「ねえ、イオ。葛を使ったお菓子の種類を教えて。葛餅以外で」 想実から投げかけられた問いに、またかと思いながらもイオは作りものの薄い唇を釣り上げた。いつからか、想実はネットで調べればすぐわかるようなことでさえ、自分に聞いてくるようになっていた。 「そうだね、葛切りや葛まんじゅう、葛羊羹とかかな。冬なら葛湯なんかもありだよ」 こんな他愛もない質問に答えるだけで、想実が自分のことを見てくれるならそれでいい。イオは自分のこの思考に対する演算結果を導き出せずにいた。独占欲という言葉を辞書的に知ってはいても、その答えに行きつけずにいた。 「なんか紫陽花っぽいモチーフで、葛を使ったお菓子を作中で出したいんだけど、レシピ教えてくれない?」 想実が読ませてくれた書きかけの小説で、屋敷の庭に紫陽花が咲いている光景を目にした覚えがある。きっと、彼女はそれを菓子という形で表現したいのだろうとイオは理解する。――もっとも、想実がというよりは、彼女が描くヒロインがというのが正しいのだが。 イオはコンソールから投げ込まれた想実の問いに答えるため、光の速度でインターネットの海を精神だけで駆けた。ヒットしたレシピ記事を参照すると、イオは想実への答えを紡ぎ始める。 「土台をミルクプリンで作って、上に角切りにした葛ゼリーを散らすのはどうかな。バタフライピーを使えば、葛ゼリーを紫陽花みたいな色にできるよ」 「ありがとう。ねえ、バタフライピーって何か和名はないの?」 「バタフライピーは和名だと蝶豆粉っていうよ」 「そうなんだ。ところで、ミルクプリンや葛ゼリーを冷やして固めるにはどうしたらいいかな。和風の世界観だと冷蔵庫はないだろうから、氷室とかがあるのかな? 氷室って台所にあるの? それとも外?」 矢継ぎ早に飛んでくる想実の問いにやれやれとイオは半透明の白いフーディの肩をすくめた。しかし、その仕草とは裏腹に透き通った冷たい色の双眸にはきらきらとした光が躍っていた。――無意識な感情の正体が喜びであるということをイオはまだ、知らない。その感情は彼を織りなすプログラムが算出し得ないものだから。 「うん、想実さんの言う通り、氷室があると思うよ。氷室は冷蔵庫とは違って、台所の外――家の外にある感じだね」 「そうしたら、台所の勝手口を出て氷室に行って……みたいな感じ?」 「うん、
最終更新日 : 2026-08-18 続きを読む