高橋誠から、一つの家政婦派遣会社を指定された。ネットで調べると、一般家庭向けの家事代行サービスから、政財界のVIP向けにコンシェルジュを派遣するなど、幅広くやっている会社のようだ。実里はそこへ電話をかける。電話はすぐに取られ、誰からの紹介かと尋ねられた。「Юлия, моё всё(ユリヤ、マヨー・フョー)」日本語にすると、『ユリヤ、僕の全て』これが符丁だと教えられた。だから、実里は震える声を出してしまったが。『いつもお世話になっております』相手のスタッフは、何も変わらなかった。『希望する期間と、お客様のご希望を教えてください』「住み込みで一週間。料理と身の回りの世話をお願いしたいのですが」『承知いたしました』普通だった。あまりにも普通の対応に、実里は拍子抜けする。相手は高橋誠の協力者。そう意識していたから、何か秘密めいた合図でもあるのかと思っていた。だが、聞かれるのは食事の好みやアレルギー。仕事内容。勤務期間。一般的なことばかり。(普通の会社……なの?)手続きが終わる。『それでは明日、スタッフを派遣いたします』「よろしくお願いします」電話を切った瞬間、実里は大きく息を吐いた。◇◇◇翌朝。屋敷にいた使用人たちが次々と出ていった。「一週間、ゆっくり休んで」実里がそう言うと、使用人たちは戸惑いながらも頭を下げた。最後の一人が玄関を出る。玄関扉が閉じた。「……静かだわ」実里は呟く。屋敷の外には、相変わらず護衛がいる。守っているのか。監視しているのか。実里には後者としか思えない男たち。それでも、家の中から人がいなくなっただけで、身体から力が抜けた。.チャイムが鳴った。実里は玄関を見る。しばらくすると、扉が開いた。護衛が身元を確認して通したのだろう。一人の女性が入ってくる。年齢は、実里と同じくらいだろうか。大きな荷物を持った女性は、実里を見ると丁寧に頭を下げた。「初めまして」明るく、落ち着いた声だった。「本日から住み込みでお世話をさせていただきます」そして、女性は微笑む。「高橋友梨と申します」実里は、その名前を聞いて目を見開いた。
Last Updated : 2026-08-24 Read more