グループを抜けて三分後、怜司からメッセージが届いた。『グループに戻って』なぜ抜けたのかも、私が傷ついたかどうかも聞かない。続けて、もう一通。『取引先も社員もいるんだ。今日くらい、面倒を起こさないでくれ』私は会場となったホテルの車寄せに立っていた。時刻は午前零時を過ぎている。八月の東京は夜になっても蒸し暑く、降り始めた雨がガラス扉を白く曇らせていた。仙台の店を閉めたあと、残務を副店長に頼み、最終一本前の新幹線に飛び乗った。朝から、まともに何も口にしていない。それでも怜司の晴れ舞台を、この目で見たかった。せめて一言、「来てくれてありがとう」と言ってほしかった。スマートフォンが再び震える。『怜司、かなり飲んでるから私が送っていくね。紬さんは、どこか泊まれるところを探して』送信者は沙耶だった。まるで彼女が身内で、五年付き合った私は指示を待つだけの部外者だった。怜司に電話をかけた。長い呼び出し音のあと、ようやく低い声が返ってくる。「どうした?」背後で車のドアが閉まった。「怜司、ジャケット着て。車内、冷えてるから」沙耶の声が近い。キャリーケースの持ち手を握り直した。「上場したら、東京のマンションで一緒に暮らそうって言ったよね」二秒ほど沈黙があった。「沙耶は明日の記者対応もある。ここ二か月、残業で終電を逃すことが多かったから、ゲストルームを使わせている」「じゃあ、私は?」「急に来られても困る。今夜はホテルに泊まってくれ」あの部屋のソファも、カーテンも、ダイニングテーブルも、二人で選んだ。私が東京へ異動できたら、そこから結婚生活を始めようと怜司は言った。けれど、私より先に暮らし始めたのは沙耶だった。「ここは満室だって」私が言うと、沙耶がすぐに答えた。「今日は関係者が大勢来てるから、この辺りはどこも満室よ。先に私へ聞いてくれれば、押さえておいたのに」どうして恋人に会いに来るのに、彼女の許可が必要なのだろう。怜司が疲れたように息を吐いた。「ロビーで待っていて。車を手配する」「怜司は?」「沙耶が胃痛を訴えている。念のため病院に連れていく」――三か月前、私は閉店作業中に倒れ、仙台の夜間救急で一人、点滴を受けた。怜司に四度電話したが、出なかった。翌朝届いたのは、短い一文だけ。『緊急なら三人のLINEに入れて。
Read more