家へ向かう車の中、美月は卒園式でもらった小さな花束を胸に抱いたまま、ずっと黙っていた。遼介に渡すつもりだったその花は、握りしめていたせいで少ししおれていた。赤信号で車を止めると、美月がふいに口を開いた。「ママ、あの子、なんでパパのこと遼介パパって呼んでたの?」私はハンドルを握ったまま、少し間を置いて答えた。「たぶん、冗談で呼んでただけじゃないかな」「パパ、あの子の靴ひもも結んでたよね」「うん」「おんぶもしてたよね」美月がどこまで見ていたのか、私にはわからなかった。ショッピングモールの1階には子ども向けの遊び場があり、遼介はそこであの子とずいぶん長いこと遊んでいた。クレーンゲームでぬいぐるみを取ってやり、しゃがんでスカートの裾を直し、歩き疲れた女の子を背負っていた。そんなふうに美月に付き合うことは、ほとんどなかった。私はずっと、遼介はそういう人なんだと思っていた。仕事が忙しく、もともとそっけない性格で、子どもの遊びに付き合うのが好きじゃないだけなんだと。美月が3歳のとき、一緒に積み木で遊んでほしいとせがまれても、10分もしないうちに仕事の電話が入り、遼介は席を立った。5歳の誕生日に遊園地へ行きたいと言ったときも、私にカードを渡して、二人で行ってくればいいと言っただけだった。去年の運動会の親子競技にも、遼介は来なかった。先生に遼介が来なかった理由を聞かれたときも、私は仕事が忙しいのだと説明した。そのうち、美月まで同じことを言うようになった。誰かに「パパは?」と聞かれるたび、決まってこう答えていた。「パパはお仕事なの。お金を稼がなきゃいけないから」私はそのたびに、遼介はただ忙しいだけなのだと美月に言い聞かせてきた。でも今日、それがただの思い込みだったと知った。遼介は30分もしゃがんだまま子どもの遊びに付き合い、女の子を肩車して、髪をぐしゃぐしゃにされても嫌な顔ひとつしなかった。それどころか、楽しそうに笑っていた。家に着くと、美月は花束を自分の部屋に持っていき、いつものように遼介の帰りを待つこともなかった。9時を回って、ようやく遼介が帰ってきた。靴を脱いでリビングに入ってくると、私を見て何気なく聞いた。「美月、もう寝た?」「寝たよ」「美月、ちゃんとできた?」私は顔を上げて遼介
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