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3.ネックレスは誰のもの?

Author: 桜立風
last update publish date: 2026-08-12 15:05:58

京極REAL ESTATE……社長室。

前妻に贈ったと言う京極と、しばし睨み合う凪。

「そんなはずありません。これは……間違いなく私の母の形見です」

「いつ?そのネックレスを手に入れたのは」

「失礼な言い方だと思いますけど」

ずっと握られた手首を振り払い、凪は京極に強い視線を向ける。

「形見なんだから、母が亡くなった時に決まってます」

「失礼。だがそれは、俺にとって大切なものに……とてもよく似ている。ちょっと外して見せてほしい」

はじめの余裕はどこへやら。あまりに真剣な様子を無視できず、凪はネックレスをはずして見せた。

受け取ると、懐かしむように眺める京極。

前妻に贈ったと言っていた。……ということは、この社長は独身でバツイチなのか。

「買い取らせてくれ。金額はいくらでも構わない」

「……あの、」

母の形見だと言っているのに、ハイそうですか、とでも言うと思っているのだろうか。呆れて言葉を失う凪を、真剣な表情で見つめる京極。

そこへ、この場に相応しくないにぎやかなメロディが響き渡った。

「あ、ちょっと……失礼します」

自分の携帯が鳴っていることは、メロディでわかる。凪は京極から少し離れて着信を繋ぐ。画面に表示された相手の名前は確認しなかった。にぎやかなメロディに呆れたように笑った京極が気になって……

「はい、汐沢です」

『凪、朝から来てくれたんだね』

「雅人、さん」

絶妙に困ったタイミングの着信に、凪は画面を確認しなかったことを後悔した。

『助かったよ。今日の仕事で必要な書類だったから』

「そうですか、それはよかったです」

爽やかな声を聞いて、今朝目撃した裏切りのキスを思い出した。同時に父に婚約破棄を希望したことも……その話はまだ聞いていないらしい。

『お礼に今夜食事に連れて行くよ。昨日のレストランとは違うところ。女性が好きそうなところをみつけたから』

女性が好きそうな……今朝の女性を連れて行ったのだろうか。余計な詮索をしてみたらどうなるのか……きっとこの人は余裕で否定する。

「いえ、今日は先約があるので」

『それなら週末。今度こそ、泊まりに来てよ』

「……は?」

その意味を一瞬で悟り、顔が赤くなるのがわかった。父に紹介されて、もう何度も2人で会っている。そのほとんどが夜で……会う回数を重ねるたび、触れられることが多くなったと感じていた。

「それは、その……週末も約束があるので会えません」

『恥ずかしいの?……結婚するんだからいいでしょ?』

出先なので、と言って返事を聞かずに着信を切った。振り返ると、京極は先ほどのソファに座り、まだネックレスを眺めている。

「今のは嘘?」

なんでもない顔をしながら、京極はやり取りを聞いていたようだ。再び顔を赤くする凪を見て、質問の答えを予想したらしい。

「仕事中にあまり引き止めても申し訳ない。今夜改めて会えませんか?」

「それは……」

やっと戻ってきたネックレスに、京極のぬくもりが残っていた。会う理由はきっと、このネックレスを手に入れるための値段交渉……

「君が話したいことも聞く。これでOK?」

「わかりました」

サバンナビルディングまで迎えに来る、という申し出を断って、待ち合わせる店の名前を聞いた。……横文字でパッと頭に入ってこない。

「ル・ミロワール・デ・セゾン。 看板にはこう書いてあるから」

手近なメモに、Le Miroir des Saisons と書き、手渡してくれた。

「ありがとうございます」

お礼を言いながらも、笑顔がバカにされているようで腹が立つ。

別にこんな高級そうな店じゃなくてファミレスでいいのに……凪は足早に社長室をあとにした。

「で、どうだった?」

つまみっ子倶楽部に戻ってみると、ランチ営業を終えたらしい中華料理店の店主とイタリアンレストランのオーナーが集まっていた。

「突然の取り壊しには応じられないと、こちらの意向は強めに話してきました」

「そうか。せめて1ヶ月の猶予があればな、考えないこともないんだが」

「……は?お2人とも、そうなんですか?」

出かけていくときとはずいぶん違う雰囲気の店主たちを交互に見る凪に、小森が口を挟む。

「さっき電話があったらしいですよ。京極REAL ESTATEの社長秘書って人から」

「いったい、なんて……?」

「立ち退き料、はじめに提示した金額の倍出すって」

……ということは、通常の4倍?

凪は思わず立ち上がった。

あの社長は、やはり人間を金で動かそうとしている……きっとこのネックレスにも法外な値をつけて奪い取ろうとする気だろう。

冗談じゃない……凪は店主たちと小森に向かって宣言した。

「私は絶対に立ち退きなんて認めませんよ?……こうなったら、テコでも動かないんだから!」

そんな勢いのまま夜になり、京極との約束の店に行こうとサバンナビルディングを出た時だ。覚えのある手の感触が手首を掴んだ。

振り向いた凪が見たのは、思いがけない人物の顔だった。

「……どうしてあなたがここに?」

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