Todos os capítulos de 私の誕生日に、恋人は別の女へプロポーズした: Capítulo 1 - Capítulo 10

14 Capítulos

第1話

悠人は明らかに動揺していた。慌てた拍子にそばのシャンパンタワーへ腕が当たり、タワーは派手な音を立てて崩れた。シャンパンが床一面に広がった。面白がって見ていた人たちも、突然の騒ぎにしらけたようで、一斉に私を見た。悠人は一瞬うろたえたものの、すぐに何事もなかったような顔に戻り、他人行儀な口調で私を紹介した。「こちらは、幼なじみの遼介の妹さんで、柚希さんです」悠人が私との関係を隠したがっていることは、嫌というほど伝わってきた。胸の奥が、ずきりと痛んだ。悠人にとって、私はそんなに人に知られたくない相手だったのだろうか。5年も付き合ってきたのに、悠人の口にかかれば、私はただの「幼なじみの妹」でしかなかった。思わず苦笑した。それならと、私も話を合わせた。「悠人さん、お久しぶりです」遼介もすぐに話を合わせてくれたので、周りもようやく納得したようだった。悠人は、私の顔が青ざめていたことにも気づかず、安心したように息をついた。そしてステージの上で、隣にいた女性と再び肩を寄せ合った。その姿を見た周囲から、また歓声が上がった。私は、その女性を知っていた。水原美咲(みずはら みさき)。悠人が以前付き合っていた女性だった。鼻の奥がつんとして、涙がこぼれそうになった。美咲とはもう関わらないと、悠人は確かに約束したはずだった。それなのに、よりによって私の誕生日に、私に隠れて美咲にプロポーズしていた。結局、私は美咲には勝てなかったんだ……そのとき、美咲と目が合った。美咲は私を見て、楽しそうに目を細めた。「柚希ちゃん、今日はずいぶんおしゃれしてきたのね。メイクもきれいだし、このパーティーを楽しみにしてたのが伝わってくるわ。今まで私の代わりに悠人を支えてくれて、ありがとう。せっかくだし、乾杯しない?」そう言って、美咲はシャンパンの入ったグラスを私に差し出した。その言葉に、周りがざわついた。「すごい気合い入ってない?主役より目立ちたいのかな」「ほんと。何も知らなかったら、あの子がプロポーズされる側だと思うよね」悠人は、私がお酒を飲めないと知っていた。それなのに、ひと言も口を挟まず、黙って見ているだけだった。そんな悠人を見て、もう十分だと思った。5年間続いた関係も、これで終わりにしよう。私は美咲が差
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第2話

会場を出ると、悠人もすぐに追ってきて、私の腕をつかんだまま更衣室へ引っ張り込んだ。私が何か言うより先に、悠人は私を壁際に追い込み、顎に手を添えて私の顔を自分のほうへ向けた。さっきまでの冷たい態度が嘘のように、悠人は優しい目をしていた。「なんだ、柚希。やきもち焼いてるのか?」笑いながら私をからかう姿は、以前と何も変わらなかった。それなのに、目の前の悠人がひどく遠い人に思えた。私が何も言わずにいると、悠人はただ拗ねているだけだと思ったらしく、なだめるように言った。「柚希、勘違いするなよ。美咲は、結婚前に妊娠したことを家族に言えなくて困ってたんだ。だから俺が婚約者のふりをしただけだ。親御さんを安心させたかったし、美咲が周りから変な目で見られないようにしたかった。それだけだよ」悠人は、聞いてもいないことまで次々と話した。後ろめたいことがあると急に口数が増えるのは、昔から変わらなかった。今の説明も、信じられるはずがなかった。そもそも、悠人が美咲のためにここまでする理由などない。本当に形だけの婚約者が必要だったのなら、ほかに頼める人はいたはずだ。私と付き合っている悠人を、わざわざ選ぶ必要はなかった。悠人が気にしていたのは、美咲の立場だけだった。私がどう思うかも、周りからどう見られるかも、少しも考えてくれなかった。悠人が私とのことを隠し続けたせいで、近所のおばさんたちには、ずっと彼氏もいないと思われていた。顔を合わせるたびに、いい人はいないのかと冷やかされていた。私は悠人をしばらく見つめた。けれど、そんな言い訳を問い詰める気力もなく、目をそらした。「ちょっと具合が悪いから、もう帰るね。悠人も戻ったほうがいいよ。婚約者を置いて私を追いかけてきたなんて、周りに知られたらまずいでしょ」悠人は眉間にしわを寄せ、低い声で言った。「わざわざ追いかけてきて、ちゃんと話してるだろ。何がそんなに気に入らないんだよ。美咲だって、好きで俺に頼んだわけじゃない。女同士なんだから、少しくらいわかってやれよ。このままじゃ、美咲が周りから何を言われるかわからないんだぞ。柚希がここまで人の気持ちを考えられないとは思わなかった。正直、がっかりしたよ」あまりに勝手な言い分に、笑いさえこみ上げた。もう黙ってはいられなかった。「それで、私が
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第3話

悠人は、たしかに「俺たちの子ども」と言った。美咲との婚約も、芝居ではなかったのかもしれない。それだけではない。悠人は医師に、美咲を自分の妻だと伝えていた。それが何よりもつらかった。5年も付き合っていたのに、悠人は私を一度も人前で恋人として紹介してくれなかった。私たちの関係を周りに話してほしいと頼んだこともあった。けれど悠人は、結婚が決まってからでいい、焦ることはないと言って笑った。私はその言葉を信じ、それ以上何も言わずに待っていた。けれど、悠人が結婚を考えていた相手は、最初から私ではなかった。私が立ち尽くしていると、医師が困ったように息をついた。「高瀬さん、奥さんはまだ妊娠4か月です。今は赤ちゃんの状態もよくありません。こちらもできる限りの処置をしますが、助かるかどうかは何とも言えません」美咲は、私より1か月早く妊娠していた。そういえば、私が妊娠する少し前、悠人は1か月ほど出張で家を空けていた。出張から帰ってきた悠人は、妙に優しい日もあれば、私を避けるような日もあった。夜中に目を覚ますと、私に背を向け、美咲と撮った写真を見ていることもあった。ベッドの中でも、それまでとは違っていた。夢中になると、避妊しないまま私を求めてくることが何度かあった。それまでは、きちんと順序を守りたいと言って、毎回必ず避妊していた。私は、結婚を考えてくれるようになったのだと都合よく受け取り、ひそかに喜んでいた。けれど今思えば、悠人は私に美咲を重ねていたのかもしれない。あの出張も、美咲に会うための口実だったのだろう。悠人が家を空けていたあの1か月、2人の間で何があったのか。もう考えるまでもなかった。息が詰まり、その場で何度か深呼吸した。やがて呼吸が落ち着くと、もう何もかもどうでもいいと思えた。もう悠人とは別れると決めた。悠人と美咲がどうなろうと、私には関係ない。そのとき、看護師が待合室まで来て、私の前で足を止めた。「川島柚希さん、中絶手術の準備ができました。こちらへどうぞ」私の名前を聞いた悠人は、すぐにこちらを振り向いた。そのとき、美咲が小さくうめいた。すると悠人は美咲へ視線を戻し、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。「柚希のはずがない。同姓同名だろ」あと少しこちらへ近づけば、手術を受けるのが私だと
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第4話

投稿には、こんな文章が添えられていた。【さくらんぼが食べたいって言ったら、すぐに箱ごと買ってきてくれた。私だけじゃなく、お腹の赤ちゃんのことまで大事にしてくれて、本当に幸せです】コメント欄には、羨ましがる声や、2人を祝福するコメントが並んでいた。静まり返った部屋を見回すと、さすがに笑うしかなかった。同じように妊娠していたのに、美咲は悠人に付き添ってもらい、食べたいものまで用意してもらっていた。それに比べて私は、1人で病院へ行き、中絶手術を受けた。悠人は、私が妊娠していたことさえ知らなかった。以前の私なら、この投稿を見ただけで悔しくなり、泣き崩れていたはずだ。けれど今は、その投稿を見ても涙ひとつ出なかった。私は静かに「いいね」を押し、そのままコメントを残した。【末永くお幸せに】コメントを送ると、すぐに遼介へ電話をかけた。「お兄ちゃん、私、実家に戻りたい」「今から迎えに行く」「うん。待ってる」電話を切った直後、背後から悠人の低い声が聞こえた。「誰が来るんだ?その荷物はどうした?」振り返ると、悠人がすぐ後ろに立っていた。いつ帰ってきたのか、まったく気づかなかった。それにしても、今日はずいぶん帰りが早かった。前に美咲が足をくじいたときは、それだけで一晩中付き添っていたのに。私が黙っていると、悠人は眉をひそめた。「なんで黙ってるんだ?」「悠人には関係ない」私はそのままスーツケースを引いて玄関へ向かったが、すぐに悠人に腕をつかまれた。「美咲へのプロポーズは、ただの芝居だって言っただろ。それなのに、どうしてわざわざインスタに、あんな当てつけみたいなコメントをしたんだ……」その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が冷えた。なるほど。こんなに早く帰ってきたのは、私が美咲に残したコメントが気に入らなかったからか。このあと、またいつものように物に当たり、怒りをぶつけてくるのだろうと思った。ところが悠人は、ふっと笑うと、私の頭を撫でた。「もう機嫌直せよ。ほんと、やきもち焼きだな。俺への当てつけで、荷物までまとめたのか?ずいぶん手が込んでるな。今日のあれは本気じゃない。本当は柚希にプロポーズするつもりだったんだ。美咲に急に頼み込まれて、断りきれなかった。それで予定を変えただけだ。まだ信じら
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第5話

「柚希……妊娠してたのか?」中絶したことを心配してくれるかと思った。ところが悠人は、診療明細書にろくに目も通さず、破って私の顔に投げつけた。「美咲が妊娠したと知って、自分も妊娠したなんて嘘までついたのか?そんなに俺の気を引きたいのかよ。5年も付き合ってきたのに、俺のことがそんなに信じられないのか?」呆れて、言葉も出なかった。私との約束を破ったのは悠人なのに、事情を聞こうともせず、妊娠まで嘘だと決めつけた。私のことは信じようともしないくせに、自分だけ信じてもらおうなんて、あまりにも勝手だった。これ以上、話す気にはなれなかった。「……もう、勝手にそう思ってれば」ちょうどそのとき、遼介からマンションの前に着いたと電話が入った。私は悠人を押しのけ、スーツケースを引いて部屋を出た。背後から、悠人が吐き捨てるように言った。「そこまで言うなら勝手にしろ。出ていったら、もう戻ってくるな!」私は返事もせず、さらに足を速めた。……実家に着くと、遼介は私を元気づけようと、たくさんの料理を作って待っていてくれた。お腹いっぱい食べたあとは、ゆっくり湯船につかった。さっぱりしてベッドに入ろうとしたとき、悠人からメッセージが届いた。【美咲、たい焼き食べたいって言ってたよな。つぶあんとカスタード、どっちがいい?両方買っていく?】美咲に送るはずのメッセージを、間違えて私に送ったらしい。以前なら、こんなものを見ただけですぐに嫉妬し、悠人へ電話をかけて問い詰めていたはずだ。けれど、そのメッセージがわざとなのか、ただの送り間違いなのかを考える気にもならず、悠人を問い詰めようとも思わなかった。私はそのメッセージを、そのまま美咲に転送した。すると、ほとんど間を置かずに返信が来た。【これでわかったでしょ?悠人が本当に好きなのは私よ。これ以上恥をかきたくなければ、さっさと諦めなさい】美咲を相手にする気はなく、あくびをひとつしてスマホを伏せた。ところがその直後、悠人からの着信が10回以上も続いた。ようやく途切れたかと思うと、今度はメッセージが立て続けに届き、未読表示はあっという間に「99+」になった。【お前正気か?なんで美咲に転送したんだよ】【今、遼介のところにいるんだろ。いい加減、気は済んだか?】【
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第6話

「車を停めてくるから、先に上がってて」個室を探しながら廊下を歩いていると、曲がり角の先に美咲の姿が見えた。美咲は見知らぬ男と腕を絡ませ、声を潜めて話していた。「あなた、心配しなくていいの。悠人とは本当に何もなかったんだから。あの人、お腹の子が自分の子じゃないなんて夢にも思ってないでしょうね。私の言うことなら何でも信じるんだから。父親になりたいと思い込んでるんだから、そのままにしておけばいいのよ。この子にかかるお金も全部出してもらえるし、うまくいけば財産だって手に入るわ。取れるだけ取ったら、あとは私たち3人で、どこか遠くへ行けばいいのよ」男はすっかり機嫌を直し、満足そうに笑いながら、美咲はやはり頭がいいと褒めた。まさか、こんなところで美咲の秘密を知ることになるとは思わなかった。あの男は美咲の夫で、2人は初めから悠人を騙し、利用するつもりだったのだ。私はとっさにスマホを取り出し、証拠を残すため、2人の会話を動画に収めた。これが、悠人が私よりも選んだ美咲の本当の姿だった。あれほど忘れられず、大切に思い続けてきた相手が、陰では夫と一緒になって悠人を騙していたのだ。しかも悠人は、自分とは血のつながらない美咲の子のために、実の子を失った。すべてを知ったとき、悠人はどんな顔をするのだろう。録画を終えて辺りを見回すと、悠人たちの個室がすぐ近くにあることに気づいた。扉に手をかけたところで、中から悠人の友人たちが楽しそうにからかう声が聞こえてきた。「さすがだな、悠人。遼介の妹にまで手を出すなんて……でも、本当に柚希ちゃんと結婚する気か?美咲さんはどうするんだよ。やっとよりを戻したばかりなのに」その問いに、悠人は鼻で笑った。「柚希とはただの遊びだよ。最近ずっと拗ねてるから、結婚するって言って、ひとまず引き留めてるだけだ。あいつはちょっと優しくすれば、すぐ信じるからな」私との5年は、悠人にとってただの遊びだったの?その場を動けずにいると、駐車場から戻ってきた遼介に声をかけられた。「柚希、どうした?入らないのか?」遼介はそう言うと、私の手を取って扉を開けた。扉が開いた瞬間、さっきまでの笑い声がぴたりと止んだ。悠人は一瞬表情をこわばらせたが、すぐに何事もなかったように笑い、私を強く抱き寄せた。「
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第7話

部屋の中はしんと静まり返った。悠人も目を見開き、しばらく私を見つめていた。「嘘だろ……中絶したのか?俺の子でもあるんだぞ。どうして何も相談せずに、勝手にそんなことをしたんだよ!」私は悠人をまっすぐ見て、静かに答えた。「水原さんにプロポーズした時点で、あの子の父親を名乗る資格なんてなかった。産むかどうかは、私が決めることよ」悠人は怒りに顔を歪め、私の両肩を力任せにつかんだ。「柚希、いつからそんなに嫉妬深くなったんだよ。美咲が憎いからって、そこまでするのか?何の罪もない子供を殺したようなものだろ。お前、それでも人間かよ!」悠人の指が肩に食い込み、あまりの痛みに、私は思わず声を漏らした。遼介は悠人の手を払いのけ、私を自分の後ろへ押しやると、そのまま悠人の顔を殴りつけた。「お前を親友だと思ってた俺が馬鹿だった。よくも柚希をこんな目に遭わせやがったな!この野郎!柚希を泣かせたうえに、子供まで……許さねえ!」殴られた悠人もすぐにやり返し、2人はその場でつかみ合いになった。見かねた友人たちが慌てて間に入り、暴れる2人をどうにか引き離した。ようやく騒ぎが収まった頃には、2人とも顔が傷だらけになっていた。遼介は片目が腫れ上がり、悠人は歯を2本も折っていた。悠人は折れた歯を舌先で確かめ、血の混じった唾を吐き捨てると、恨めしそうに私をにらんだ。「美咲とのことは、ただの芝居だって言ってるだろ。あれは本当の結婚式じゃない。俺は最初から、柚希とはちゃんと式を挙げるつもりだったんだ。それなのに、どうしてそこまで怒るんだよ?美咲が助けを求めてきたのに、見捨てるなんてできなかったんだ。俺はただ、あいつを助けただけだよ」その言葉を聞いた遼介が、また悠人に殴りかかろうとした。私はとっさに遼介の前へ回り込み、どうにか止めた。悠人に向かってフッと鼻で笑った。「まだそんなことを言ってるの?自分にそう言い聞かせているうちに、本当のことだと思い込んだのね?あなたとあの人が裏で何をしていたのか、私が何も知らないとでも思ってた?私が妊娠する1か月前、出張だと嘘をついて、実際はあの人に会いに行ってたよね?」悠人は息をのみ、私から目をそらした。顔から、みるみる血の気が引いていった。「お、お前……知ってたのか?」遼介は悠
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第8話

私は悠人の手を勢いよく振り払い、冷たく言い放った。「触らないで。汚らわしい。そんなに水原さんのことが忘れられないなら、あの人とお腹の子と、3人で仲よく暮らせばいいでしょ」そう言って遼介の腕を引き、その場を立ち去ろうとした。悠人の顔からさらに血の気が引いた。明らかに焦った様子で私たちの前に回り込み、行く手をふさいだ。「柚希、俺たち、何年も一緒にいただろ。それをそんな簡単になかったことにできるのかよ?このまま本当に美咲と付き合っても、平気なのか?」以前の私は、心の底から悠人を愛していた。悠人が美咲と少しでも親しげにしているだけで、嫉妬せずにはいられなかった。悠人もそれをよくわかっていた。だから私が怒るたび、わざと美咲のところへ行っては不安にさせ、私を思いどおりに動かしてきたのだ。けれど、もう悠人への気持ちは残っていなかった。今さらどれだけ揺さぶりをかけられても、何とも思わなかった。私は悠人の顔も見ずに答えた。「末永くお幸せに」悠人はまだ何か言おうとしたが、その前に友人たちが次々と口を挟んだ。「悠人、どうせ柚希とは遊びだったんだろ?だったら、また別の女を探せばいいじゃん」「そうそう。今は美咲とうまくやることだけ考えろって。柚希なんかに構って、美咲にまで逃げられたら元も子もないだろ」しばらく迷った末、悠人はようやく脇へ退いた。それでも強がるように、わざと声を張り上げた。「わかった。勝手にしろ。ただし、あとで後悔するなよ!」私は口元に冷たい笑みを浮かべた。「どっちが後悔することになるかは、まだわからないけどね」そう言い残し、私は一度も振り返らずにその場を去った。悠人はまだ、美咲のお腹の子が自分の子ではないとも知らず、他人の子の父親になる気でいた。……証拠はすでに握っていたが、今すぐ悠人に真実を教えるつもりはなかった。何も知らないまま、もう少し夢を見ていればいい。真実を知るのが遅ければ遅いほど、そのときに味わう衝撃も苦しみも大きくなるのだから。その日の夜、遼介は悠人の肩を持っていた連中の連絡先をすべてブロックして削除し、そのまま縁を切ったうえで、今回のことを両親にも話した。話を聞いた両親は私をひどく心配し、それから1か月、毎日のように私の好物を作ってくれた。遼介も時間を見つけては
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第9話

それからしばらくして、私はホテル運営に関する資格をいくつか取得した。遼介の紹介でホテルに採用され、支配人を任されることになった。ところが、着任初日に、悠人と美咲が客としてホテルを訪れた。2人は、生まれた子供のお披露目を兼ねた食事会を開くため、会場について相談しに来たようだった。美咲が抱いていた赤ん坊を見て、あれからもう8か月も経っていたのだと気づいた。悠人は私を見るなり、馬鹿にしたように笑った。「柚希、こんなところで会うとはな。ホテルのフロントで働いてるのか?あのとき素直に俺と結婚してれば、今ごろ働かなくても何不自由なく暮らせてたのにな」美咲も得意げに口を挟んだ。「そういえば、柚希ちゃんにはお礼を言わないとね。あなたが身を引いてくれたおかげで、こんなに私を大切にしてくれる人と結婚できたんだもの。さすがに、私も黙ってはいられなかった。「悪いけど、悠人と別れて後悔したことなんて一度もないよ。むしろ、別れたからこそ今の私があるの。水原さんも、私にお礼なんて言わなくていいよ。人の恋人を平気で奪えるほど厚かましかったから、欲しいものが手に入ったんでしょ」2人の顔から笑みが消えた。美咲は顔をこわばらせ、近くにいたフロントマネージャーを呼び止めた。「ちょっと!この人、フロントのスタッフよね?お客にこんな口のきき方をするなんて、どういう教育をしてるの?今日のことはネットにも全部――」美咲が言い終わる前に、フロントマネージャーが冷静に答えた。「失礼ですが、こちらはフロントスタッフではございません。本日付で着任した当ホテルの支配人です」悠人は目を見開いた。私を見る目からは、さっきまでの嘲りが消えていた。「お前、このホテルの支配人だったのか?」私は笑顔のまま答えた。「そうだけど。フロントで働いてるなんて、一言も言ってないよ」美咲は悔しそうに目を伏せたが、一瞬だけ冷たい視線をこちらへ向けた。私は気づかないふりをして、そのまま食事会の内容や当日の流れを2人と確認した。打ち合わせを終えると、各部署へ連絡するため、その場を離れた。数歩も進まないうちに、背後から慌ただしい足音が近づいてきた。振り返ると、美咲が子供を抱いたまま、こちらへ向かってきていた。美咲は私の前で足を止めると、勝ち誇ったように
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第10話

「こんなに小さい子を、床に落とすなんて……どうしてそんなひどいことができるの?」次の瞬間、悠人が血相を変えて駆け寄ってきた。美咲と子供を慌てて抱き起こすなり、私の頬を思いきり叩いた。「柚希、何考えてるんだよ!美咲が俺の子を産んだのが、そんなに気に入らないのか?だからって、子供にこんなことするなんてどうかしてるだろ!」叩かれた頬がじんじんと痛んだ。私は悠人を冷たく見据え、その頬を思いきり叩き返した。「その子を床に落としたのは私じゃない。水原さんがわざとその子を落として、私がやったことにしようとしたのよ。そもそも、私が嫉妬する理由なんてないわ。その子、初めからあなたの子じゃないもの」悠人は目を見開き、しばらく何も言えずにいた。「何だって?この子が俺の子じゃないって?」悠人は眉をひそめ、今度は美咲に目を向けた。美咲は一瞬言葉に詰まり、唇を噛んだが、すぐに泣きそうな顔を作って悠人の胸にすがりついた。「悠人、柚希ちゃんの言うことなんて信じないで。この子は間違いなく悠人の子よ。妊娠がわかってから出産まで、ずっとそばで支えてくれたじゃない。それなのに、柚希ちゃんのひと言で私を疑うなんて……ひどいよ」美咲に泣きつかれると、悠人は困ったように眉を下げた。美咲はそのまま私を振り返り、今度は私を責め始めた。「柚希ちゃん、私が何をしたっていうの?どうしてそこまで私を嫌うの?子供をこんな目に遭わせたうえに、私が浮気してたなんて嘘までつくの?この子が悠人の子じゃないって言うなら、証拠を見せてよ。何の証拠もないなら、ただの言いがかりでしょ!」美咲が周囲に聞こえるように声を張り上げると、騒ぎを聞きつけた人たちが次々と足を止めた。美咲の話だけを聞いた人たちは、たちまち私を悪者と決めつけ、好き勝手なことを言い始めた。「あの人、元カノでしょ?今の奥さんに嫉妬して、2人の仲を壊そうとしてるんじゃない?」「それで子供を床に落としたの?いくらなんでもひどすぎるよ」……そんな声を聞いているうちに、悠人もすっかり美咲の言い分を信じたようだった。美咲と子供をかばうように前へ出ると、私をにらみつけた。「そこまでこの子が俺の子じゃないって言い張るなら、証拠を出せよ。何の証拠もないのに、勝手なこと言うな」私は落ち着いて答えた。「信
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