教室の中。ざわめく生徒たちの声に混じって、ドンッ、と私の机に新しいマイボトルが置かれた。「ほら、お前の母親が煎じた薬。熱いうちに飲めよ」樹の顔には、酷く冷たい表情が張り付いていた。私は少し戸惑いながらもそれを受け取り、ボトルの蓋を開けて中身を一気に飲み干した。――だけど、今日の薬はいつもと違った。舌を刺すような、異常な苦み。顔がぐしゃりと歪み、生理的な涙がポロポロとこぼれ落ちるのにも気づかないほどだった。それでも私は、いつもの癖で、無表情な樹に向かってふわりと微笑み、そっと両手を差し出した。だって、これまで彼が薬を飲ませてくれる時は、必ず後に甘いドライフルーツや飴玉を準備してくれていたから。けれど今回、彼から返ってきたのは、汚い物でも見るかのような嫌悪の眼差しだった。「飴なんてねぇよ。いい歳して、薬を飲むのにご褒美が必要なのか? ガキじゃあるまいし、みっともない」その冷酷な言葉が落ちた瞬間。私たちのすぐ隣で面白そうに見ていた夕奈が、突然お腹を抱えて吹き出した。「あはははっ! 無理、お腹痛いっ。ねぇ、本当に声が出せない人って、あんなに苦いものを飲まされても悲鳴ひとつ上げられないんだね!」彼女はひとしきり笑い転げた後、ニヤニヤと悪意に満ちた笑みを浮かべたまま私を覗き込んだ。「言葉ちゃんって、ほんと騙されやすいよねぇ。樹くんの言うことなら、なんでも信じちゃうんだ?」夕奈の唇が、三日月のように吊り上がる。「そのボトルの中身、ただの薬じゃないよ。罰ゲーム用の激苦草(げきにがそう)のすり下ろし」えっ……?一瞬、頭が真っ白になった。口内に残る酷い苦みよりも、胸の奥からじわじわと広がる苦しさに息が詰まりそうになる。私は震える手で手話を紡ぎ、樹に問いかけた。『彼女の言っていること、本当なの?』樹はふいっと顔を逸らし、窓の外へ視線を投げた。何も、答えない。……彼が答えに窮した時、いつもこうやって沈黙して逃げることを、私は誰よりも知っていた。それが『答え』だ。私は手元のマイボトルを力強く握りしめ、ゴミ箱へ捨てようと立ち上がった。しかし、夕奈がわざとらしく私の行く手を遮り、隣の樹の腕に甘ったるい声で擦り寄った。「ねぇ樹くぅん。あんなに苦いのに、なんで彼女は声も
Leer más