実里は、ゆっくりと廊下を歩く。屋敷の中は静まり返っている。使用人たちはいつも通り仕事をしているのに、不思議なほど物音がしない。誰も話しかけてこない。誰も目を合わせようとしない。まるで、この屋敷全体が実里を腫れ物のように扱っているようだった。(ここにいても、何も変わらない)ただ無作為に日を過ごせば、待っているのは赤ちゃんを失うだけ。(……絶対に守る)そのまま玄関へ向かった。使用人が何か言いたげな顔をする。気づかない振りをして、外の空気を吸いたいと笑ってみせる。外に出たい気持ちは本当だった。家の中は静かすぎて、息苦しかった。玄関扉を開く。眩しい陽射しが差し込み、思わず目を細めた。一歩、外へ出ようとした。そのときだった。.「申し訳ありません」低い声がした。実里の前へ、一人の男が立ちはだかる。見覚えのない顔。あの看護師同様に、広海が新たに雇った者だろう。「どうしたの?」「外に出ることはお控えください」「買い物に行くのもだめなの?」「お一人での外出は許可されておりません」(許可……)「散歩は?」「お庭なら良いと聞いております」(なるほどね……)実里は護衛の横を抜けようとする。だが、護衛も一歩だけ動き、静かに道を塞いだ。乱暴ではない。腕を掴まれることもない。それでも絶対に外へ出さないという意思だけは伝わってくる。「……広海の命令?」男は少しだけ視線を伏せた。「お答えできません」答えないことが答えだった。「そうなるわよね
Huling Na-update : 2026-08-04 Magbasa pa