医師は、莉奈の体調に問題がなく、一晩様子を見れば退院できると言っていた。それでも健一たちは心配だからと、もう数日入院させて様子を見るよう何度も頼み、裕介もそれに同意した。こうして5日間、裕介は莉奈に付きっきりだった。高価な輸入の滋養食品から、限定発売で入手困難なお花まで、莉奈が何気なく口にしたものは、どんなものでもすぐに用意した。時には、自ら買いに出向くことさえあった。病室には、綺麗に包装された贈り物が所狭しと並んでいる。莉奈はスマホを手に、贈り物で埋め尽くされた背景を写しながら、甘えるように尋ねた。「裕介、この角度どう?可愛く撮れてる?やっぱりちょっと変かな?」裕介は上の空で頷きながらも、莉奈が投稿したばかりのSNSを何気なく見ていた。9枚の写真には、裕介が贈ったアクセサリーなどが並び、添えられた言葉は【愛されているこそ、何も怖くない】だった。その「いいね」の一覧に、葵の名前があった。けれど、すぐに取り消されている。裕介の指先が、わずかに震えた。画面を閉じようとして、誤って葵とのトーク画面を開いてしまう。最後に残っているのは、あの一言だった。【離婚しよう】葵は、いったい何を考えているのだろう。莉奈が退院する日、彼女は店で限定品のバッグを見つけた。裕介はいつものように、「プレゼントしてあげる」と言った。2人で店を訪れ、莉奈がグレーのバッグを選ぶ。裕介がカードを取り出そうとしたそのとき、ふと、葵もこのブランドが好きだったことを思い出した。「……同じものを、もう1つ」なぜそんなことを口にしたのか、自分でも分からなかった。店員は特に不思議がる様子もなく、すぐに同じバッグをもう1つ用意し、さりげなく車の後部座席へ積み込んだ。そのため、莉奈は帰り道も、そのバッグの存在に気づくことはなかった。裕介が莉奈を送り届け、バッグを手に自宅へ戻ると、家の中は不気味なほど静まり返っていたことに気づく。葵の姿もない。裕介は手にした紙袋を無意識に強く握りしめた。何かを思い出したように、そのまま寝室へ駆け込む。クローゼットを開け、隅々まで確認した。葵の服は、いつの間にか一着残らず消えていた。パスポートなどの書類も見当たらない。――気まぐれで出ていったわけじゃない。ずっと前から、ここを離れるつもりだったのだ。
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