第51話 妹が母の研究記録を盗みました――「今度は私が選ぶ番だから」 十九年間、私は自分が狼になれない人間なのだと思って生きてきたのに、その身体の中ではずっと、普通の狼人族より遥かに大きな白狼の魔力核が封じられたまま眠っていて、しかも最近になって、その封印の内側から何かが扉を叩くような感覚まで覚えるようになったのだから、自分の身体というものは案外信用ならない。 もっとも、身体の側からすれば、自分の中身を十九年間も知らなかった持ち主のほうこそ信用ならない、と言いたいかもしれなかった。「リア監査官、始める前に確認しますが、本当にご自身で主監査をされるおつもりですか。昨日、カエル陛下の刻印については当事者だからという理由で独立監査を依頼した人が、今日は自分の身体だから自分で調べるというのは、少し理屈が合っていないように思います」 翌朝、ヴェイル邸の臨時医務室で封印検査の準備をしていると、ユアンがかなりもっともなことを言ってきたので、私は左肩を出せるよう検査衣の紐を調整しながら、できれば聞かなかったことにしたい気持ちを押し込めて答えた。「今回は私にしか見えない部分がありますから、完全に他人へ任せることはできません。ただし、主観で結論を決めないよう、あなたと王都から残っている上級監査官二名にも同時記録を取ってもらいますし、私が何か見つけた場合には、その位置だけを示して別系統の術式でも再確認してもらいます」「つまり、ご自分が検査される側でありながら検査する側にも回るわけですね。かなり器用なことを要求されますが、途中で痛みが出たときに『このくらいなら大丈夫』と言って勝手に続行される未来が見えるので、医療中止権は僕ではなく医師へ渡しておきます」「どうして最近、周囲の人間が私の扱いだけ妙に上手くなっているんでしょうね」「リア監査官が同じことを繰り返すから、こちらも学習するんですよ。それに、今日はカエル陛下にも中止権を渡しておきたいくらいですが、そうすると今度は陛下が心配しすぎて五分で止める可能性があるので、それも困ります」 部屋の反対側で腕を組んでいたカエ
Last Updated : 2026-09-27 Read more