愛夏が2階に上がると、アダムがのんびりとコーヒーを片手に興味津々な様子で聞き耳を立てていた。彼女はすぐさま蹴りを一発お見舞いした。「こんなところで盗み聞きしてたの?」アダムは慌てて両手を上げた。「隠れてないんだから、盗み聞きじゃないだろ」「聞いて、何か感想は?」愛夏は彼をじろりと見た。アダムは真剣に考えたあと、言葉を選びながら答えた。「あいつってさ、本当にとんでもない変態だな。誰かを好きになるのに、相手を痛めつけて喜んでる奴、初めて見たよ」思わずぷっと噴き出した愛夏は、笑いが止まらなくなった。アダムの「変態」という一言が、大翔にこれ以上ないほど的確な表現だと思ったのだ。まさに彼そのものだった。彼女が笑うのを見て、アダムは少し表情を引き締め、真面目に尋ねた。「それでこれからどうするつもりなんだ?もし彼が、まだ諦めないつもりだったら?」愛夏は首を振り、はっきりとした口調で言った。「アダム、私にはね、一つ長所があるの。一度決めたことは、最後まで貫くところ。彼を愛してたときは、何もかも投げ打つくらい、全身全霊で愛した。だから今もう愛してないなら、どんなことがあっても二度と愛し直したりしない」愛夏は寝室のドアを開けた。廊下の先に、小さな人影があるのに気づく。大翔が後をついてきたのだろうと、彼女には見当がついた。もしかしたら今しがた彼女が話したことも、全部聞かれていたかもしれない。それでも、彼女は振り返らなかった。ただドアをしっかりと閉め、彼に関するすべてをその扉の外へと締め出した。大翔はその場に立ち尽くしたまま、今にも崩れ落ちそうだった。アダムがすれ違いざま、素っ気なく声をかけた。「藤山さん、いつ帰るつもりです?」大翔は何も答えず、ただ全身をこわばらせながら冷たい壁にもたれかかり、放心したような表情を浮かべていた。そのまま丸3時間、彼はそこに立ち続けた。その間、愛夏は一度も部屋から出てこなかった。まるで、わざと彼を避けているかのように。大翔には分かっていた。この先も、彼女はきっと今日のようにずっと自分を避け続けるだろうと。大翔の口元に、自嘲するような笑みが浮かんだ。壁に手をついてそのまま立ち去ろうとしたその瞬間、ガソリンのような刺激臭が鼻をついた。続いて、何かが焦げるような嫌な
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