大型バスが土砂降りの中を走っている。車内はどこか息苦しい空気に包まれていた。皆は声を潜めてさっきの騒動の話題で盛り上がっているが、最後列の隅に座る私にだけは、まるで示し合わせたかのように一切触れようとしない。私は雨でぐしゃぐしゃになった絵を抱きしめていた。ずぶ濡れの制服が冷たく肌に張り付いている。前の席では、優奈が稔の肩に頭をもたせかけそうなほど近づいており、小声で言った。「あの子、チケット2枚買ったくらいで稔の気を引けるとでも思ってたのかな。自分の立場、わかってないよね」稔はそれに答えることなく、ただ手を伸ばし、優奈の席のエアコンの吹き出し口を少し逸らしてやった。今回の修学旅行で同室の須藤咲(すどう さき)がポケットティッシュを持って私の隣に座り、無言でそれを私の手に握らせる。「清歌、服まだ濡れてるよ」「平気」咲は前の席をちらりと睨み、しばらくためらってから口を開いた。「清歌さ、頭いいのに、なんであんなクズ男にこだわってんの?あんな奴のどこがいいの?去年の保護者会の時だって、あいつの母親、教室のあんな大勢の前で『うちの稔は付き合う友達のレベルも選ぶんです』なんて言ってたじゃん。あの目、完全に清歌のこと見下してたよ」私は黙って頷きながらも、指先は無意識にティッシュを細かくちぎっていた。スマホを取り出し、ピン留めされたLINEのトーク画面を開いてメッセージを打つ。【少し話せる?】送信してすぐに既読がついたが、返信はない。30分後、ようやく画面が光り、短いメッセージが届いた。【戻ってから話す。疲れた】私は画面から目を離すと、前の席で優奈と顔を寄せ合いながら談笑する彼の背中をじっと見つめた。私には「疲れる」なんて言うくせに、他の子とはあんなに楽しそうに話せるんだ。私はトーク履歴を上へとスクロールする。数ヶ月前の夜に送られてきたメッセージが、まだそこには残っていた。【清歌、お前は俺の彼女だよ。でも今はまだ公にできない。卒業したらちゃんとみんなに言うから、信じてくれ】だが、現実はどうだろう。この2年間、彼が私の肩に触れたのは、人目のつかない場所だけだった。二人きりの教室でしか、私に近づこうとはしなかった。LINEのメッセージの中でしか、私が彼女であることを認めなかった。
Read more