私は椅子に崩れ落ち、肩で激しく息をした。6年前の光景が、鮮明によみがえった。海外進出のため1年以上国外に滞在していた彰人が帰国した日、彼は赤ちゃんを抱いた女性に寄り添い、到着ロビーに現れた。探るような私の視線に気づくと、彰人は慌ててその女性から離れ、必死に弁解した。「美晴、誤解するな。この人は俺のいとこの小川莉奈だ。離婚したばかりで、一人で子どもを育てるのは大変なんだ。身内として少し力になりたいだけだよ」続いて、彰人は莉奈を厳しい目で見て言い放った。「俺が愛しているのは美晴だ。余計な誤解をさせたくない。用もないのに俺たちの前に現れるな」その後の数年間、彰人と莉奈が不自然に関わっているところを見たことはなかった。二人の関係を疑ったこともなかった。後に偶然莉奈と再会したとき、苦しい生活を送っていると知り、同情した私が会社に雇い入れたほどだった。まさか、いとこなどではなく、彰人が外に囲っていた愛人だったとは思いもしなかった。私は抜け殻のようになって市役所を出ると、痛む胃を押さえながら病院へ向かった。診察室の扉をノックしようとしたとき、中から話し声が聞こえてきた。「彰人、6年前に莉奈と陽太を連れ帰って、美晴さんにはいとこだと嘘をついた。そのうえ、本人に黙って離婚届まで出して……いつまで美晴さんを騙し続けるつもりなんだ?」声の主は、彰人の友人で医師の佐久間直樹(さくま なおき)だった。私は動揺しながらスマホを取り出し、録音を始めた。直樹が焦った声でさらに問い詰めた。「いつまで迷っているつもりだ?素性の知れない女のために、苦楽を共にしてきた妻を傷つけて……一番愛しているのは美晴さんだと言っていただろ」彰人は手の中のカップを弄びながら、暗い表情を浮かべていた。やがて、重い口を開いた。「俺は莉奈を安心させたかっただけだ。あのとき海外で酒に薬を盛られた俺を助けてくれたのは莉奈だ。そればかりか、命懸けで息子の陽太を産んでくれた。莉奈も陽太も、俺なしでは生きていけない。美晴は毎日俺と一緒にいられる。でも莉奈は、俺たち夫婦が仲よくしているのを陰で見ているしかなかった。せめて籍を入れて償うことの何が悪い?」頬を張られたような衝撃に、頭の中で耳鳴りが響いた。「それに、女手一つで子どもを育てているだけでも、周
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