『サバンナビルディング取り壊しのお知らせ』 ……そんな事務的な言葉が並んだ紙が、福祉施設のドアに挟んであった。 「やっぱりお宅にも入った?」 「突然退去しろだなんて、あり得ません!」 私、汐沢凪は、腹立ちまぎれにその紙を引きちぎった。 「行ってきます。……この、京極REAL ESTATEって管理会社に」 「本当……?悪いなぁ、俺1人だから、店空けられなくてさ」 ここはサバンナビルディングに入る凪が経営する福祉施設。 対応を相談に来たテナントの店主が、凪に手を合わせる。 「お互い死活問題ですからね!……絶対中止させなきゃ!」 ……嫌なことは重なるものなのだろうか。 勢いよく出てきたものの、凪の心は塞いでいた。 それは、たった今目にした婚約者、真壁雅人の裏切りが原因…… 昨夜のデートで忘れた書類を、朝のうちに彼のマンションに渡しに行ったのは、仕事で必要なものだったらいけないと思ったから。 なのに、まさかの光景を目にしてしまった。 「楽しかったよ。またおいで」 送り出した女性と、玄関先で激しく口づける雅人……ただならぬ関係なのは一目瞭然。 ……父に頼まれた契約結婚ながら、優しくてスマートな彼に惹かれ始めていたのに、自分とのデートの後、女性を泊めていた。 そんなことができる人だった…… 凪はこぼれそうな涙を拭い、京極 REAL ESTATEへと向かった。 ◇◇◇◇◇◇◇ それは都会の一等地にそびえ立つ大きなビルだった。 何階に入っている会社なのか確かめようとして、一棟丸ごとその会社だとわかる。 受付でエレベーターホールへと案内され、最上階のボタンを押された。 扉が開いた場所は、いかにも社長室のフロア……という雰囲気。 ひとつのドアが向こうから開いた。 「汐沢さんですね?サバンナビルディングの」 「はい。立ち退きをお断りいたしたく、代表して参りました」 「……そうですか、どうぞ中へ」 挨拶に若干苦笑された気がした。この人がビルの取り壊しを決めた悪徳社長か、と思いながら……驚きを隠せない。 見上げるほど背が高く、近づけばいい匂いまでする。切れ長の瞳と整った顔立ちに温かみはないが、とんでもなくカッコいい人だった。 「改めまして、京極と申します」 ……名刺を手渡す指先まで綺麗だ。 「私は、つまみっ子倶楽部という福祉事
Last Updated : 2026-08-12 Read more