「そんな、まさか!」大翔は勢いよく立ち上がり、その拍子にテーブルの上のコーヒーカップを弾き飛ばした。コーヒーがあっという間に広がり、大事な書類を濡らしていく。それでも彼は片付ける余裕すらなく、目を血走らせて電話に向かって怒号を飛ばした。「海外だと?あいつが海外になんて行くわけないだろう。お前、愛夏とグルになって俺を騙してるのか?」佳澄は深く息を吸い込み、呆れを押し殺しながら努めて冷静に答えた。「騙してなんかいないよ!私にそんな度胸あるわけないじゃない!10日前、愛夏が海外に行くって決めたとき、すぐにメッセージ送ったよね。それなのに、何の反応もしなかったじゃない。愛夏、海外に行ってからも忙しいみたいで、メッセージ送っても全然返ってこなくて。大翔が焦ってる様子もないし、何も聞いてこないから、てっきり気にしてないんだと思って、それ以上何も言わなかったのよ」佳澄の言葉が終わる前に、電話の向こうからガシャンという大きな音が響いた。続けて、何かが床に落ちて砕け散る音が次々と聞こえてくる。佳澄はぎょっとして慌てて声をかけた。「ちょっと、どうし……」言い終える前に、電話は突然切れた。佳澄はスマホを握りしめたまま、思わず安堵の息をつく。だが、ほっとしたのも束の間、また着信が入った。大翔の陰鬱で冷え切った声が、すぐさま耳元に響く。「今、彼女と連絡を取れるか」……愛夏が取ったのは、F国行きの航空券だった。着陸後、彼女は再婚して新しい家庭を築いている実母に連絡を取った。娘が来ると知った母は大喜びし、すぐさま今の夫で、愛夏の継父にあたるジャックに休みを取らせ、二人揃って空港まで迎えに来てくれた。母と顔を合わせた瞬間、愛夏はどこか気まずさを覚えた。何しろ、もう15年近く会っていなかったのだ。けれど継父のジャックは根っからの陽気なタイプで、熱烈なハグで彼女を迎え入れた。それにつられるように母も加わり、あっという間に母娘の空白が埋まっていく。愛夏がF国で暮らすことに決めたと知ると、母は強引なほど熱心に、今の自宅である3階建ての立派な邸宅に住むよう勧めてきた。普段、この家にはジャックと母の二人しか住んでいない。ジャックには元妻との間に一男一女がいるが、すでに二人とも成人しており同居はしていなかった。好意を
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