第一話「それより、彫刻彫りたい」 白薔薇宮廷の会議室は、静かだった。 静かなまま、人が刺し合っている。 「東方との香料取引ですが、輸送路を海側へ寄せるべきです」 セリスが微笑みながら言う。 「海賊被害が増えています。危険では?」 ヴィオラが穏やかに返す。 「護衛船を増やせば済む話です」 「その費用を誰が負担するのですか」 「利益の出る交易ですもの。回収は可能でしょう?」 二人とも笑っている。 でも、仲が良い感じはしなかった。 私はぼんやりそれを見ながら、机の下で親指を擦る。 石を削る時の感覚を思い出していた。 少し柔らかい白石。 刃を入れると、粉が静かに落ちるやつ。 あれ、今度もう一回触りたい。 「ルカ」 「ん」 名前を呼ばれて顔を上げる。 女王ルシアがこちらを見ていた。 真っ黒な瞳。 この人は、いつも静かだ。 「話を聞いていたか」 私は少し黙った。 たぶん、聞いてない顔をしていた。 「……聞いてはいました」 「何を」 「色々です」 ヴィオラが細く息を吐く。 「具体的には?」 「えーと……政治とか、船とか、香料とか……」 「雑ですね」 「すみません」 セリスが肩を震わせた。 笑っている。 「では、そのあと何を考えていたんです?」 私は少し考える。 でも途中で面倒になった。 「彫刻です」 私は少し笑った。 部屋が静かになる。 後ろでリーネが小さく息を吸った気配がした。 「……会議中ですよ」 ヴィオラが言う。 「知ってます」 「知っていて彫刻を考えていたんですか」 「いや、途中までは聞いてました」 「途中から聞いていないじゃないですか」 「はい」 ヴィオラが頭を押さえる。 この人、最近よくこれをやる。 私は少し申し訳なくなった。 「すみません」 「反省している顔に見えません」 「半分くらいは」 「半分」 セリスがまた笑っている。 なんなんだろう、この人。 「どんな石ですか?」 セリスが聞く。 この人は、こういう聞き方をする。 怒る代わりに、入ってくる。 「白いやつです」 「雑ですねぇ」 「でも硬すぎないやつ。刃が入りすぎるとだめなので」 「へえ」 セリスが頬杖をつ
Last Updated : 2026-08-09 Read more