「この浴室、ちょっと味気ないよね。もう少し大きなバスタブを入れたらいいのに。疲れたときにゆっくりお風呂に浸かれるし、あたし、お風呂に入るの大好きなんだ」葵衣は浴室の入り口に立ち、いかにも不満そうな顔をしている。いらいらして、何か言い返すより先に、京助が迷いもなく答える。「もちろんいいよ。俺も大きなバスタブのほうが好きだし、ゆったり浸かれるからな」そして、思い出したように私を見る。「そうだよな、花凛?」京助が先に答えを決めてから、私の意見を聞くのは、これで何度目だろうか。意見が同じなら、みんな満足。意見が食い違えば、多数決。これまでの投票でも、いつだって負けるのは私だった。……3日前のことだ。猛烈な台風が吹き荒れる中、私は空港の出口で足止めされていた。一人では帰れそうになく、京助に電話をかけて迎えに来てほしいと頼んだ。しかし、電話の向こうでは三人が何やら相談している。「葵衣が今から夜食を食べに行きたいって。2日も前から予約して、やっと取れた店なんだ。悪いけど、タクシーで帰ってくれないか」その直後、スマホに投票結果が送られてきた。【葵衣と夜食を食べに行く、3票で決定】その夜、私は空港で一晩を明かすことになった。……手を強く握りしめながら言う。「いいじゃない。葵衣の好きなようにして。でも、結婚はやめるわ」リビングが、水を打ったように静まり返る。京助は眉をひそめ、不機嫌そうに私を睨みつける。「こんなことで、結婚をやめるのか?内装は多数決で決めてきたんだろ。自分の思い通りにならないからって、そんな嫌味を言うなよ」兄の表情も冷たく強張る。「葵衣は他人じゃないだろ。姉なんだから、妹のために少しくらい大きなバスタブを入れてやったっていいじゃないか」部屋を見渡す。目の前に広がっているのは、私が思い描いていた新居とは似ても似つかないものだ。葵衣が欲しがったウォークインクローゼット、葵衣が気に入った大きな窓、そして今度は、葵衣が欲しがるバスタブまで。誰も気づいていない。ここが、私のための新居だということに。重苦しい空気を感じ取ったのか、葵衣が甘えるように私の腕をつかむ。「お姉ちゃん、ごめんね。やっぱりこれだけは我慢するから、怒らないで……」京助はすぐに葵衣を自分の後ろへかばうように引き
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