All Chapters of 娘が舞台で「パパ」と呼んでいたとき、夫の居場所は?: Chapter 11 - Chapter 13

13 Chapters

第11話

離婚してから半年、遼介は何度もやり直したいと言ってきた。けれど、私は一度も応じなかった。花は届くたびに送り返し、食事に誘われても、美月のことで話があるとき以外は会わなかった。ある日、遼介は雨に濡れながら、私の勤め先のビルの前で2時間も待っていた。仕事を終えて外に出た私は、遼介を見つけて足を止めた。「どうして中で待たなかったの?」「仕事の邪魔したくなかったから」遼介は持っていた傘を私に差し出した。「今夜は雨だって言ってたから。傘、持ってないかと思って」私は持っていた傘を見せた。「持ってるよ」遼介はそれを見たまま、しばらく黙っていた。前は、出かける前に天気を確認するのはいつも私だった。寒い日は上着を持つように言い、雨の日は傘を忘れないように声をかけていた。でも遼介が、私にも同じように気を配ってくれることはほとんどなかった。今になって、遼介はようやく私のことにも気を配るようになった。でも私はもう、遼介に気にかけてもらわなくても平気だった。「もう帰って」そう言って背を向けると、遼介がふいに聞いた。「俺たち、もうやり直せないのか?」私は足を止めた。この半年で、遼介はずいぶん痩せていた。後悔していることも、今度は一時の気持ちじゃないことも、私にはわかっていた。それでも、気持ちは変わらなかった。「もうやり直すつもりはないよ」遼介の目が赤くなった。「どうして?」「もう、あなたのことは許してるから」遼介は言葉を失った。「あなたを許してから、やり直したいって気持ちもなくなったの」以前の私は、遼介が変わって、いつか本当に私を愛してくれたら、それまで我慢してきたことも無駄じゃなかったと思える気がしていた。でも、あとになってわかった。どれだけ我慢したって、それで今までのつらさが報われるわけじゃない。私はただ、傷ついていただけだった。だから、遼介にこの先ずっと埋め合わせてもらおうとは思わなかった。それに、遼介を愛した自分は間違っていなかったと思いたいからといって、もう一度やり直そうとも思わなかった。
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第12話

香澄はこの街を離れる前、一度だけ私を訪ねてきた。遼介から連絡が来ることはもうなく、小春の誕生日も、人に頼んでプレゼントを届けただけだと香澄は言った。「ずっと、私が戻れば遼介は待っていてくれると思ってたんです」香澄は私を見て、苦笑した。「でも、待ってたのはもう私じゃなかったんですね」私は何も答えなかった。「遼介とは、もうやり直さないんですか?」「はい」「まだ遼介のこと、好きなんですか?」少し考えてから答えた。「前は、すごく好きでした」11年も好きだったのだから、離婚したからといって、気持ちが急になくなるわけではなかった。離婚したばかりの頃は、痩せた遼介を見ると胸が痛んだし、体調を崩したと聞けば、つい電話をかけたくなった。でも、そのたびに思いとどまっているうちに、少しずつ気にならなくなっていった。週末は陶芸を習ったり、美月と旅行に出かけたり、たまには友人と映画を観たりして過ごした。以前は、何をするにも遼介がいるのが当たり前だった。けれど、遼介がいなくなっても、思っていたほど困ることはなかった。むしろ、自分のために使える時間が増えて、今まで後回しにしていたことも楽しめるようになった。帰る前に、香澄が言った。「遼介、今すごく後悔してますよ」私はうなずいた。「知ってます」「それでも、やり直そうかなって思うことはないんですか?」私は少し笑った。「思ったことはあります」「じゃあ、どうして?」「あの頃、どれだけ傷ついたか思い出すから……」そうすると、やっぱりやり直そうとは思えなかった。
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第13話

美月の7歳の誕生日には、遼介は1週間も前から仕事を入れないようにしていた。美月は水族館に行きたいと言った。遼介は朝7時にはもう来ていて、約束より1時間も早かった。遼介を見つけると、美月はうれしそうに駆け寄った。「パパ、今日は途中で帰ったりしないよね?」遼介は美月を抱きしめた。「うん。今日はずっと一緒にいるよ」今度は、最後まで約束を守った。一日中、スマホは何度も鳴っていたけれど、遼介は一度も電話に出なかった。美月がイルカの乗り物に乗りたいと言えば一緒に列に並び、記念スタンプを押したいと言えば、それにも付き合った。午後のシロイルカのショーでは、美月は遼介に肩車してもらい、楽しそうに笑っていた。私は少し離れたところから、二人を眺めていた。1年前の卒園式では、美月が舞台の上から何度もパパを呼んでいたのに、遼介は最後まで来なかった。そんな遼介が、今日は朝からずっと美月のそばにいた。美月がうれしそうなのを見て、私もうれしかった。本当に、それだけだった。帰るころには、雨が降り出していた。遼介は傘を開くと、無意識に私のほうへ寄ってきた。けれど、私は自分の傘を開いた。「大丈夫。持ってるから」遼介は足を止めた。美月は私の手を握ったまま、振り返って遼介の手も取った。「パパ、早く」三人で駐車場へ向かった。美月を真ん中に、私と遼介が両側を歩いた。車に着くまで、誰も何も話さなかった。車まで戻ったところで、遼介に呼び止められた。「真由」振り返ると、遼介は雨の中に立っていた。しばらく黙ったあと、遼介が聞いた。「あの頃、俺がもっと早く気づいてたら……今とは違ってたかな」「うん。違ってたと思う」その言葉に、遼介の表情が一瞬明るくなった。「でも、もう遅いよ」遼介は黙って目を伏せた。私はもう、慰める言葉をかけようとは思わなかった。今さら「愛してる」と言われても、それで11年間のことが変わるわけじゃない。この11年、遼介にそばにいてほしいとき、私は何度も一人で耐えるしかなかった。今さら何をしてくれても、あのとき一人で耐えたことの埋め合わせにはならない。私ももう、今さら何かしてほしいとは思っていなかった。美月は車に乗ると、窓越しに遼介へ手を振った。「パパ、また来週
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