「いいよ」考えるより先に、その言葉が口をついて出た。沙耶は目を丸くした。「瑞希、もしかして怒った?冗談だってば」慎一の顔がすっと険しくなった。「瑞希、何をムキになってるんだ。沙耶は冗談で言っただけだろ。いくらなんでも、『いいよ』はないだろ」冗談?この6年、クリスマスイブになるたび、慎一は沙耶と2人で出張していた。その一方で、恋人であるはずの私は、6年もの間、職場の新人たちにずっと独身だと思われてきた。少なくとも私には、笑って流せるような話じゃなかった。私は呆然と慎一を見つめた。慎一は私が意地を張っているだけだと思ったらしく、沙耶のキャリーケースを引くと、振り返りもせず空港の中へ入っていった。沙耶は申し訳なさそうに私を抱きしめた。「瑞希、怒らないでね。慎一って昔からあんな感じでしょ。私たちがいない間も、ちゃんとご飯食べて、無理しないでね」そう言うと、沙耶は慎一を追いかけていった。そして慎一に追いつくなり、その腕に勢いよく飛びついた。2人の後ろ姿を見ていると、遅れて鼻の奥がつんとした。タクシーで会社に戻ると、私たちが付き合っていることを知る同僚たちが、そろって同情するような目を向けてきた。ぼんやりしたまま仕事を終え、家に帰るとスマホが鳴った。慎一は、出張中の予定はちゃんと連絡すると言っていた。慎一からだと思い、よく見もせず通知を開いた。けれど、表示されたのは沙耶のインスタの投稿だった。【クリスマスだからって、みんなホテル取りすぎ!どこも満室で、出張中の社畜2人はダブルルームに泊まる羽目になりました!】【変に誤解されたくないから、証拠写真も載せとく!】写真では、ダブルベッドが真ん中に並べられたバラの花びらで2つに仕切られていた。沙耶は両足を上げてベッドにうつ伏せになっていて、そのつま先は、花びらの境界の向こうに座る慎一の肩に触れそうなほど近かった。コメント欄には、意味深なニヤニヤ顔の絵文字がいくつも並んでいた。中には、「このまま慎一とくっついちゃえば?」なんてコメントまであった。沙耶は何も返していなかった。その投稿に真っ先に「いいね」をつけたのは慎一だった。けれど、私には何の説明もなかった。私はしばらく、その画面を見つめていた。慎一から来るはずだった
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