結婚指輪がワイングラスの底へ沈み、小さな音を立てた。颯真はほんの少し目を伏せ、ナプキンで指先を包んで指輪を拾い上げた。「人前でかんしゃくを起こす。80点」そう言うと、指輪をテーブルの上に置き、淡々と話を続けた。「茉里、みんなの前で恥をかくような真似はやめろ」周囲の笑い声が止んだ。茜は酒のしずくがかかったワンピースの裾をつまみ上げ、慌てて私たちの間に割って入った。「颯真、茉里ちゃんを責めないで。颯真のことが大切すぎるだけなんだから」そう言ってこちらを振り向くと、目元には柔らかな笑みが浮かんでいる。「茉里ちゃん、指輪をそんなふうに投げちゃだめよ。ほら、ちゃんとはめ直して」差し出された手を目の前に、私は動かなかった。彼女の左手の薬指には、青いダイヤの指輪がはめられていた。それは去年、私が自分の手でデザインしたものだった。颯真は、完成品に傷があって私には似合わないから、処分に回したと話していた。まさか「処分」というのが、茜の指にはめることだったなんて。私は小さな声で尋ねた。「きれい?」茜は、思わず手を少し引っ込めた。「颯真がくれた周年記念のプレゼントに過ぎないの。茉里が気に入ったなら、今すぐ外すわ」颯真が彼女を止めた。「贈ったものを、今さら返してもらう理由はない。茉里はアクセサリーをたくさん持ってるだろ。何でもかんでも取り合う必要はない」私は小さく笑った。「私のデザインなのに、どうして譲らなきゃいけないの?」「今は茜のものだからだ」彼は結婚指輪を私の前へ押しやった。「ちゃんとはめて、彼女に謝れ。今夜のことはそれで終わりだ」「謝らない」茜がそっと颯真の袖を引いた。「もういいじゃない。ワンピース一着のことだよ。茉里は仕事から離れて長いから、気持ちが揺れやすいのも仕方ないよ」颯真の表情が和らいだ。「茜はいつも茉里の肩を持つな」彼はマイクを手に取り、来客たちに周年記念パーティーの最後の人事異動を告げた。「本日付で、山崎茜を海外事業部の部長に任命する。Dプロジェクトのすべてを任せる」拍手が沸き起こった。Dプロジェクトが、私の手で丸2年かけて立ち上げられたことは、誰もが知っていた。退職する前に私が取りつけたクライアントも、身につけた四か国語も、
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