私が神谷裕也(かみや ゆうや)に電話をかけたとき、電話の向こうから、かすかに女の声が聞こえた。「結婚式の進行案、プランナーがあなたのメールに送ったって。まだ見てないの?」返事はない。「あなた……いま何しているの?」そのとき、衣擦れの音がした。続いて、裕也が押し殺すように息を漏らす。電話の向こうで何が起きているのか、聞かなくても分かった。「今、ちょっと手が離せない。結婚式のことは……また今度、話そう」「そう」電話を切ると、私はしばらくスマホを見つめていた。そして、1週間放置していたあのメールを開き、静かに返信した。裕也は知らない。もう「また今度」は来ない。私の結婚式は、別の日に決まった。……書類を握りしめて社長室のドアを開けると、情事の直後だと分かる空気が室内に漂っていた。裕也は上半身裸だった。引き締まった胸には、赤い痕がいくつも残っていた。私を見ると、裕也は満足げな笑みを浮かべ、からかうように言った。「美緒、そんなに結婚を急いでるのか?結婚式の進行案なんて、今度見ればいいだろ。わざわざ俺の邪魔をしに来たのか?」私は背を向け、かすれた声で答えた。「急がないといけないの。おばあちゃんの体調を考えると、そんなに待っていられないから……」裕也は一瞬目を丸くしたが、すぐに小さく笑った。「嫉妬じゃないなら、いいや。お前は物分かりがいいからな。夏帆もいつも言ってる。お前なら、俺と夏帆の関係も受け入れて、結婚してもうまくやっていけるだろうって」私は黙ってうつむいた。胸の奥が、締めつけられるように痛んだ。この数年、裕也は私への当てつけのように、女遊びを繰り返してきた。まるで服を着替えるように、次々と女を替えていた。彼の腕の中にいたのは、まだ幼さの残る若い女性だった。明るく華やかで、初々しい美しさをまとっていた。その女、星野夏帆(ほしの かほ)は裕也の腕から身を起こすと、先ほどまでのか弱そうな表情を消し、挑むような笑みを私へ向けた。「ねえ、裕也。私の誕生日プレゼント、まだ決めてないって言ってたよね?」彼女の視線が私の首元で止まった。「美緒さんが着けてるネックレス、すごく素敵。私、あれが欲しい」裕也の表情がわずかに変わり、私の前へ一歩出た。「バカ言うな。もっとい
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