私は書斎で、離婚協議書を最初から最後まで改めて読み返した。白い紙に黒い文字で、内容は明確に整理されている。財産分与の欄では、私は何ひとつ要求していなかった。結婚前から玲司が所有していたこの家も、車も、全て彼のもの。会社の株についても私には一切関係がない。私が持っていくのは自分名義の貯金だけだ。私は離婚協議書に久世昭寧(くぜ あきね)と自分の名前を書き込んだ。三年前の私は、この結婚が利害から始まったものだとしても、きちんと向き合っていけば、いつかはうまくやっていけるかもしれないと本気で思っていた。あの頃の私は、本当に馬鹿だった。離婚協議書を封筒に入れ、リビングのローテーブルに置く。それからスマホを取り出し、玲司とのトーク画面を開いた。【今日は少し早めに帰ってきて。話したいことがあるの】二分ほどすると、玲司のアイコンの横に一言だけ表示された。【わかった】私はスマホの画面を閉じ、そのままソファの上に放り投げた。キッチンへ向かい、コップに水を注ぐ。このキッチンは広い。観音開きの大きな冷蔵庫に、ビルトインのオーブン。ドイツから取り寄せた調理器具まで、一つひとつきれいに並べられている。けれど私はほとんど使ったことがない。結婚したばかりの頃は、何度か料理を作った。玲司が帰ってきたとき、せめて温かいものを食べてもらえればと思っていたのだ。初めて作ったのは肉じゃがだった。玲司は一口食べて、悪くないと言った。けれど、その直後に電話がかかってきて、そのまま出ていった。若菜のところで何かあったらしい。二度目は、鶏の照り焼きを作った。その日は、玲司はそもそも帰ってこなかった。三度目は、テーブルいっぱいに料理を作った。午後四時から始めて、夜七時までずっとキッチンに立ちっぱなしだった。その日は玲司は帰ってきた。けれどその後ろには若菜がいた。二人は楽しそうに話しながら家に入ってきて、テーブルいっぱいに並んだ料理を目にすると、玲司は一瞬だけ動きを止めて言った。「今日は約束があるんだ。外で食べてくる」若菜は玲司の後ろに立ったまま、小首をかしげて私を見ると、笑顔で言った。「大変でしたね」あの笑顔を思い出すだけで、今でも胃の奥がむかむかする。それ以来、私は料理をしなくなった。夜七時、玲司は帰
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