合格通知への返信を送ったその瞬間、芸術学院の指導教官・マーサから国際電話がかかってきた。「明坂さん、本当に決めましたか?婚約者が島をまるごと貸し切って、明坂さんに結婚式を挙げようとしていると聞きました。今そこを離れたら、この10年の努力がすべて水の泡になると思います」私は喉の奥に込み上げる苦みを飲み込み、静かに口を開いた。「先生、入学手続きをお願いできますか。できるだけ早くお願いします」電話を切ると、私は右手に残る、いつまでも消えないしもやけの痕をぼんやりと見つめた。あれは、K市へ来て初めて迎えた冬のことだった。涼平のためにサーバーを買うお金を節約しようと、マイナス十数度の寒さの中、庭で冷たい水を使って洗濯をしたときに残った痕だ。この両手だけじゃない。私の胃も、とうにぼろぼろになっていた。後になって、涼平が最初の投資を取りつけるのを助けるために、私が代わりにお酒を飲み続けた代償だった。誰もが私に言った。男は成功すると、真っ先に恋人を替えるものだと。けれど涼平は私を捨てなかった。それどころか、誰もが羨むような結婚式まで用意してくれた。私の10年にわたる苦労が、ようやく報われたのだと思っていた。あのやり取りを見るまでは。そこで初めて、気づいた。この10年間、私がしてきたことを、あの人は心の中で、自分を安売りしてすがりつくだけの滑稽な女だと思っていたのだ。だから、こんなに腐りきった恋なんて、もう続けたくない。そのとき、スマホの画面が再び明るくなり、涼平から電話がかかってきた。「星乃、何をしてる?今日は結婚式の招待状の最終案を決める日だ。時間をしっかり守ってくれ。このあと、まなみを連れて大事なクライアントに会いに行く。みんなの時間を無駄にするな!」苛立った声だ。「今、行く」私はそれ以上何も言わず、静かに電話を切った。胸の奥には、もはやさざ波さえ立たなかった。前は、少し声を荒げられただけで、慌てて謝っていた。機嫌を損ねて、二人の関係にひびが入るのが怖かったからだ。けれど今は、長年胸の奥に溜め込んでいた重苦しさが、すっかり抜け落ちていくのを感じているだけだ。社長室の扉を押し開けると、エアコンの冷たい風がまともに顔を打ちつけた。涼平は私が入ってくるのを見ると、眉をひ
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