「何をしている」背後から響いた風の低い声に、私はびくりと肩を震わせた。手にしていた軍の配置図を隠す間もなかった。どこからそんな度胸が湧いたのか、私は思わず口走っていた。「まさかあなた、密かに兵を蓄えて謀反でも企んでいるのではないでしょうね」風の目の奥に笑みがさらに深まった。「そこまで気づかれたのなら正直に話そう。実は俺は宮中のある大臣が民間に放った密偵なんだ。各地の情報を集める役目でね。この書状は、柳家が民間で行っている数々の不正について記したものだ。柳家の勢力があまりに大きくなりすぎて朝廷を脅かすのではとその大臣が案じていてね。それで俺に証拠を集めさせているんだ」それを聞いて私の胸はざわめいた。「あなたの言う……それはまさか、都の三大氏族の一つ、柳家のことではないでしょうね」「ああ、三大氏族の中でもこの柳家が一番横暴でな。その家には、皇帝の寵愛をほしいままにする娘がいるからだ」風は知らない。風の口にした皇帝に深く寵愛されているというその女こそ、私のかつての知り合いの若吟なのだということを。風が柳家の罪の証拠を集めていることには安堵したものの、これまで素性を隠していたことには、いくらか疑念も抱いた。「どうしてもっと早くこのことを話してくれなかったの」私は風を見つめ、目にわずかな失望の色を滲ませた。風は私の手をそっと握り真摯な顔つきで言った。「俺は君をこれ以上危険に巻き込みたくなかったんだ。柳家の証拠を集めるというのは、いつ命を狙われてもおかしくないことだからな。君が傷つくのが怖かった。だがこうして気づかれたからにはもう隠さない」本来ならば都の宮中で起きていることなど、もはや私には何の関わりもないことだった。けれど風は数少ない、私が心から信頼できる人だった。「何か私にできることがあれば言ってちょうだい」風は表情を引き締めた。「柳家は密かに兵を訓練しているが、兵への給金が足りず、士気も乱れているらしい。ちょうど彼らは都で反物の商売をしていて、君のいる刺繍工房の女将とも取引がある。今回届いた荷に何か問題があるんじゃないかと疑っているんだ」「分かったわ。工房に戻ったら気をつけて見ておく。何か気づいたことがあればすぐに知らせるわね」工房に戻ってから、私は柳家から届く荷物を注意深く見るように
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