All Chapters of 妹に婚約者も家名も奪われましたが、王妃の遺言状は私を後継者に指名していました〜三日後、王宮は相続争いで崩壊します〜: Chapter 1 - Chapter 10

15 Chapters

第1話 妹が、私の婚約者を欲しがった日

 王妃エレオノーラ陛下の葬儀から、七日が過ぎた。 王宮の廊下には、まだ喪の気配が残っている。 白い大理石の柱には黒い絹布が掛けられ、窓辺の花瓶には、香りの淡い白百合だけが活けられていた。いつもなら朝から女官たちの足音や貴族たちの笑い声で満ちる宮殿も、今日はどこか息を潜めている。 だが、静かなのは表面だけだった。 王妃が亡くなった。 その事実は、王宮の均衡を音もなく崩し始めている。「こちらの箱は東翼書庫へ。王妃陛下の私的書簡は、封を確認してから年代順に分けてください。銀の小箱には触れないで。鍵の所在が確認できていません」 エレノア・ヴァレンシュタインは、黒の喪服の裾を押さえながら、女官たちに指示を出していた。 声は落ち着いていた。 泣き腫らした跡もなければ、疲労で取り乱す様子もない。 そのせいで、人はいつも彼女を冷たいと言う。 氷の令嬢。 王太子妃には硬すぎる女。 可愛げのない公爵家長女。 社交界で囁かれる言葉を、エレノアは知っている。知らないふりをしているだけだ。「エレノア様、こちらの文書は……」 年若い女官が、不安げに羊皮紙の束を差し出した。 エレノアは手袋をした指で、封蝋の紋章を確かめる。「隣国セルベリア王国との非公開書簡です。王妃陛下の署名があるものは、王宮文書庫の第三保管室へ。写しはありませんね?」「はい。確認いたしました」「では、誰にも開けさせないで。王太子殿下にもです」 女官が一瞬だけ目を見開いた。 王太子殿下にも。 婚約者であるユリウスに対して、その言い方は冷たいと思われたかもしれない。 けれど、機密文書は機密文書だ。 婚約者であることと、文書管理の権限は別である。 王妃は生前、その線引きを決して曖昧にしなかった。『エレノア。王宮で一番危ういのは、悪意ではありません。善意の顔をした無知です』 数日前まで聞こえていた声が、ふいに耳の奥で蘇る。 痩せた指。 弱くなった呼吸。 それでも最後まで濁らなかった、あの瞳。『あなたは、泣く者ではなく、記録を見る者でいなさい』 エレノアは小さく息を吸った。 胸の奥が痛む。 だが、手は止めない。 悲しむ時間がないのではない。悲しむ場所を与えられていないのだ。 王妃が病に伏してからの三年間、エレノアは王太子妃候補という名のもとに、王妃の代理のような
last updateLast Updated : 2026-08-09
Read more

第2話 「君は冷たい。リリアナは人の心が分かる」

南翼の謁見室を出たあとも、エレノアの背中にいくつもの視線が刺さっていた。 同情。 好奇心。 侮り。 そして、安堵。 廊下に控えていた侍従や女官たちは、誰一人として声をかけてこなかった。王宮では、沈黙もまたひとつの言葉だった。今のエレノアに声をかけることは、王太子ユリウスの決定に異を唱えることになる。 だから誰も、彼女を慰めなかった。 けれど、それでよかった。 慰めなど受け取ってしまえば、自分が傷ついた人間だと認めなければならない。 エレノアは、まだそこまで弱くなれなかった。 王宮の長い廊下を歩く。 黒い喪服の裾が、磨かれた大理石の床を静かに撫でる。壁に並ぶ燭台の炎が、歩くたびにかすかに揺れた。夜の王宮は美しい。美しすぎて、人の声が消えると墓所のようにも見える。 王妃エレオノーラが生きていた頃、この廊下を何度も歩いた。 朝は書類を抱えて。 昼は茶会の席次表を確認しながら。 夜は王太子の失言をどう修正するか考えながら。 王妃の病室へ向かう時も、いつもこの道だった。『エレノア。あなたは自分の痛みに鈍いのね』 王妃は、あの日そう言った。 薄い絹の寝衣に包まれ、枕に背を預け、息をするだけでもつらそうだったのに、あの方はエレノアの顔色ばかり見ていた。『痛みを感じないふりは、強さではありませんよ』 その言葉を思い出した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。 感じていないふりをしているだけ。 本当は、痛い。 十年分の婚約が、たった数分の言葉で終わった。 自分は冷たいと、婚約者に言われた。 人の心が分からないと、遠回しに責められた。 そして、自分の妹が、あの人の隣に立つことになった。 それでも涙が出ないのは、心が凍っているからではない。 泣き方を、忘れてしまったからだ。「エレノア」 背後から低い声がした。 振り向かなくても、誰か分かった。 父、グレゴール・ヴァレンシュタイン公爵。 エレノアは足を止め、ゆっくりと振り返った。 父は謁見室から出てきたばかりらしく、濃紺の礼服の襟元を直していた。表情には苛立ちがある。だが、それは娘を傷つけたことへの後ろめたさではない。 思い通りに従わなかった道具を見る目だった。「少し話がある」「この場でよろしいですか」「場所を選ぶ立場か」 父の声に、廊下の侍従がわずかに身を硬くする。
last updateLast Updated : 2026-08-09
Read more

第3話 王宮から私の机が消えた日

 翌朝、エレノアはいつもより少し遅く目を覚ました。 遅いといっても、夜明けから半刻ほど過ぎただけである。王宮に詰めていた頃なら、もう女官長から届いた書類に目を通し、茶会の席次表を修正し、王太子ユリウスの朝の予定を確認している時間だった。 だが、今朝は誰も彼女を起こしに来なかった。 扉を叩く音もない。 緊急の書簡もない。 王妃陛下の病状報告もない。 王太子殿下が演説原稿をなくされたという侍従の青ざめた声もない。 窓の外では、祖母の旧邸の庭に植えられた樫の木が、朝風に静かに揺れている。 王都の外れにあるこの屋敷は、公爵家の別邸というより、忘れられた古い家に近かった。祖母が亡くなってからはほとんど使われず、最低限の使用人だけが管理していた場所である。 王宮のような華やかさはない。 調度も古く、壁紙もところどころ色褪せている。 けれど、不思議と息がしやすかった。「……朝なのね」 エレノアは寝台の上で、しばらく天井を見つめていた。 何もしなくていい朝。 それが、これほど落ち着かないものだとは知らなかった。 十年間、彼女の朝は常に誰かのためにあった。 王太子のため。 王妃のため。 公爵家のため。 リリアナのため。 国のため。 けれど今朝、彼女の手元には何もない。 いや、正確にはひとつだけある。 枕元の小箱にしまった、黒封蝋の遺言状。 エレノアは起き上がり、箱へ視線を向けた。 開けてはならない。 王妃エレオノーラは、そう言った。 王弟カインへ見せなさい、と。 なら
last updateLast Updated : 2026-08-10
Read more

第4話 翌日、茶会は崩壊した

 茶会というものは、花と菓子と微笑みでできているように見える。  けれど、実際には違う。  茶会は、刃を布で包んだ社交の戦場だ。  誰を上座に置くか。  誰と誰を隣に座らせるか。  どの家の夫人に最初に茶を勧めるか。  どの話題を避け、どの話題をあえて投げるか。  たった一つの席順で、十年前の婚約破談が蒸し返されることもある。  たった一杯の茶を先に出しただけで、派閥の序列が変わったと解釈されることもある。  たった一言の挨拶が、翌月の婚姻同盟や領地交渉に影を落とすこともある。  エレノアは、それを知っていた。  だから、茶会の席次表を作る時は、招待客の家系図、過去の訴訟記録、婚約の有無、領地の境界争い、宗教儀礼の違い、最近の贈答品の履歴まで確認していた。  だが、その日の王宮庭園に並べられた席は、ひどく美しかった。  美しすぎるほどに、整っていた。  桃色の花。  白いクロス。  銀の茶器。  蜂蜜菓子。  柔らかな風に揺れる薄絹の天幕。  そして、中央には可憐な笑顔を浮かべたリリアナ・ヴァレンシュタインが立っていた。 「皆様、本日はお越しくださり、ありがとうございます」  リリアナは、鈴を転がすような声で挨拶した。  彼女の隣には、王太子ユリウスがいる。  金髪に青い瞳の美しい王太子と、淡い桃色のドレスをまとった可憐な公爵令嬢。  二人が並ぶ姿は、絵画のようだった。  少なくとも、遠目には。 「王妃陛下が身罷られて間もないこの時期に、このような会を開くことに迷いもございました」  リリアナは目を伏せた。  その仕草だけで、周囲の夫人たちの何人かが胸を押さえるような顔をした。 「ですが、悲しみの中だからこそ、皆様
last updateLast Updated : 2026-08-11
Read more

第5話 二日目、隣国大使が帰国を告げた

 王宮茶会が予定より早く終わったという知らせは、その日のうちに王都の社交界を駆け巡った。 誰が最初に漏らしたのかは分からない。 茶会に参加した夫人の侍女かもしれない。 庭園の片づけに入った下働きかもしれない。 あるいは、王宮内で噂を好む若い官吏かもしれなかった。 けれど、噂というものは、出どころよりも形を変える速さの方が恐ろしい。 夕刻にはすでに、王都の貴族街でこう囁かれていた。 新しい王太子妃候補は、初めての茶会で侯爵夫人と伯爵夫人を喧嘩させたらしい。 王妃基金の話題を不用意に出し、財務官夫人が顔色を変えたらしい。 隣国セルベリアの大使夫人を末席に近い場所へ置いたらしい。 王太子殿下は、その場で泣き出したリリアナ嬢を庇い、夫人たちをたしなめたらしい。 そして、最後には皆が前任のエレノア嬢を褒めたらしい。 噂は、最後の一文を特に好んだ。 王宮から追い出された姉の名が、妹の初舞台で何度も出た。 それは、社交界にとって格好の話題だった。 翌朝、王宮は表面上、いつも通りに始まった。 女官たちは廊下を磨き、侍従たちは予定表を持って足早に歩き、官吏たちは文書を抱えて執務棟へ向かう。 けれど、その空気は明らかに昨日とは違っていた。 誰も声を大きくしない。 誰もリリアナの名を口にしない。 そして、誰もエレノアの不在について触れない。 触れないからこそ、そこに空白があることが分かる。 南翼の小会議室で、王太子ユリウスは朝から不機嫌だった。 卓上には、いくつもの文書が積まれている。 茶会に関する報告書。 ハウゼン侯爵夫人からの抗議文。 ミルド伯爵夫人からの丁寧すぎる欠席連絡。
last updateLast Updated : 2026-08-12
Read more

第6話 三日目、王妃の遺産目録が合わない

 王妃エレオノーラの遺品整理は、本来なら厳粛に進められるべきものだった。 王族の死後、身の回りの品は三つに分けられる。 王家へ戻すもの。 遺言に従って譲られるもの。 慈善事業や基金の担保として管理されるもの。 特にエレオノーラ王妃は、生前から慈善事業に熱心だった。王都の孤児院、地方の診療所、戦没騎士の遺児支援、薬草園の維持。そうした事業の一部は、王妃個人の宝飾品や所領収入を担保として成り立っていた。 だからこそ、遺品目録は単なる形見分けではない。 王妃の死後、この国の弱い者たちを支えるための土台だった。 だが、三日目の朝。 王妃の私室に集められた者たちは、その土台がすでにひび割れていることを知ることになった。「もう一度、読み上げてください」 女官長マルタの声は、いつもより硬かった。 王妃の私室は、数日前までエレノアが整理を進めていた場所である。白百合の香りがまだかすかに残っているものの、部屋の主を失った空間はひどく広く感じられた。 中央の大机には、王妃の遺産目録が広げられている。 革表紙の台帳。 封蝋つきの確認書。 宝飾品の写し絵。 所領収入の記録。 王妃基金と紐づけられた担保証明。 その周囲には、王宮財務官、文書官、数名の女官、そしてリリアナがいた。 王太子ユリウスは、セルベリア大使帰国の件で国王への報告に呼ばれている。代わりに、リリアナが王太子妃候補として遺品整理に立ち会うことになった。 彼女は淡い藤色のドレスを着ていた。 王妃の喪に配慮した落ち着いた色合いではあるが、胸元には小さな真珠の飾りが縫い込まれ、袖口には繊細なレースが揺れている。 彼女なりに慎ましくしたつもりなのだろう。 だが、その装いは、この場の重さを理解している者のそれではなかった。
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more

第7話 冷徹宰相カイン、動く

 王宮には、誰も近づきたがらない執務室がある。 北翼の最奥。 陽当たりは悪く、窓の外には庭園ではなく、王宮の外壁と古い監視塔が見えるだけ。豪奢な装飾も、香り高い花も、客人を和ませる柔らかな長椅子もない。 壁一面の書棚。 大きな執務机。 整然と積まれた文書。 火の気の少ない暖炉。 そして、部屋の主の性格をそのまま映したような、無駄のない空気。 そこが、王弟カイン・レオ・グランベルクの執務室だった。 国王の弟。 王太子ユリウスの叔父。 そして、王宮で最も恐れられる冷徹宰相。 貴族たちは彼を「鉄筆の宰相」と呼ぶ。 理由は簡単だった。 カインは情に流されない。 家名に媚びない。 泣き落としを聞かない。 そして、一度署名した命令書は、鉄で刻まれたように覆らない。 その日も、彼はいつも通り机に向かっていた。 王妃の葬儀後、王宮内は目に見えて乱れている。だが、カインの執務室だけは違った。文書は分類ごとに積まれ、報告は時系列順に並び、未決裁案件は赤紐、要確認案件は黒紐、緊急案件は銀の留め具で留められている。 混乱が嫌いなのではない。 混乱の中で、誰が何を隠すかを知っているだけだ。「殿下」 扉の外から、低い声がした。「入れ」 カインは顔を上げずに答えた。 入ってきたのは、彼の秘書官であるオスカーだった。細身で眼鏡をかけた若い官吏だが、王宮内の噂と文書の流れを読む目は鋭い。 彼は数枚の報告書を机の左側に置いた。「王太子殿下周辺の直近三日分の報告です」「読んだ順に話せ」「はい
last updateLast Updated : 2026-08-14
Read more

第8話 追放された令嬢は、祖母の屋敷で眠る

 祖母の旧邸には、王宮のような匂いがなかった。 磨き上げられた大理石の冷たさも、香水と蝋燭が混ざった甘い息苦しさも、廊下を行き交う官吏たちの紙とインクの匂いもない。 ここにあるのは、古い木の床の匂いと、乾いた本の匂いと、庭から入ってくる湿った土の匂いだった。 エレノアは、その朝、窓辺の椅子に座ったまま、しばらく何もしていなかった。 目の前の小さな丸机には、冷めかけた紅茶がある。 アニーが淹れてくれたものだ。王宮で出される一級品ではない。茶葉も少し粗く、香りも強すぎる。けれど、湯気の向こうに誰かの思惑がないだけで、ひどく穏やかに感じられた。 王宮で飲む紅茶には、いつも意味があった。 誰に先に出すか。 どの茶器を使うか。 王妃の喪中にふさわしいか。 隣国大使夫人の好みに合うか。 王太子の機嫌を損ねないか。 リリアナが寂しそうにしていないか。 そんなことばかり考えていた。 けれど今、目の前の紅茶は、ただエレノアのために置かれている。 それが、落ち着かなかった。「お口に合いませんでしたか?」 控えていたアニーが、不安そうに尋ねた。 エレノアは顔を上げる。「いいえ。美味しいわ」「でも、全然召し上がっていらっしゃらないので」「……飲むのを忘れていたの」 そう答えると、アニーは少しだけ目を丸くした。 王宮では、そんな返事をすれば笑われただろう。 可愛げのない冗談だと。 あるいは、疲れているなら休めばいいのにと、軽く流されただろう。 だが、アニーは笑わなかった。「お疲れなのです」 彼女は、
last updateLast Updated : 2026-08-15
Read more

第9話 王妃の遺言状

  夜の屋敷に、馬車の音が近づいてきた。 王宮の馬車ではない。 女官長マルタが使う、目立たない小型の馬車だった。 祖母の旧邸の門前で車輪が止まると、ほどなくして玄関扉が叩かれた。アニーが急いで迎えに出る。廊下の奥まで、冷たい夜気と外套の布擦れの音が流れ込んできた。 エレノアは応接室の中央に立ったまま、扉の方を見ていた。 暖炉には火が入っている。 けれど、部屋の空気は少しも温まらない。 机の上には、黒封蝋の封筒が置かれている。 月桂樹と百合。 亡き王妃エレオノーラの個人紋章。 その封筒がそこにあるだけで、古い応接室は王宮の裁定室よりも重い場所になっていた。 王弟カインは、窓際に立っていた。 腕を組むでもなく、椅子に腰を下ろすでもなく、ただ静かに佇んでいる。彼の秘書官オスカーは、机の端に記録用の紙と筆記具を整えていた。 無駄な動きはない。 誰も声を荒げない。 それなのに、部屋には張り詰めた糸のような緊張があった。「エレノア様」 扉が開き、マルタが入ってきた。 王宮の女官服の上に、濃い灰色の外套を羽織っている。急いで来たのだろう。頬は少し赤く、息もわずかに乱れていた。 しかし、彼女は部屋へ入った瞬間、机の上の封筒を見て、すぐに表情を引き締めた。「……王妃陛下の封蝋でございますね」「はい」 エレノアは頷いた。「王妃様が、私に託してくださいました」 マルタは数秒、封筒から目を離さなかった。 その顔には、驚きよりも深い納得があった。「やはり、何かを残しておられたのですね」「ご存じだったのですか」
last updateLast Updated : 2026-08-16
Read more

第10話 姉の机に座った妹

 リリアナは、姉の机に座っていた。 朝の光が東翼執務室の窓から差し込み、磨かれた机の上を白く照らしている。 昨日までは、この光の中にエレノアがいた。 黒や濃紺の落ち着いたドレスをまとい、背筋を伸ばし、山のような書類に目を通していた。時には羽根ペンを走らせ、時には女官へ短く指示を出し、時には王太子ユリウスの演説草稿を黙々と修正していた。 その姿を、リリアナは何度も見たことがある。 昔は、それを綺麗だと思った。 姉は何でもできる。 姉は誰からも頼られる。 姉は王妃様に信頼され、王太子殿下の隣に立ち、父にも母にも「優秀だ」と言われる。 だから、自分もいつかああなりたいと思った。 けれど、いつからか違う気持ちになった。 なぜ、お姉様ばかり。 なぜ、私には誰も任せてくれないの。 なぜ、殿下はお姉様の隣では笑わないのに、それでもお姉様が選ばれたままなの。 その答えを、リリアナはずっと探していた。 そして、昨日まではこう思っていた。 お姉様が譲ってくれないから。 お姉様が何でも一人で抱え込むから。 お姉様が、私を子供扱いするから。 でも今、リリアナは姉の椅子に座っている。 姉の机も、姉の部屋も、姉が使っていた女官も、姉が持っていた王太子妃候補という立場も、すべて自分の前にある。 なのに、心はちっとも晴れなかった。 むしろ、机の上に積み上げられた書類が、彼女を責めるように見えた。「……どうして、こんなにあるの」 小さく呟いても、返事はない。 机の上には
last updateLast Updated : 2026-08-17
Read more
PREV
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status