翌日、両親はさっそく旅行の荷造りを始めた。母は冷蔵庫の中を、隙間ひとつ残さず食べ物で埋めていく。前日の残り物や、賞味期限が切れかけた牛乳を、一番上の目立つ場所に並べる。新鮮なスペアリブやイチゴは、一番下の奥へ押し込んでいく。そして、私に電子レンジの使い方を教え始める。上のボタンを押すんだと言ったかと思えば、今度は下のボタンだと言う。何度も説明するうちに、手順はすっかり混乱している。「お腹が空いたら、一番上のお弁当を取って、ボタンを押して温めるのよ。わかった?」母は優しく笑う。しかし、心の中の声はこう言っているのだ。【どうせ傷みやすいものばかりだし、ブレーカーを落とせば温めることもできない。お腹を壊しても、私たちのせいにはならない。バカなんだから、電子レンジなんて使えるわけないわ。冷たいまま食べてお腹を壊してもしょうがないわ】父がしゃがみ込み、子供用スマートウォッチを私の腕に着けてくれる。着信音量を一番小さくする。緊急連絡先を、心海の番号に変更する。さらに、3回連続で押さないと発信できないように設定する。画面を指先でなぞりながら、心配そうな口調で言う。「何かあったら、ここを押して、お父さんかお母さんに電話するんだ。いつでもそばにいるからな」その言葉の裏で、こんなことを考えている。【かかってきても、まずは心海につながる。心海がそのまま切って、間違えて切っただけだと言えばいい。もし本当につながってしまったとしても、海辺で電波が悪くて聞こえなかったと言えば、誰にも責められないさ】心海が近づいてくる。玄関から一番遠い場所まで私を連れていき、小さな椅子に座らせる。わざわざ私のスリッパを蹴り飛ばし、下駄箱の一番上に放り投げる。そして、毛の抜けた古いぬいぐるみを私に押し付ける。顔には笑みを浮かべている。「お姉ちゃん、いい子にしててね。絶対に外へ出ちゃダメだよ。外には子どもをさらう悪い人がいるんだから。勝手に出たら、もうお父さんやお母さんに会えなくなっちゃうよ」でも、心海の心の中では、悪意に満ちた声が響く。【怖がって、玄関から一歩も出られなくなればいい。飢えて死んだって誰にも気づかれない】私はおとなしく頷く。母の胸に顔を埋め、甘えるように頬をすり寄せる。「美波、ちゃんと覚えたよ。美波、いい子だもん」荷
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