Lahat ng Kabanata ng それより、彫刻彫りたい: Kabanata 11 - Kabanata 20

20 Kabanata

第十一話「リーネ・ホーン」

 リーネは有能だ。 朝、私が目を開ける前には部屋にいる。 予定表はもう整っている。 服も、髪紐も、お茶も、なぜか私が探す前に出てくる。「ルカ様、起きてください」「起きてる」「目が閉じています」「心は起きてる」「体も起こしてください」 厳しい。 私は布団の中で少しだけ丸くなる。「今日、何ある?」「午前は衣装合わせ、昼にヴィオラ様との茶会、午後はセリス様から贈答品の確認、夕方は陛下へのご挨拶です」「多い」「減らしました」「これで?」「はい」 リーネは何も悪くない顔で言った。 私は起き上がる。 髪が少し顔にかかった。 リーネがすぐ櫛を取る。 早い。「小童、有能」「誰が小童ですか」 指を指す。「あなた」「……」 リーネは私の後ろに回って、髪を梳かし始めた。 手つきは丁寧だった。 でも時々、櫛が少し強い。「痛い」「寝癖です」「寝癖に罪はない」「あります」 あるらしい。 鏡の中で、リーネの顔を見る。 従者の顔をしていた。 背筋が伸びていて、目がちゃんとしていて、声も崩れない。 王宮の廊下で見る時のリーネだ。 でも私の髪を結ぶ時だけ、少し雑になる。「リーネ」「はい」「眠い?」「眠くありません」「私は眠い」「何言っているんですか」「朝だから眠いの当たり前じゃん。嘘っぽい」「職務中です」「それ答えになってない」 リーネの手が止まった。「……少しだけです」「やっぱり」「ルカ様のせいです」「なんで」「昨日、石を運び込んだあと、深夜に工房でアイデアスケッチしてたじゃないですか」「あれは仕方ない」「仕方なくありません」 怒られた。 でも、リーネの声は王宮の時と違った。 少しだけ尖っていて、少しだけ年相応だった。 私はそれを見るのが嫌いじゃない。「リーネって、商家の子なんだっけ」「はい」「だから段取りうまいの?」「関係あるかもしれません」 リーネは髪紐を結びながら答えた。「うちは小さな商家でしたけど、人の顔色を見るのは早くなります。誰が急いでいるか、誰が怒っているか、誰が払う気がないか」「払う気がない人もわかるの?」「わかります」「すご」「感心するところですか」「有能」「軽いですね」 リーネはため息をつく。 でも少し嬉しそうだった。 私は鏡を見
last updateHuling Na-update : 2026-08-09
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第十二話「彫りたい顔」

 会議室は、今日も静かだった。 静かなまま、話だけが鋭い。「西方港の関税を一部緩和すれば、香料船の入港数は増えるでしょう」セリスが言う。「国内商会が反発します」ヴィオラが返す。「反発は出ます。でも入港が増えれば、港そのものの利益も上がります」「利益が出ることと、通してよいことは別です」「ええ。だから調整するんです」 二人とも声は穏やかだった。 でも、どちらも退いていない。 私は資料を見る。 言っていることはわかる。 下げれば船が来る。 船が来れば金が動く。 でも、元から商売している人たちは面白くない。 面白くない人が増えると、たぶん宮廷が面倒になる。「ルカ」 名前を呼ばれた。「はい」 顔を上げる。 ルシアがこちらを見ていた。「聞いていたか」「聞いてました」「どう思う」 私は少し考える。「下げたいけど、下げると怒る人がいる話ですよね」「そうだ」「怒る人を放っておくと、あとで面倒になる」「そうだ」「大変そうです」 ヴィオラが目を閉じた。「感想ではありません」「すみません」 セリスが少し笑っていた。「でも、聞いてはいますね」「聞いてます」「半分くらい?」「大体は」「何割ですか?」「七割」「残り三割は?」 私は少し黙る。 資料の白い余白が目に入った。 そこから昨日の石を思い出す。 白いけど、少し灰色。 表面は素直そうで、変な筋も少なかった。 鼻筋を細くしても割れなさそうだった。「石です」 会議室が静かになった。 またやったな、と思った。「石」 ルシアが言う。「はい」「会議中だ」「知ってます」「知っていて石か」「三割くらいです」「割合の問題ではありません」ヴィオラが言った。「すみません」 リーネが後ろで小さく息を吐いた。 たぶん、今日もだめだと思っている。「何を考えていたんです?」 セリスが聞く。「顔です」「顔?」「彫る顔」 セリスの目が少し動いた。 笑っているけど、ちゃんと見ている顔だった。「決まったんですか」「まだです」「決まっていないんですね」「そこだけ」 私は机の端に指を置く。 木の角を親指でなぞる。 鼻。 首。 肩。 目元。 別に見えているわけじゃない。 でも、削った後の形が少しだけある。「誰の顔ですか
last updateHuling Na-update : 2026-08-13
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第十三話「完成しない像」

 白い石は、工房の中央に置かれていた。 昨日見た時より、少し大きく見える。 運ばれてきただけなのに、もう部屋の中で場所を取っていた。 私は石の前に座る。 ノミを持つ。 でも、すぐには入れない。 表面を見る。 白いけど、少し灰色。 変な筋は少ない。 思った通り、首は長めに取れそうだった。 問題は顔だった。 会議室でちらついた顔。 誰かに似ている。 でも誰でもない。 私は石の前でしばらく黙る。「ルカ様」 後ろでリーネが言った。「ん」「朝食、まだ半分残っています」「あとで食べる」「あとで冷めます」「冷めても食べる」「昨日もそう言いました」「昨日は違う」「何がですか」「今日は本当に食べる」「信用できません」 信用がなかった。 私はノミの先を石に当てる。 角度を少し変える。 ここから入れると、鼻が強くなりすぎる。 先に首を取ると、顔の位置が決まる。 でも顔が決まっていないのに首を決めると、あとで困る。 困るな。「ルカ様」「ん」「今、絶対に食事のことを忘れましたよね」「忘れてない」「何を残してますか」「……パン?」「スープです」「ああ」 リーネがため息をついた。 でも怒る声ではなかった。 もう少し諦めている声だった。「一口だけでも」「今、手が石にくっついてる」「くっつきません」「気持ちが」「気持ちで食器は持てません」 正しい。 でも今は無理だった。 私は一度、ノミを置く。 石から少し離れて見る。 まだ何にもなっていない。 顔がぼやけている。  でも、静かな感じだけは残っていた。 整っていて。 笑っているようで、笑っていない。 誰だろう。 ルシアではない。 でも静けさは少しある。 ヴィオラではない。 でも整っている感じはある。 セリスでもない。 でも笑顔の途中みたいなものはある。 全部違う。 でも全部少しある。「……嫌だな」「何がですか」「混ざる」 リーネが少し黙った。「何が混ざるんですか」「顔」「どなたの?」「誰かの」 リーネは何か言いかけて、やめた。 従者の顔になっている。 こういう時のリーネはできる。 聞きすぎない。 でも見ている。 私は石へ向き直る。 今度は首のあたりに軽く印をつけた。 コン、と音がした。
last updateHuling Na-update : 2026-08-15
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第十四話「眠っている」

 朝から、頭が少し重かった。 痛いわけではない。 でも、石粉を吸いすぎた日の奥みたいに、目の裏がぼんやりしている。 昨日の石のことを考えすぎたのかもしれない。「ルカ様、顔色が悪いです」 リーネが言った。「普通」「普通ではありません」「眠いだけ」「それも普通ではありません」 厳しい。 私は椅子に座ったまま、机の上を見る。 予定表が置いてあった。 午前は書類確認。 午後はセリスとの茶会。 夕方はヴィオラとの衣装確認。 多い。「減らした?」「減らしました」「これで?」「はい」 前にも聞いた気がする。 私は予定表を見る。 文字は読める。 でも、意味があまり入ってこない。「今日、工房行ける?」「無理です」「じゃあ倒れるかも」「縁起でもないことを言わないでください」 リーネが眉を寄せる。 私は少し笑おうとした。 でもうまく顔が動かなかった。「ルカ様」「ん」「本当に大丈夫ですか」「多分」「多分は駄目です」 多分は駄目らしい。 私は立ち上がる。 足元が少しだけ遅れた。 床が柔らかい気がした。 おかしいなと思う。 石の床なのに。「ルカ様」 リーネの声が遠くなる。 耳の奥で溶けていくみたいだった。  次に目を開けた時、天井が見えた。 白い天井だった。 彫刻室の石とは違う白。 布の白。 私はしばらくそれを見ていた。「起きましたか」 横から声がした。 セリスだった。 椅子に座っている。 いつもの綺麗な笑顔ではなかった。 少しだけ眉が下がっていて、手には本を持っている。「セリス様」「はい」「ここ、どこですか」「ルカの部屋です」 確かに、見慣れた景色だった。「私、倒れました?」「倒れました」「ああ、そうなんですか」「軽いですね」「重く言っても倒れた事実は変わらないので」 セリスは少しだけ目を細めた。「そういうところです」「どこですか」「分かりませんか」「はい」「でしょうね」 少し怒っている気がした。 でも声は荒くない。 静かだった。 だから余計に、怒っているのが分かる。 私は起き上がろうとした。「動かないでください」 即座に言われた。「でも」「動かないでください」「二回言いましたね」「必要なので」 私は諦めて枕へ戻る。 体
last updateHuling Na-update : 2026-08-16
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第十五話「朝のスープ」

 目を覚ますと、昨日より部屋が明るかった。 頭の重さは少し残っている。 でも、昨日みたいに体が沈む感じはない。 熱も少し下がったらしい。 起き上がろうとして、少し止まる。「動かないでください」 昨日のセリスの声を思い出した。 そこまで言われるほどだったかな。 少し考えてから、ゆっくり体を起こす。 昨日より軽い。でも、本調子ではなかった。 扉が静かに叩かれる。「失礼します」 入ってきたのはセリスだった。 両手に木の盆を持っている。 白い湯気が静かに揺れている。 昨日は本だった。今日は朝食らしい。「おはようございます、ルカ」「おはようございます、セリス様」「気分はいかがですか」「昨日より普通です」「それなら安心しました」 セリスは寝台の横へ小さな机を寄せる。 盆を置いても音はほとんどしなかった。 茶会の時と同じだ。 こういうところは変わらない。「それは何ですか」「朝食です」「厨房からですか」「いいえ」 セリスは少しだけ笑った。「私が作りました」 私は思わず盆を見直した。 野菜の甘い匂いがする。 豪華ではない。でも、温かかった。 なんとなく、セリスらしいと思った。「セリス様が料理をするんですか」「多少は」「知りませんでした」「話す機会がありませんでしたから」 それもそうだった。 私は寝台から降りようとする。 するとセリスがすぐ一歩近づいた。「そのままでいてください」「机まで行きます」「私が運びます」「でも」「昨日も言いました」 セリスは少し困ったように笑った。「まだ信用していませんので」 私は少し笑う。「昨日より信用されたって言ってました」「少しだけです」「まだ足りませんか」「はい」「厳しいですね」「ルカが無理をするからです」 言い返せなかった。 私は諦めて座り直す。 セリスは器を私の前へ寄せた。 湯気がふわりと上がる。 薬の匂いではなく、朝の匂いだった。「食べられそうですか」「多分」「今日は、その多分を信じます」「さっきより信用されました」「ほんの少しです」 匙を持つ。 一口飲む。 優しい味だった。 喉を通るたび、体の力が少しずつ戻ってくる気がした。「美味しいです」「よかったです」 セリスは安心したように息を吐いた。 その表
last updateHuling Na-update : 2026-08-19
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第十六話「中庭の花」

 体調が戻ってから二日が過ぎた。 熱はもう下がっている。 工房へ行こうとしたけれど、セリスにもヴィオラにも止められた。 今日は散歩くらいなら許された。 廊下へ出ると、少し先でセリスが待っていた。 いつものように姿勢が綺麗だ。 茶会の時とも違う。仕事へ向かう時とも違う。 今日は少しだけ柔らかく見えた。「おはようございます、ルカ」「おはようございます、セリス様」「今日は少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」「はい」 セリスは嬉しそうに頷く。「私の好きな場所があります」「好きな場所ですか」「はい。ご案内したいんです」 好きな場所。 そういう言い方をするのは少し珍しかった。 商談でも外交でもないらしい。 少し気になって、そのまま後をついて歩いた。 王宮の奥へ進む。 いつもより人が少ない。 書類を抱えた役人も、騎士も見当たらない。 代わりに、風が入ってきた。 中庭だった。 花壇がいくつも並んでいる。 白い花。 淡い桃色。 青い花も少しだけ見える。 どれも綺麗に揃っていた。「ここが、私の好きな場所です」 セリスは花壇を見る。 その横顔は、いつもより少し力が抜けて見えた。 外交姫ではなく、一人で花を見に来る人の顔だった。「仕事を忘れられる場所なんです」「そうなんですね」 私も花壇を見る。 綺麗だった。 でも、そのまま視線が下へ落ちる。 土に枝、切った跡。 花壇の縁まで目で追っていく。「どうしましたか」「枝、切ってありますね」「ええ。庭師が毎日手入れをしています」「この高さに揃えるの、大変そうです」 枝はどれも同じくらいの高さだった。 伸びすぎたところだけ切るなら簡単だ。 でも、全体を揃えるとなると違う。「毎日見ないと駄目ですね」「そうですね」「一日でも放っておくと変わりそうです」「庭師も同じことを言っていました」 少しかがんで花壇を見る。 土は柔らかそうだった。 水が溜まった感じもない。 小さな石も混ざっている。「いい土ですね」 セリスが少しだけ黙る。「……綺麗でしょう?」「はい」「花びら……綺麗なものは、お好きではありませんか」「好きですよ」「では、どうして」 私はもう一度花を見る。 綺麗だった。 でも、それだけだった。「綺麗だからです」
last updateHuling Na-update : 2026-08-20
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第十七話「絹の店」

 中庭へ行ってから数日が過ぎた。 工房へも戻れるようになった。 石を削る音を聞いていると、ようやくいつもの生活へ戻った気がする。 昼過ぎだった。 工房の扉が控えめに叩かれる。「失礼します」 聞き慣れた声だった。「セリス様」「作業中でしたか」「少しだけです」 私は鑿を置く。 石粉を払うと、セリスは作業台の上を見渡した。「少し増えましたね」「失敗も増えました」「そうなんですか」「割りました」 セリスは少し笑う。「それでも続けるんですね」「割るのも仕事なので」「職人らしいですね」 そうなんだろうか。 あまり考えたことはなかった。「今日は少し、お付き合いください」  セリスが言う。「今日はどこですか。また好きな場所ですか」「少し違います」「仕事ですか」「半分くらいです」「半分」「商人として好きな場所です」 少し気になった。「市場ですか」「もっと静かなところです」 セリスは少しだけ笑う。「よろしければ、ご一緒しませんか」「いいですよ」 石粉を払って上着を羽織る。 工房を出ると、セリスは前回より少し安心したような顔をしていた。「今日は工房を止められないんですね」「止めません」「珍しいです」「帰ってきますから」「帰ってきます」「信用します」「少しだけですか」「今日は、もう少しだけ」 前より増えたらしい。 王宮を出ると、石畳の通りへ出る。 市場とは反対の道だった。「市場じゃないんですね」「はい」「布を扱う職人さんのお店です」「服ですか」「絹です」 絹。 服になる前は見たことがない。「興味ありますか」「……あまり」 正直に答える。「布は着るものなので」「そうですね」 セリスは笑った。 困った顔ではない。 中庭で見た時とは少し違う。 まるで、その返事を予想していたみたいだった。「でも」 セリスは歩きながら続ける。「気に入ってくれると嬉しい」「どうしてですか」「秘密です」 そう言われると少し気になる。 でも、絹で何を見るんだろう。 花みたいに土はない。 枝もない。 職人の店なら、道具くらいだろうか。 考えているうちに、一軒の店の前でセリスが足を止めた。「着きました」 看板には絹を扱う店の名前が書かれている。 店の奥からは、一定の音
last updateHuling Na-update : 2026-08-21
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第十八話「お茶の部屋」

 絹の店へ行った翌日、私は朝から工房にいた。 昨日見た織機のことが、まだ頭に残っている。 石と布は全然違う。でも、作るところを見ていると似ている部分もあった。 一本ずつ糸を通して、間違えたら戻れるところまで戻る。そうやって最後には一枚の布になる。 石は一本ずつ重ねたりしないけれど、少しずつ形を出していくところは同じかもしれない。 そんなことを考えながら鑿を動かしていると、工房の扉が叩かれた。「ルカ様」 リーネだった。「どうしたの?」「ヴィオラ様がお呼びです」「今?」「はい」 私は手元の石を見る。 まだ途中だったけれど、今日は変なところで止めても問題なさそうだった。「分かった」 鑿を置いて、手についた石粉を払う。 リーネはそれを確認すると、工房の外へ出た。「こちらです」「ヴィオラ様の部屋?」「いいえ」「違うんだ」「今日は別のお部屋です」 また別の場所らしい。 昨日はセリスに連れられて絹の店へ行った。 今日はヴィオラに呼ばれて、知らない部屋へ向かっている。 最近こういうことが多い気がする。 廊下を歩いていると、リーネが一つの扉の前で止まった。「こちらです」 扉を開ける。 最初に見えたのは、大きな窓だった。 王宮の中にしては小さな部屋で、窓から庭の木が見える。部屋の中央には丸いテーブルと椅子が置かれていて、壁際には本棚があった。 豪華ではない。 王宮だから家具はいいものなんだろうけれど、飾りはほとんどなかった。「いらっしゃい」 窓際にいたヴィオラが振り返る。「お呼びと聞きました」「ええ。どうぞ、お座りください」「はい」 言われた通り椅子に座る。 テーブルの上には茶器が用意されていた。「お茶ですか」「見れば分かるでしょう」「そうですね」 ヴィオラが眉を寄せた。 怒ったのかと思ったけれど、そのまま向かいの椅子に座った。「今日は何かあるんですか」「何か、とは?」「話です」「話がなければ呼んではいけませんか」「いえ」 別にいけなくはない。 でも、ヴィオラはいつも何かをしている。 会議に出ているか、書類を読んでいるか、誰かと話している。何もせずに座っているところは、そういえばあまり見たことがなかった。「珍しいなと思いまして」「なにがですか」「ヴィオラ様がゆっくり座っている
last updateHuling Na-update : 2026-08-22
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第十九話「泥の外」

 お茶の部屋へ行くようになってから、何日か経った。 毎日ではない。ヴィオラに呼ばれる日もあれば、呼ばれない日もある。 最初は呼ばれた時だけ行っていたけれど、一度だけ廊下でヴィオラを見かけた時に、「今日は行かないんですか」 と聞いたら、ヴィオラに変な顔をされた。「あなたは、私がお茶を飲んでいるところへ毎回参加するつもりですか」「駄目ですか」「そうは言っていません」「じゃあ行きます」「だから、勝手に決めないでください」 そう言われた。 でも、その日の午後にはリーネが工房へ来た。「ヴィオラ様がお呼びです」「やっぱり」「何がですか」「なんでもない」 それから、何度かあの部屋でお茶を飲んだ。 話す日もある。ほとんど話さない日もある。 ヴィオラは本を読んで、私は窓の外を見たり、工房から持ってきた紙に彫りたいものを描いたりする。 同じ部屋にいるのに、別々のことをしている。それでいいらしい。 今日は朝から雨が降っていた。 工房の窓にも細い雨粒がついている。 外へ出る予定もないし、石を削るにはちょうどよかった。 昼を過ぎた頃、鑿を置いた。 少し休もうと思った。 お茶の部屋へ行こうか考える。 呼ばれてはいない。 でも、前に行ってもいいと言っていた気がする。 いや、言ってはいなかったかもしれない。 駄目とは言っていない。それならいいだろう。 工房を出て、廊下を歩く。 雨の日の王宮はいつもより静かだった。 窓の外を見ると、庭の土が濡れている。 あの部屋の窓からも、今日は雨が見えるんだろうか。 扉の前まで来て、軽く叩いた。 返事がないから、いないのかもしれない。 帰ろうとした時、廊下の向こうから声がした。「ルカ様?」 振り返ると、 ヴィオラの侍女が立っていた。「ヴィオラ様なら、庭にいらっしゃいます」「庭?」「はい」「この雨で?」 侍女が困った顔をする。「何かあったんですか」「いえ。ただ……」 言いにくそうだった。「あそこの庭ですか」 侍女が頷くから、向かうことにした。 外へ出ると、思っていたより雨が強かった。 屋根のある回廊を進む。 庭へ近づくほど、雨の音が大きくなる。 ヴィオラはすぐに見つかった。 庭の端に立っていた。 傘は持っている。でも、裾が濡れていた。 白い靴にも泥がつい
last updateHuling Na-update : 2026-08-30
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第二十話「怒らない女王」

 ヴィオラと雨の中で話してから、何日か経った。 工房へ行き、石を削って、時々セリスと出かける。 ヴィオラのお茶の部屋にも行く。 少し前より、王宮の中で行く場所が増えていた。 昼前、工房の扉が叩かれた。「ルカ様」 リーネだった。「どうしたの?」「陛下がお呼びです」「今?」 珍しい。「はい」 私は手元の石を見る。 今日はここで止めても問題なさそうだった。「分かった」 鑿を置き、手についた石粉を払う。 リーネはその様子を確認してから、工房の外へ出た。「今日はどこ?」「陛下の執務室です」「今、仕事中だよね?」「おそらく」「じゃあ、何で呼ばれたんだろう」「私には分かりません」 リーネはそう言ったけれど、何か知っている顔をしていた。 でも、聞いても言わなそうだった。 執務室へ向かうと、廊下の窓から庭が見えた。 雨はもう上がっているけれど、雨が降り続けていたせいで、土はまだ少し濡れている。 ヴィオラの白い靴を思い出す。 あのあと、ちゃんと泥は落ちただろうか。「ルカ様」「何?」「着きました」 考えているうちに、執務室の前まで来ていた。「失礼します」 扉を開けると、ルシアは机に向かっていた。 書類がいくつも積まれている。 羽根ペンを動かす手は止まらない。「来たのね」「はい」「少し待っていて」「分かりました」 部屋の端に置かれた椅子へ座る。 紙をめくる音と、羽根ペンが走る音だけが聞こえる。 ルシアは仕事をしている時も静かだった。 ヴィオラは一つずつ丁寧に整える感じがする。 セリスは話しながら、いつの間にか全部終わらせていそうだ。 ルシアは最初から終わる場所が見えていて、そこへ向かっているように見えた。 しばらくして、羽根ペンが止まる。「待たせたわ」「終わったんですか」「一度区切っただけ」「まだあるんですね」「ええ」 机の上を見る。 まだ書類は残っている。 女王は大変そうだった。「工房はどう?」「普通です」「そう」「陛下は?」「見れば分かるでしょう」「忙しそうです」「そうね」 ルシアは椅子へ深く座り直した。 そのまま、しばらく私を見る。「どうしましたか」「何でもないわ」「何かついてます?」「こちらへ来て。石粉が少しついている」 髪に触れる。 どこに
last updateHuling Na-update : 2026-09-05
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