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彰人の目に、突然光が戻った。「早く美晴を捜せ!まだ生きている!」傷が癒えると、私は藤村教授の指示に従って人工冬眠カプセルに入り、5年間にわたる人工冬眠実験に参加した。その後、彰人が何をしていたのか、私は知らなかった。5年後。人工冬眠実験は無事に成功し、国から表彰も受けた。藤村教授は大いに喜び、私に数日間の休暇をくれた。私は複雑な思いを抱えながら、決して忘れることのできない場所を再び訪れた。母が生前好きだったひまわりを手に、墓前へ向かった。5年間、一度も墓参りに来られなかった。それなのに、墓の周りには雑草一本生えていなかった。不思議に思っていると、隣に立派な墓が新しく建てられていることに気づいた。だが、墓碑銘には赤い布が掛けられ、誰の墓なのか分からなかった。気にはなったものの、勝手に布をめくるわけにもいかなかった。帰ろうとしたとき、背後から聞き覚えのある声がした。「美晴……本当に帰ってきたのか?」彰人だった。体が反射的にこわばった。こんなに早く再会するとは思わなかった。私が立ち止まったままでいると、彰人は駆け寄り、肩をつかんで無理やり振り向かせた。5年間待ち続けた相手が本当に目の前にいると分かると、彰人は涙をあふれさせ、私を強く抱きしめた。「美晴、本当に美晴なんだな。やっと帰ってきてくれた」彰人が私の前で、ここまで取り乱して涙を流したのは初めてだった。けれど、もう彼を気の毒だとは思わなかった。必死に腕を振りほどき、冷たく告げた。「人違いです」彰人の体が震え、信じられないという目で私を見つめた。だが、しばらくすると、涙を流したまま笑った。「美晴、大丈夫だ。まだ俺に怒っているんだろう?責めたりしない。もう俺の前からいなくならないなら、どんな条件でも受け入れる」私はもう、彰人と関わるつもりはなかった。「これ以上つきまとうなら、警察を呼びます」冷たく言い放ち、足早に山を下りた。それでも彰人は諦めず、麓まで追いかけてきた。「美晴、本当に悪かった。お願いだから、もう俺を置いていかないでくれ。莉奈とはもう何の関係もない。俺が愛しているのは、今も美晴だけだ」私は一度、足を止めた。5年も経ったのに、よくそんなことが言えるものだ。本当に私を愛して
彰人は、頭を強く殴られたような衝撃を受けた。自分は本当に莉奈の罠にはめられていたのだ。直樹の言ったとおり、莉奈は金のために彰人へ近づいた女だった。そして彰人は、そんな女のために美晴を死なせた。床に払い落とした骨壺のことを思い出し、彰人は慌てて自宅へ戻った。屋敷の前には空になった骨壺だけが残り、美晴の遺骨は風に飛ばされ、辺りに散らばっていた。彰人はその場に膝をつき、必死に遺骨を拾い集めた。大粒の涙が地面に落ち、散らばった灰を濡らした。「美晴、ごめん。わざとじゃないんだ。本当に美晴の遺骨だとは思わなかった。あのとき、莉奈をかばうために美晴を盾にしなければ、死なせずに済んだ。全部俺が悪かった。どんな罰でも受ける。だから、俺を置いていかないでくれ」けれど、どれほど懸命に拾い集めても、散らばった遺骨をすべて元に戻すことはできなかった。最後は駆けつけた直樹が、彰人を地面から立たせた。「彰人、もうやめろ。美晴さんだって、こんなお前の姿は見たくないはずだ」彰人は涙を浮かべたまま、自嘲するように笑った。「そのとおりだ。俺は報いを受けたんだ」直樹は深くため息をつき、それ以上何も言わなかった。せめてもの償いとして、彰人は美晴のために盛大な葬儀を執り行った。弔問に訪れた人々は彰人を慰め、美晴に対する彼の深い愛情を口々に称えていた。そのとき、一人が疑問の声を上げた。「宮坂社長、亡くなったのが奥様なら、映像の中で奥様と呼ばれているこの女性は誰なんですか?」その人物は、彰人に一本の動画を見せた。動画には、千恵子が莉奈と陽太を連れてショッピングモールを歩いている様子が映っていた。そこで通行人が莉奈に気づき、駆け寄って尋ねていた。「宮坂社長の奥様、今日はあなたのお葬式じゃなかったんですか?生き返ったんですか?」すると千恵子は、バッグから婚姻届受理証明書を取り出した。「これをよく見なさい。今の彰人の妻は莉奈ちゃん。死んだのは、彰人に捨てられた元妻よ!」「では、亡くなったのは本当に前の奥様なんですか?宮坂グループを一緒に築いた方ですよね?」葬儀に参列していた人々は、一斉に聞き耳を立てた。次にどんな話が飛び出すのかと、興味津々だった。彰人は険しい表情を浮かべ、答えようとした。そこへ、秘書が慌
「全員グルだろ!今すぐ出ていけ!」取り乱した彰人に恐れをなした二人の職員は、何も言わずに逃げるように立ち去った。そこへ、友人の直樹が駆け込んできた。「彰人、大変だ。病院の防犯カメラを確認したら、あの日、美晴さんが診察室の外で俺たちの話を聞いていた」直樹はそう言うと、防犯カメラの映像を彰人に見せた。映像を見るにつれて、彰人の顔から血の気が引き、体が震え始めた。「美晴は……全部知っていたのか」続いて、秘書から電話がかかってきた。「宮坂社長、奥様が数日前に市役所を訪れ、6年前に離婚届が受理されていたことを知ったようです」その瞬間、張り詰めていた彰人の心がついに限界を迎えた。目を閉じると、そのまま床に倒れ込んだ。一方、私は懸命な処置によって、どうにか一命を取り留めた。藤村教授は痛ましそうに私を見つめた。「どうしてこんなことになったんだ?」私は彰人との間に起きたことを、すべて藤村教授に話した。話を聞き終えた教授は、怒りをあらわにした。「なんて最低な男だ。君は自分の夢を諦めてまで、あいつと一緒に会社を築いたんだろう。それに感謝するどころか、ここまで君を傷つけるとは。二度と君を見つけられないようにして正解だ。一生後悔させてやればいい!」彰人が本当に後悔するかどうかは分からなかった。けれど、彼のもとを去ったことを後悔するつもりはなかった。……「美晴!行かないでくれ!」悪夢から飛び起きた彰人は、美晴の名前を叫んだ。額の汗を拭い、美晴がすべてを知っていたことを思い出すと、再び不安が込み上げた。ベッドから下りようとしたとき、病室のトイレから、莉奈が電話で話す声が聞こえた。「もう二度と私に電話しないで。陽太が彰人さんの子どもじゃないと知られたら、私たち二人ともただじゃ済まないわ」その言葉を聞いた彰人は拳を強く握り、顔をこわばらせた。陽太が自分の子どもではなかった。莉奈は、自分まで騙していたのだ。彰人は急いでベッドを下り、怒りに目を赤くしながらトイレへ向かった。扉を蹴り開けようとした直前、莉奈が先に扉を開けて出てきた。彰人の顔色が悪いのを見て、体調を崩したのだと思った莉奈は、慌てて腕を支えた。「彰人さん、どうして起きたの?早くベッドに戻って休んで」以前と変わらない、
彰人は胸の奥に湧いた不安を無理やり押し殺し、玄関の扉を勢いよく開けた。「美晴、いるんだろ!出てこい!」何度大声で呼んでも、返事はなかった。彰人は次第に焦り始めた。リビングを見回すと、以前より物が減っていた。中央に飾られていた二人の結婚写真までなくなっていた。胸を強く締めつけられ、彰人は慌てて二階の部屋へ駆け上がった。かつては美晴の物であふれていた部屋が、今は誰も住んでいなかったかのように空っぽになっていた。彰人は気が狂いそうなほど焦った。クローゼットもバスルームも、部屋の隅々まで捜した。それでも、美晴の物は一つも見つからなかった。心の中から大切な何かが、少しずつ消えていくように感じた。必死につかもうとしても、指の間からこぼれ落ちていった。たった数日、家に帰らなかっただけなのに、なぜ何もかも変わってしまったのか理解できなかった。もしかして、美晴は何かに気づいたのか。彰人はそれ以上、考えることができなかった。息が詰まりそうな胸を押さえ、独り言のように呟いた。「いや、そんなはずない。美晴はあんなに俺を愛しているんだ。俺を置いていけるわけがない」そのとき、スマホが鳴った。美晴からだと思い、彰人の胸に希望が灯った。着信画面を確認することも忘れ、慌てて電話に出た。「美晴、どこにいる?」電話の向こうで、秘書が一瞬黙った。「宮坂社長、奥様を捜したところ、3日前にホテルへ宿泊した記録が見つかりました。ただ、今朝すでにチェックアウトしています」待ち望んでいた相手ではないと分かると、彰人の表情がたちまち険しくなった。「役立たずが!このまま見つけられなければ、お前たちは全員クビだ!」怒鳴られた秘書は慌てて返事をし、すぐに電話を切った。通話が終わると、彰人は全身から力が抜け、その場に座り込んだ。胸の中は不安と混乱でいっぱいだった。いつか突然、美晴を見つけられなくなる日が来るなど、考えたこともなかった。二人で過ごした日々が、次々と脳裏によみがえった。幸せだった時間。ささいなことで言い争ったこと。一緒に会社を切り盛りし、苦労も喜びも分かち合った日々。そして、最近の自分が美晴に向けていた冷たい態度。何より彰人を苦しめたのは、少し前に美晴が告げた言葉だった。
腹部に走った激痛で、顔から血の気が引いた。会場はたちまち混乱に陥り、あちこちから悲鳴が上がった。彰人は血だまりに倒れた私へ駆け寄ろうとした。だが、莉奈の泣き声を聞くと、すぐに足を止めた。「彰人さん、めまいがする……息も苦しいの」彰人は私を一度だけ見ると、歯を食いしばって言った。「誰かが病院へ連れていってくれる。俺は先に莉奈をここから出す。莉奈はこういうことに弱いんだ」莉奈には怖い思いすらさせられないのに、私の命はどうでもいいの?彰人、あなたはどこまで残酷で、身勝手なのだろう。絶望の中で目を閉じた。病院に着くと、彰人はただ怯えているだけの莉奈のために、院内の専門医を集めた。全身を血に染め、瀕死の状態だった私は、まともな処置も受けられずにいた。意識を失いかけたとき、藤村教授が大勢のスタッフを連れて駆けつけてくるのが見えた。一方、病室では莉奈がひどく衰弱したふりをしていた。「彰人さん、さっきの男、すごく怖かった。私、あの人のことなんて知らないのに、どうして殺そうとしたの?」彰人は莉奈をいたわるように抱き寄せ、優しく背中をなでた。「莉奈、もう大丈夫だ。俺がいる限り、誰にも莉奈を傷つけさせない」「彰人さん……」莉奈は突然、遠慮がちに尋ねた。「あの男、美晴さんが私を怖がらせるために雇ったんじゃないかしら?」その言葉を聞いた途端、彰人の目に激しい怒りが浮かんだ。「そんなことをしていたら、絶対に許さない。今すぐ美晴を連れてきて、莉奈に謝らせる!」彰人から見えないところで、莉奈は思いどおりになったと言わんばかりに口元をゆがめた。莉奈を落ち着かせると、彰人は怒りに任せて救急外来へ向かった。「さっき、俺たちのあとから運ばれてきた女性はどこですか?」看護師は少し考えたあと、残念そうな表情を浮かべた。「刃物で刺されて運ばれてきた患者さんですか?出血がひどく、亡くなりました」自分の耳を疑った彰人は、声を張り上げた。「今、何と言った?誰が亡くなったんだ?」突然取り乱した彰人に、看護師はおびえながら答えた。「上原美晴さんです。搬送された時点では、まだ助かる可能性がありました。ですが、医師が全員ほかの患者さんのもとへ呼ばれてしまい、処置が遅れて……」彰人は信じられないという顔で
母の形見を、莉奈の機嫌を取るために使うなんて。怒りが一気に込み上げ、私は書斎の扉を蹴り開けた。「彰人、何をしているの?」怒りに震える私を見ると、彰人は反射的に莉奈を背後へかばった。「美晴、いつまでそんなふうに取り乱しているつもりだ?」目の前にいる彰人が、まるで知らない人のように思えた。「母のブレスレットを返して!」莉奈は驚いたふりをすると、ブレスレットを外して突然手を離し、頭を抱えて悲鳴を上げた。「あっ、彰人さん、ごめんなさい。わざとじゃないの」ブレスレットは床に落ち、粉々に砕けた。母が遺してくれた最後の形見が、なくなってしまった。目を赤くして莉奈をにらむと、彼女は無実を装うように両手を振った。「殴らないでください。本当に手が滑っただけなんです」莉奈に詰め寄ろうとした私を、彰人が素早く遮った。「もういいだろ。死んだ人間の遺品なんて縁起が悪いだけだ。壊れたものは仕方ない」私は耳を疑い、彰人を見つめた。かつて彼が言っていた言葉が、頭をよぎった。「美晴、安心しろ。お義母さんが遺した最後の形見だ。これからは二人で大切にしよう」それを今、縁起の悪い物だと言い捨てたのだ。唇を強くかみ、一言ずつ確かめるように尋ねた。「彰人、私はまだ法律上、あなたの妻なの?どうして今は、何もかも莉奈の味方をするの?」彰人は大きく動揺し、曖昧な口調で答えた。「当たり前だろ。俺たちは10年前に結婚したんだから」その答えを聞き、怒りのあまり笑いが漏れた。「そう。もし私を騙しているなら、二度と私に会えると思わないで」砕けたブレスレットを拾い集め、6年間暮らした家へ戻った。迷うことなく、彰人に関わる物をすべて焼き捨てた。10年間の結婚生活も、炎とともに燃え尽きていった。最低限の荷物だけを持ち、ホテルに部屋を取った。その間に、藤村教授からメッセージが届いた。【美晴くん、3日後、病院から君を研究施設へ移送する】この3日間で彰人から届いたのは、わずか2通のメッセージだけだった。【美晴、さっきは腹が立って、ひどいことを言った。気にしないでくれ】【この数日は一人になりたいだろうから、家には帰らない。俺は会社で創立記念パーティーの準備をしている。当日、会場で待ってる】その2通を見ている