一度目は結婚前。朔人に会いに来た時だった。あの頃、二人はまだ熱烈な恋の最中にあった。二度目は今、離婚の話をつけるために……視線を戻し、小雪は1階のロビーへ入ると朔人に電話をかけた。呼び出し音が何度か鳴り、やがて留守番電話に切り替わった。もう一度かけ直すと、今度はすぐに切られた。小雪はスマホを握る手に無意識に力がこもり、続けて知美にも電話をかけてみた。知美は電話には出たものの態度はひどく冷たく、食事の配達か何かだと思ったのか単刀直入に言った。「社長は予定が立て込んでおりますので、お帰りください」小雪は唇を噛んで言った。「話があるんです。10分でいいから、時間を取ってほしいと伝えてもらえませんか」知美は、小雪が朔人に近づく口実を探しているのだと決めつけ、鼻で笑った。「そんな見え透いた嘘、誰が信じるんですか?社長は本当にあなたに構っている暇なんてありません。このあとすぐ千笑様と大事な仕事の話がありますし、ランチのお約束もあるんですよ」小雪の眉がぴくりと震えた。知美がこんなにも自分を軽んじられるのは、ひとえに朔人が自分を疎ましく思っているからだとよくわかっていた。「私は……」ツーという音とともに、知美は苛立たしげに電話を切ってしまった。暗くなった画面を見つめ、小雪は思わずスマホを握る手に力がこもった。仕方なく受付へ向かう。だが五年もの月日が経ち、受付のスタッフはすでに何人も入れ替わっていた。もう誰も小雪の顔を知らなかった。その時、背後でふとざわめきが起こった。「千笑様よ!ご本人、本当に品があるわ!」小雪は一瞬足を止め、振り返った。目の前にはヴェルサーチの服に身を包み、高価なバッグを手にした千笑の姿があった。誇り高く、美しく、際立った気品を漂わせている。ロビーへ足を踏み入れたその瞬間、その場にいた全員の視線を集めていた。まもなく知美が降りてきて、先ほどまでの冷たさを一変させ、恭しい態度で千笑を案内し始めた。千笑は微笑んで礼を言う。「お手数おかけします」「とんでもございません!社長から前もってお申し付けいただいておりましたので」小雪の睫毛がわずかに震えた。「そちらの方、社長は誰でもお会いになるわけではございませんので。お互い時間の無駄です。どうぞお引き取りください」
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