父から届いていたメッセージは、1件だけだった。【美月のクスノキの嫁入り箱も作ってある。帰ってきたら持っていきなさい】父はもともと口数が少ない。家族が言い争うたび、最後に結論だけを言い渡してきた。まるで判決を告げる裁判官のように。そして私は、いつも負ける側だった。父にとって、このメッセージは精いっぱいの歩み寄りなのだろう。それは分かっていたが、受け入れる気にはなれなかった。私はそれ以上読まず、かといって誰もブロックしなかった。これから家族とどう向き合えばいいのか、自分でもまだ決められずにいた。新しい会社から採用の連絡が届いた日は、私の誕生日だった。義母が大きなケーキを用意してくれた。プレートには、こう書かれている。【Happy Birthday & Congratulations, Mizuki!】料理もテーブルいっぱいに並んでいた。何度か台所を手伝おうとしたが、そのたびに追い返された。「今日は美月さんが主役なの。何もしなくていいのよ」私は言われるままソファに座り、しばらくぼんやりしていた。実家で陽菜と一緒に誕生日を祝うとき、ケーキに書かれる名前は、いつも陽菜だけだった。幼い頃、陽菜が「お姉ちゃんの名前は書かないで」と泣いたからだ。大きくなってからも、それが当たり前になっていた。願い事をしたあと、結衣にも一緒にろうそくを吹き消そうと声をかけた。いつもは冗談ばかり言う結衣が、珍しく真面目な顔をした。「駄目だよ。美月さんのお誕生日なんだから、自分で消さないと願いがかなわないでしょう?その代わり、私の分のケーキは大きめに切ってね」みんなが笑った。ケーキは何切れも食べた。もちろん、食べるのは初めてではない。それでも、この日のケーキは今までで一番甘く感じた。……さらに半月ほどがたち、私は新しい会社にも少しずつ慣れていた。ある日、仕事を終えて外へ出ると、会社の前に兄が立っていた。私を見つけた瞬間、兄の目がぱっと輝いた。警備員が小声で教えてくれた。「あの方、午後からずっと待っています。怪しいので、気をつけてください」私は警備員に礼を言い、兄へ向き直った。兄は数歩近づいた。キャリーケースの車輪が音を立てたが、途中で足を止めた。「美月。ずっと捜してたんだ。いくら腹が立ったから
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