Share

7.京極社長、今夜お時間ありますか?

Author: 桜立風
last update publish date: 2026-08-24 18:09:13
「ここ、ですか?」

「あぁ。話した黒石興業。仕事は家政婦な?」

数日後、京極に連れて行かれた場所には、確かに『黒石興業』という小さな表札がかかっている。中に足を踏み入れると、遠目に人が動き回っているのが見えた。全員が黒いスーツ……シャツも黒っぽくて皆同じに見えた。

「業種はまぁ、冠婚葬祭の、葬を主に扱っている」

「だから皆さん喪服なんですね……」

「……まぁ、そんなところだ」

京極に笑われていることなど知らず、凪は先に歩き出す。

「おい!全員整列しろ!」

誰かが凪と京極の訪問に気づいたらしい。あちこちから「へいっ!」という威勢のいい声が聞こえて、廊下に黒い男たちが並ぶ。

「京極社長に紹介されて参りました、つまみっ子倶楽部の汐沢と申します」

「ようこそおいでくださいました。今日から2週間、よろしくお願いします」

頭を下げてくれた年配の男性は社長だと、京極が教えてくれた。早速中に入り、キッチンに案内してもらう。

「……わぁ、綺麗にしてますね」

「えぇ。長いこと勤めてくれてた婆さん……いや、女性スタッフがよくやってくれてて。腰を痛めて急に辞めてしまったので困ってたん
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   83.背後に誰かいる

    「お前ら3人の企みか?……それとも」「……なんのことかしら?」ソファから立ち上がる真美は、明らかに追及から逃れようとしている。「手放したネックレスが惜しくなって、今になって接触してきたのか?凪の母親が亡くなったと知ったから」……京極の言葉を聞いて思う。真美はどういう経緯で母の死を知ったのだろうか。つまみっ子倶楽部の他のスタッフと、付き合いが続いている気配はなかったが。一瞬立ち止まったものの、真美は答えずリビングを出ようとした。それを京極が遮るように立ちふさがる。「……それからこの封筒の検査機関、電話がつながらないぞ?誰の紹介で知った機関だ?担当者の名前は?」「どうして疑うのよっ!」問い詰められ、真美は声を張り上げて京極の胸を押した。凪はそばで、ハラハラしながら事態の行方を見守っている。「盗み出したネックレスと指輪は、念のために裕貴に預けたのに、まさか秒でバレるとは思わなかったろ?」「……うるさいっ」「凪がここへ入る裕貴を見てるんだよ。加えて保管室のドアを完全に閉めなかったから、おかしいとすぐに気づいた。裕貴が抜けてるのは確かだが、確認を怠ったお前もツメが甘い」一瞬威勢よく怒り出した真美だったが、今度はだらりと腕を下げ、下を向いた。「……そうよ、舞菜はあなたの子じゃないわよ」チラリと凪に向く京極の視線。凪の心はスッと軽くなっていく……「せっかく大金手に入れられると思ったのに。……それだけじゃない。舞菜の父親も、社会的に潰してもらう約束だった」「誰に潰してもらうんだ?アクセサリーを奪うよう依頼してきたのと同一人物か?」「……DNA鑑定の親子関係の証明にも動揺しないなんてね、本当に私は、あなたに信用されてなかった」質問には答えず、真美は続ける。「……最初から本物の検査なんてしてないもの。……連絡できるはずないでしょ」具体的な名前は言わないものの、真美がネックレスと指輪を奪い、それと引き換えに報酬を約束されたことは明らか……黒幕は、確実にいる。「一応、保険のつもりだったのよ。アクセサリーが奪えなくても、せめて舞菜をあなたの子供に仕立て上げて……まとまったお金は取れると思ったのに」出ていくわ、と言って、ふらつく足取りで部屋に向かう真美。凪は京極を見上げ、そっとため息をついた。本当なら窃盗を訴え、警察に通報するべきだったのか

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   82.誤算

    「急に、結婚とか言うからですよ……」 「言ったのは俺じゃないが?……まぁ、可愛いからいいか」 伸びてくる手に思わず自分の手を重ね、見上げる京極の顔がわずかに上気した。 「まだ、真美の嘘を証明できないのに……ごめんな。こんな話になって」 「それなんですけど、結果がわかるの、少し遅くないですか?」 「そのことなんだが……あいつが手配した機関だったよな。何か、仕組まれていなければいいと思うんだが」 舞菜が傷つかないようにと、凪は願うばかりだったが……思い切って、ここで聞いてしまおうか。 「もし、もしも……ですけど、舞菜ちゃんが本当に娘だったら、どうしますか?」 「それは……」 京極はハンドルを操りながら、少し考えているようだ。 「娘であれば、それ相応の責任は生じるが、俺は凪をあきらめられない。だから、責任を果たしながら……君と、生きていきたい」 君は?……と控えめなクエスチョンが返ってきた。 「同じ気持ちです……」 「……は、はは……」 変な笑い声を響かせ、京極がハンドルを軽く叩く。それがテレたことによる笑い声だと察して、自分の熱くなった頬を両手で覆った。 そんなやり取りが、どれほど平和だったかと思い知らされたのは、そのすぐ後のこと…… 「ちょっと話がある、出てきてくれないか」 自宅に帰った京極が、真美にマスターキーを持ち出したこと、地下の保管室に無断で入ったことを問い詰めようと部屋をノックしたときだ。 先にリビングに向かった凪が先に見つけてしまった。 「……親子関係99.99%」 テーブルに置かれた書類。それは、信じたくない内容だったが……たった今気持ちを確かめ合ったばかり。……大丈夫、と、凪は嫌な鼓動を打つ胸に手を当てた。 「……あり得ない!」 「どうして?ここ、ちゃんとした機関よ?」 部屋に呼びに来た京極に素直に対応した真美。2人は向かい合ってソファセットに座っている。 京極は隣に凪を座らせ、真美を睨んだ。 「今回の鑑定結果には納得がいかない。マスターキーを盗んで地下の保管室に侵入した件といい、君は何を企んでいる?」 「……地下の、保管室って」 DNA鑑定のことよりその言葉に反応する真美。 「昨夜ドアが開いてることに気づいたんだよ。……それに、ここへ裕貴が来たことも、目撃されてるぞ」 「なんてこと……まっ

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   81.ダイヤの秘密

    ……どうして驚かないのだろう。突然やってきた2人に眉ひとつ動かさず、小山内は中へと招いてくれた。「裕貴なら、ついさっき店へ行ったよ」ダイニングテーブルに2人を座らせ、小山内はコーヒーメーカーをセットしている。その動作は妙に丁寧で……凪はなぜか胸騒ぎを覚えた。「じいさん、のんびりコーヒーを飲んでる状況じゃないんだ。裕貴が店に行ったならこれから……」「大丈夫だ。心配するな」振り返った視線は落ち着いていて、京極をも黙らせる。ネックレスと指輪はここにあるということか。持ってきたのは裕貴……推理したことが正しかった?コーヒーを揃いのマグカップに注ぎ、小山内は2人の前に置く。「ミルクを入れたいんなら、冷蔵庫の中に牛乳があるから」そう言ってリビングから出ていくと、紙の袋を手に戻ってきた。凪のマグカップにミルクが入った形跡を見て、小山内は孫娘に向けるような優しいまなざしをしてみせる。「俺が知ってるすべてを話してやる。これまで言えなかったすべてを」小山内は京極に持ってきた紙袋を手渡した。中身を確認すると……ネックレス、そして指輪が出てきた。そして……台座から外された、京極家の2つのダイヤも。「裕貴がこれを持って帰ったのは昨日だ。部屋にこもって何かしているから問い詰めたら、ダイヤを外していた。……まったく、あの馬鹿者が」「やはり昨日うちへ来て、これを持っていったのか」「誰かに誘われたはずだ。……今、お前のとこに誰がいる?岳でもいるのか」「……いや、」京極はチラリと凪を見た。「突然、元妻の真美が接触してきて……俺の子供を産んだと主張している。そんな覚えはないから、DNA鑑定をさせているところなんだが、」京極もふと感じたようだ。……鑑定結果が出るのが妙に遅いと。「……は、そういうことか」小山内は京極邸に真美がいると理解したようだ。「裕貴さんは、真美さんに誘われて京極邸に入った。そして彼女に言われてアクセサリーを奪って持ち帰った……ということですか?」「多分な。だがその裏に、真美だけではない人物がいる」「……それは、」次の瞬間、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。……裕貴か?小山内は紙袋を凪に押し付け、バッグにしまうよう目で合図をした。とっさに京極に視線を向け、2人でバッグに紙袋を突っ込んだ。「あれ、李仁くん……来てたの」裕

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   80.疑惑の行き先

    「……まさか、あいつ」地下の保管場所へと急ぐ京極の後を追い、凪も一緒に部屋へと足を踏み入れた。不穏なことに巻き込みたくなくて、新田には部屋に戻ってもらった。……けれど、意外と勘の鋭い彼のこと。ここに何かあることくらいは想像しているかもしれない。京極の指が、暗証番号を入力する箇所を叩いた。「特殊な強化ガラスにしたことで安心して……ミスったな」どういうことかと顔を覗き込んでみれば、凛々しい眉を寄せ、苦い表情の京極がこちらを向く。「結婚当初、ここには真美の宝飾品も保管していた。……だから暗証番号を教えていたんだ」「その後、番号は変えなかったんですか?」「あぁ。……まさか、あいつが覚えているとは思わなかった」そうか……一緒に暮らしていたこの家のことならいろいろとわかるはず。「真美さんが開けたと思ってるんですか?」「あぁ。きっと番号を控えていたんだろう。……どこまでも小賢しい奴だ」見れば、京極の目の下が青黒い気がする。焦燥感と絶望に加え、悲しみまで漂っているように見える。「真美の職場に連絡しよう。すぐに戻らせて説明させる」「待ってください」行きかけた京極の腕を取り、凪は彼の前に立った。「真美さんを問い詰めても、シラを切られたら終わりです。……それより、裕貴さんに事情を聞きに行ったほうがいいように思うんですけど」「裕貴に?」「はい。裕貴さんが今朝この家にやってきたのは間違いありません」凪はポケットからゴソゴソと、携帯を取り出して操作し、ある画像を京極に見せた。「は……すごいな。写真を撮っておいたのか」「はい。ナンバーもしっかり映ってます」「車は確かにこの車種だった気がする。……これを持って、裕貴を訪ねるか」うなずきながら、少しだけ目元に生気が宿った京極に、凪は心の中でホッとため息をついた。「明日は休みなので、私行ってきます」「あぁ、そのことだが……」京極は一瞬視線を下に向け、改めて凪を見た。「俺も一緒に行く。……しばらくは、この件を解決する時間が取れそうだから」話が終わり、凪は自室へと戻ってきた。京極が話してくれた一連の会社での出来事は、偶然が重なったと納得するにはあまりにも……不思議な、そして不運な重なりだと凪も思った。その上、代表取締役の解職……株主総会を経て、京極REAL ESTATEから追われる可能性もあると

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   79.ダイヤの行方 side.裕貴

    「……バカッ!なんでこんなに早く来るのよ!」「場所がよくわからないから早めに来ただけですよ……」インターホン越しにいきなり怒鳴られた。……真美さんってそういう人だったのか。だったらこの話、乗らなきゃよかったかな。門が開いて中に入ると、真美が玄関ドアを勢いよく開けて大股で歩いてきた。そして俺の腕をつかむと、物凄い力で引っ張っていく。「……遊びに来たわけじゃないのよっ?!あなたには大事な仕事があるの!」初めて来た李仁の家は、ため息が出るような贅沢な空間が広がっていた。どこを見ても一枚の絵画のようで、思わず祖父と暮らす自分の家と比較する。「全室のマスターキーを渡しておくわ。これを使って各部屋を捜索して」「マスターキーって……よくバレませんでしたね」「ここに来てすぐ、李仁の寝室から取ってきたの。よく寝てる時間を狙ったから楽勝よ。……それにあの人、鍵もかけずに休んで、よっぽどあの凪って子を信用してるのね」鍵を放り投げ、真美は続けた。「私はお昼まで寝るから、その間にネックレスと指輪を捜索しておいて」「え……1人で、ですか?」「だから昼過ぎに来いって言ったのよ!お店が終わったの朝方よ?少し寝なきゃもたないわ」真美はそう言いながら奥の部屋へと入ってしまった。予想以上に広い李仁の家と、キツい真美の口調……始める前から気が滅入る。「こんなことなら組まなきゃよかったかな」2度目にそう思った時、真美が突然小山内宝石店にやって来た日のことを思い出した……◇◇◇◇◇「……小山内裕貴くんよね?」「あれ?……真美さん?李仁の、」「覚えててくれた?嬉しい!」その場でギュッと手を握られ、思わず彼女の顔を見た。……昔からこういうスキンシップが得意な女だったと思い出す。「話は、聞いてるわ」誰から……とは聞かない方がいい気がした。それに今日接触してきたのは、祖父の姿がないことを確認してのことだとわかる。「重要な情報を流してるらしいじゃない?すごいわね……」「ま、まぁ……祖父の仕事を手伝ってましたから。李仁のダイヤについては、それなりに詳しいですよ」「そう。だったら、私と組まない?」黒く囲んだ大きな目が、じっと俺を見つめた。……俺があのダイヤに何をしたかなんて、この女は知る由もない。それにしても……李仁と離婚してから格段に化粧が濃くなったな……昔の

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   78.暗闇の京極

    真美の希望で舞菜を20時まで預かり、朝と同じように新田と3人で京極邸へと帰る夜。つまみっ子倶楽部で楽しそうに過ごしていた舞菜が、さすがに疲れたのか……途中でウトウトし始めた。「あぁ、失敗したなぁ……慣れてないのに、長時間預かって疲れさせちゃったかもしれない」簡単に引き受けてしまった自分のミスを悔やむ凪を、新田の明るい声が救う。「大丈夫でス!……こういう時のために、おらがいまスから!」ヒョイと舞菜を背負い、恐縮する凪から荷物まで奪う。「すみません……あの、タクシーを呼びましょう」「そいだら駅まで行って、そごから乗った方がいいでス!迎えに来てもらうんじゃぁ、運転手さんの手間だべ?」「はい、そうですね」笑顔の新田を見て思う。鈍そうなのに実は色んなことに気づいて、気を利かせることができるこの人は、実はとても優秀かつ貴重な人材だと。京極邸に到着する頃にはすっかり眠ってしまった舞菜。そのまま部屋に運び、寝かせることにした。家の中は暗い……真美は仕事に行ったのだろう。……てっきり、誰もいないと思った。「……わぁっ!びっくらこいだなぁっ!」先にリビングに戻った新田が驚きの声を上げ、凪も慌てて向かってみると……「京極社長……?!明かりもつけずに、どうしたんですか?」長い足と腕を組み、片手を立てて顎を支え……「考える人」のようなポーズでソファに座っている。……視線は中庭に向いているが、何も見ていないことはわかった。「あぁ、帰ったのか。おかえり」「ただいま、です。今、食事を準備しますけど……」「いや、俺は軽く食べたから、今夜はいい」立ち上がり、そっと凪の頭を撫で、ドアに向かう。何かあったのだろうか……いつもならこんな時、笑ってみせる人なのに。頭に残る手の温もりが、わずかに凪を不安にさせた。そしてそんな背中に声をかけづらい。……今朝、裕貴がこの家に来たのを見たことを。夕食は新田と手分けして準備した。舞菜には、起きたら食べられるよう小さなおにぎりを、いらないと言った京極にも、野菜スープだけ準備した。2人で食事をとり、一足先にリビングを出た新田。「な、凪さん!……地下室のドアが開いてまス!」慌てた様子で戻ってきた新田が、廊下を指さしてオロオロしている。「えっ……地下室?」京極が大切なものを保管している場所だ。凪は新田の脇

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status