その喜びはとてもささやかだった。毎朝の1杯のホットコーヒーのように。退勤する道すがらに見る夕焼けのように。いつも私のことを忘れる人が家に帰ってくるのを、もう待たなくていいという安堵のように。アトリエが重要なプロジェクトを請け負った。ルミエールで開催される小規模なウェディングドレスの展示会から、出展の招待を受けたのだ。ハワードは、メインビジュアルとなるウェディングドレスの1着を私に任せてくれた。彼は言った。「結城、君には君自身を表現してほしい。市場に迎合したり、誰かの機嫌を取ろうとしたりしなくていい。君が一番表現したいものを形にしてくれ」私は長く考え込んだ。そして最終的に、そのウェディングドレスに「エコー」という名前をつけた。インスピレーションの源は、過去9年間の経験だ。応えてもらえなかった数々の期待と空回りに終わった待ち時間、そして蔑ろにされながらも、それでも懸命に人を愛そうとしていた自分自身がインスピレーションの源だ。私はドレスの裾を、幾重にも重なる波紋のようにデザインした。まるで谷間に落ちた声が、最後には自分の耳元へと返ってくるかのようだ。襟元には伝統的なハートカットを使わず、すっきりと洗練された直線的なデザインを取り入れた。私が表現したかったのは、愛されることではない。自分自身で立ち上がることだ。ウェディングドレスが完成した日、アトリエ全体が間静まり返った。その後、エマが一番に拍手をした。「本当に美しいわ」ハワードは私を見つめて言った。「結城、これは間違いなく君の代表作になるよ」展示会の当日、エコーはメインホールのど真ん中に飾られた。ライトが当たると、純白のチュールが水面のように広がって見えた。多くの人がその前に立ち止まり、写真を撮っていた。メディアからもインタビューを受けた。「この作品で何を表現したかったのでしょうか?」私はマイクを握り、カメラを見つめて答えた。「一人の人間が、ようやく自分自身の声を聞き届けることができた、ということを表現しています。私たちはよく、愛とは相手からの反応を待つことだと勘違いしてしまいます。でも後になってようやく気付くのです。一番大切な応えは、まず自分自身に返すべきなのだと」インタビューが終わった
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