。愛梨を助け起こすなり、こちらへ詰め寄ってきた。

振り上げられた手が、頬に飛んできた。

乾いた音が、廊下に響き渡った。

頬がみるみる腫れ上がり、口の端に血がにじむ。耳の奥では、キーンという音が鳴り続けていた。

「瑠璃!この最低な女が!愛梨は妊婦なんだぞ。親切にお茶を持ってきてくれたのに、突き飛ばすなんて――お前、いつからそんな女になったんだ!」

弁解する隙さえ与えられないまま、彼の中では、犯人は私だと決まっていた。

心臓に刃物を突き立てられたような痛みの中、顔を上げた。

「俊哉。あの女が自分で倒れたのが、見えなかったの?」

私の絶望しきった顔を見て、俊哉の喉仏が上下し、目に一瞬、ためらいがよぎった。

けれど次の瞬間、愛梨がそっと彼の袖を引いた。

「も、もういいの、俊哉くん……瑠璃さんも、きっとわざとじゃないだろうし……」

その一言で、和らぎかけていた俊哉の表情が、また冷たく固まった。眉をひそめてこちらを見る目には、失望がありありと浮かんでいる。

「瑠璃、愛梨が子どもを産んで、心の支えさえできれば、すぐにあの子を送り出す。

さっさと愛梨に謝れ。子どもは産まれたら、お前の手で育てさせてやる。俺たちはまた、前みたいに幸せにやっていけるんだ」

笑えてくる。これが、10年も愛した男の正体だ。

胸を切り刻まれるような痛みに、声も出なかった。全身の激痛で体を丸めたまま、荒い呼吸を繰り返すしかない。

そんな姿がかえって癇に障ったのか、俊哉は苛立たしげに、そばのテーブルを蹴りつけた。

「瑠璃!

何を被害者ぶってるんだ!俺が10年も愛した女が、ここまで最低だったとはな。こんな女だと知ってたら、出会わなければよかったよ!

茶番はやめて、頭を冷やせ。まともじゃない女に、子どもの母親は任せられないんだ。

結婚式は予定通りだ。当日は、迎えの車を行かせる。それまで俺は、愛梨のところで面倒を見る」

そして俊哉は、愛梨を抱き上げて背を向けた。

涙があふれた。

昔は、指先のささくれひとつにも眉を寄せて心配してくれた人が、今は腕の骨が折れても見向きもしない。

こんな男を愛するのは、もう終わりにする。

「3日後の結婚式――花婿は、絶対にあなたじゃない!」

俊哉は、言葉を失った。これほどきっぱりした態度を、見たことがなかったのだろう。

なのに愛梨は、口元にうっすらと笑みを浮かべていた。隠しきれない得意顔で、嘲るように言う。

「瑠璃さん、いくら悔しくても、冗談はやめたほうがいいよ?あと3日しかないのに、俊哉くんのほかに花婿なんて、どこで見つけるの?まさか、適当な男でも捕まえて結婚するつもりじゃないでしょうね?」

俊哉も鼻で笑い、いっそう冷めた目を向けてきた。

「瑠璃、くだらない真似はよせ。

結婚式さえ済めば、お前が大人しくしてる限り、3人で何不自由なく暮らせる。

愛梨の妊娠中は、ちゃんと世話をしてやれ。

あの子は体が弱いうえに、俺の子を身ごもってるんだ。お前が大人になって、譲ってやれ。

愛梨は、お前を受け入れる覚悟までしてるんだぞ。少しは見習ったらどうだ」

怒りで全身が震えた。震えながら、いっそ笑い出しそうだった。

けれど口を開くより早く――廊下の奥から、氷のように冷たい声が響いた。

「身の程知らずにもほどがあるな。俺の婚約者を嫁にもらおうなんて――そのうえ、お前らのタダの使用人にするだと?」

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