All Chapters of 自分に読むラブレター: Chapter 11

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第11話

「美月。フランス語で読んだ」雨の中、怜司は片膝をついたまま私を見上げていた。その目に浮かんでいるのは、絶望に近い懇願だった。「聞きたかったんだろう?本当に反省したよ。今度こそちゃんと向き合うから……頼む。もう一度だけ、機会をくれ」私は傘を差したまま、何も言わずに怜司を見下ろした。5年前、自信に満ち、自分の判断を疑うことさえなかった主任翻訳官が、今は自分で壊した関係にすがっている。それでも私は近づかず、手も差し伸べないまま、バッグから一枚の書類を取り出して怜司へ差し出した。離婚届だった。私の欄には、すでに署名してある。「怜司」目を合わせ、静かに告げる。「5年も遅れたのよ」怜司の瞳が大きく揺れた。「この手紙なら、ずっと前に自分で辞書を引いて、一語ずつ訳したわ。もう、自分に読んだの」離婚届を、怜司が握るラブレターの上へ重ねる。「署名して。最後まで、あなたを見損ないたくないの」それだけを残して背を向けた。水たまりを踏みながら歩き出しても、振り返らない。背中に怜司の視線を感じたまま角を曲がったが、追ってくる足音はなかった。ようやく分かったのだろう。本当に、私を失ったのだと。帰国して3日目、パリから荷物が届いた。差出人は怜司だった。ベランダの椅子に腰を下ろし、カッターでテープを切る。以前なら、中身が気になって手が震えたかもしれない。けれど今は、事務書類でも開くような気持ちで箱を開けた。中に入っていたのは、署名済みの離婚届だった。私の名前の隣には怜司の署名があり、力を込めすぎたのか、文字はわずかに乱れている。ほかには、以前の家に置き忘れていた予備の鍵と、小さなベルベットの箱が入っていた。蓋を開ける。あの高価なダイヤの指輪でもなければ、以前の出張先で何となく買ってきた冷蔵庫用のマグネットでもない。そこに収まっていたのは、手作りらしい銀色のブローチだった。形は、桔梗の花びら。小さなメモが添えられている。【美月へ。自分で作った。誰のためでもなく、お前のためだけに】【これからの人生が、幸せでありますように。今までごめん】私はしばらく、銀色の光を見つめていた。胸の奥がほんのわずかに揺れたものの、感動したわけでも、昔の気持ちが戻ったわけでもない。ただ、少しだけ苦く、切なかった。5年
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