All Chapters of 南野コレ式!~蒐集狂の無能営業、レアアイテムコンプするまで元の世界に帰れま100~: Chapter 1 - Chapter 10

10 Chapters

№01・レアアイテム図鑑・1

 南野たちは今、牛に追われていた。 牛である。 それも、一頭や二頭ではない。 百以上もの牛の大群に猛然と追われているのだ。 走る、走る。 原野をひたすら走りながら、南野は近い将来牛にミンチにされる図を想像してしまった。「ねえええええ!? いつまで走るの!?」 隣を走っていた少女が非難めいた声を上げる。「わた……わたし……もう、はしれません……」 眼鏡をかけた気の弱そうな少女がひいはあと息を切らせながら弱音を吐いた。「こっ……このおれにかかれば……うしなど……」「ならとっととやってみんかい!! このアホンダラ!!」 端正な顔立ちで耳の尖った男と巨大なハンマーを担いだ少女が口にする。 盛大な土ぼこりを上げながら突進してくる牛たちの目は、どれも怒りに燃えていた。「や、やっぱり……あんなことしなければ……!」 南野までもがあきらめかけたその時、がしっと隣の少女が南野の腕をつかんだ。「こうなったら……飛ぶよ!」「飛ぶって……ええ!?」「つかまって!!」 強引にからだを引き寄せた少女は素早く印を切り、呪文を唱え地を蹴った。「『第二百八楽章の音色よ! 創生神ファルマントの加護のもと、空を泳ぐがごとき旋律を解き放て!』」 こんなことになったのも、元はと言えば『あの女』のせいだ。「あのねえ、南野君……」 島崎部長の指がとんとんと苛立たしげにオフィスのデスクを叩いている。 頬杖をついてお茶を口に運びながら、『物わかりのいい上司』を装ってはいるが、じっとりと湿った視線がそれを台無しにしていた。 オフィスに残っている他の社員たちが遠巻きにひそひそとささやいている。『また南野か』『そりゃそうだよな、あの成績じゃ』『部長そうとうおかんむりだよ』 やめてくれ、丸聞こえだ。 こころの中でひっそりとそうつぶやきながら、南野アキラは部長のデスクの前で直立していた。 25歳、男性。結婚はしていない。恋人はもちろん友人もいない。 最近とみに目立つようになった若白髪が気になる、ひょろりとした体躯を安物のスーツに包んでいる。 営業職として新卒でこの石垣商事に入ったものの、営業に必須の対人スキルが壊滅的で、同僚とも打ち解けられず、低飛空横ばいの営業成績をなんとかするでもなく、今日もこうして部長に説教を食らっているという体たらく。 とんとんとん
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・2

 貧相なビルから一歩外に出ると、秋の夜風が肌に触れる。そろそろコートが欲しい季節だ。 安物のスーツをひるがえして、南野はまっすぐ最寄り駅まで歩いた。 途中通った繁華街では仕事帰りの酔客たちが赤提灯でクダを巻いているのが見えたが、そういったバカ騒ぎは友達のいない南野には無縁のものだった。 電車のつり革をつかんで三駅。各停しか止まらない小さな駅で降りると、やはりまっすぐに自宅への道を歩む。 ファミリー向けのアパートが立ち並んだ住宅街の一角に南野の『城』があった。 エレベーターで四階まで上がり、ドアノブにキーを差し込む。玄関の扉を開くと、靴を脱いで照明をつけた。 ……そこはまさしく、南野が築き上げてきた異様な『城』だった。 単身者にしては広すぎるワンルームは、わざわざ二部屋の壁をぶち抜いて一部屋に仕立てたものだった。 18帖ほどのだだっ広いワンルームには、粗末なパイプベッドと小さな冷蔵庫、レンジが置いてある。生活感のあるものといえばそれくらいだ。 あとは、ただ部屋いっぱいにスチールラックが並んでいた。 図書館の書架を思わせるそのスチールラックには、偏執狂的なまでに几帳面に、そして隙間なく様々な物品が並んでいる。 『雑多』と呼んでしまいたいところだが、物品の間にはたしかに共通点がある。 クリアファイル、おもちゃ、フライヤー、本、DVD、雑貨、食器、洋服……それらはどれも、とあるカップ麺がマスコットキャラとして起用しているヒヨコの絵柄がプリントされていた。 その部屋にはヒヨコのキャラクターがあふれており、逆を言えばそのキャラクターしか存在していない。「……ただいま」 南野は会社ではついぞ見せたことのない満面の笑みを浮かべてその『城』……いや、『博物館』(ミュージアム)の方が近いかもしれない……の真ん中に立った。 どこを見てもヒヨコのキャラクターだらけ。これがひとの写真ならば、間違いなくストーカーの部屋だっただろうが、そうではない。 ……南野アキラは、『蒐集狂』(コレクトマニア)である。 給料の大半をマニアックなグッズの購入に費やし、休みの日は新たなグッズの情報を集めるためにネットサーフィンをしたり、わざわざ他県のリサイクルショップを巡ったり、ファンクラブの会合に参加したり、生活のすべては蒐集のためにあった。 しかし、なにもこのヒヨコのキ
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・3

 翌朝。 目覚ましが鳴るきっちり5分前に目覚めると、南野は仕事に行く準備を始めた。いくら成績が悪くても簡単にクビにされないのは、こうして毎日皆勤しているためだった。 仕事など、南野にとってはコレクションを充実させるための資金源でしかないのだが。 『城』の掃除を終えて身支度を整えると、南野はいつも通り駅へと歩いて行った。まだ学生も歩いていない早い時間、開いているのはコンビニくらいだ。 駅へと続く歩道橋を上り、てっぺんまでたどり着いたそのとき。 ふと、眼下の道路を例のヒヨコのキャラクターが描かれたトラックが通り過ぎていくのを目にとめた。 ついつい目で追ってしまい、注意がおろそかになる。 とん、と背中を押されたのはそんな瞬間だった。「……あ……」 足元がふらつき、なすすべもなくからだがかしぐ。視界に映るなにもかもがスローモーションで過ぎ去っていく。 ……そういえばこの階段かなり長かったな、と思い出しながら、南野はゆっくりと落下していった。 その一瞬の走馬灯のなか、ふと視界の端に赤を認める。 鮮烈な、鮮烈な赤だ。 あれは、女性のワンピースなのだろうか。それとも微笑む口紅の色だろうか。 自分の背中を押した女は、『赤』という特徴が際立ちすぎていて、その他の特徴に目が行かなかった。 もっとも、落下する間の出来事だ、とっさのことすぎて『笑っている赤い女』以外の情報は得られなかった。 そろそろ頭をぶつけて死ぬ頃合いか、と衝撃にからだをすくめていると、見上げていた空の色が赤一色になった。 さすがに目を丸めていると、空の色は一瞬で澄み渡るような水色に変わった。 ……ぽすん。 死ぬほどひどい衝撃を覚悟していた背中に、なにかが触れる。どうやらやわらかいなにかに着地したらしい。 運がいいな、偶然マットレスでも通ったのか?と手をついてからだを起こす。「…………あれ?」 明らかな異常に気付いて、南野は上半身を起こしたまま辺りを見回した。 そこは駅前のアスファルトの上ではなく、広大な草原だった。秋というよりも春めいた風がそよそよとさわやかに吹き抜け、草花を揺らしている。 草原は森に囲まれており、時折鳥や虫が鳴いていた。頭上には太陽が輝いていて、これがピクニックならば相当良いお日柄だっただろう。 しかし、南野はたしかに会社に行くために駅へと向かってい
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・4

「どこじゃ!? おい、どこにおる!?」「……こ、ここです」 鼻の頭を押さえてうずくまりながらも挙手。 家主はやっと南野を見つけたらしく、細い腕で南野のひょろっとしたからだを引きずり起こす。 家主の姿を見て、南野は絶句した。 『赤』に突き落とされたと思ったら、今度は『緑』だ。 足元まで届く緑の長い髪に、エメラルドグリーンの大きな瞳。緑のゆったりとしたガウンのようなものを羽織り、くちびるまで緑に塗っている。 年のころは自分と同じくらいだろうか、作り物のように整った顔をしている。コピー用紙くらい白い肌にはしみひとつない。ほっそりとした体躯で、風が吹けば飛ばされてしまいそうだった。 まばたきのたびに、瞳の緑が玉虫色のような不思議な色彩を帯びる。 ……まあ、日本ではまず見かけない容貌だった。どころか、世界のなかでもなかなかいないだろう。 強制的に立ち上がらされた南野は、ぎょっとした顔のまま緑の女を眺め、「…………コスプレの方ですか?」「こすぷれじゃと? なんじゃそれは?」 ものすごく怪訝な顔で返された。日本語が通じるということはとりあえずは日本人らしい。 しかし、コスプレではないとすると、一体全体なぜこんな奇妙奇天烈な色彩をまとっているのだろうか。なにかの趣味なのだろうか? 南野がそんなことを考えていると、緑色の女は、じい、と南野の顔を覗き込んでくる。「そもそも、えきまえ、なんぞ聞いたこともない街の名前じゃな……やはりお主……」「いやいや、駅前ですよ、このあたりに駅あるでしょ?」「乗合馬車の駅かの?」「ば、馬車……!?」 声が裏返った。どうも話がかみ合わない。いよいよ死後の世界説が真実味を帯びてきた。 だとすると、この緑の女は死神か。ずいぶんとド派手な死神だな、と思いながらも、南野はダメ元で状況を説明した。「ともかく、電車の駅前の歩道橋から、やたら赤い女に突き落とされたんですよ。それで、気付いたらここにいました。なにがどうなってるのかまったくわからなくて……ここ、死後の世界ですか? 俺、死んだんですか?」 畳み掛けるように必死こいて南野が尋ねると、緑の女は途端に苦虫をかみつぶしたような顔をした。「赤……『赤』、か。くそっ、『赤の魔女』め、また厄介なものを押し付けよって……!」「は? 魔女?」 死神ではなく? 急に出てきた
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・5

「じゃあ、元の世界へ返してくださいよ。俺は帰らなくちゃいけないんです。残してきたものがあるから」 送ることができたのならば、返すこともできるだろう。 何の気なしにそう言った南野に向かって、緑の魔女は玉虫色の瞳を輝かせた。「ほほう、家族でもおるのか?」「そんなもののために帰るわけじゃありません」「『そんなもの』か。お主、なかなか変わっておるの」 緑の魔女は、そこで一口お茶を口に運んだ。なんとなく焦らされているような気がして、南野は尻の据わりが悪くなった。 それから、ふう、と小さくため息をついて言葉を継ぐ緑の魔女。「ことはそう簡単なことではないのじゃよ。まず、時間がかかる。返す側は送る側のように気が付いたらすぐに返せるわけではないのじゃ。魔力を蓄え、最適なときを待ち、ときが来てようやく返すことができる」「けど、それって浦島太郎みたいに向こう側の時間が百年くらい過ぎてるなんてことは……?」「うらしまたろう、がなんなのかはわからぬが、その可能性はある。ときの流れ方が違えばそういうことも起こるじゃろ。逆に、向こう側の時間が一秒程度しか過ぎていないということもある」「そうであることを願うばかりです……」「こればかりはどうしようもないからの。問題はまだまだあるぞ。お主も『跳躍力』を蓄えねばならぬ」「ちょうやくりょく……って、ジャンプするちからのことですか?」「もちろん物理的に跳びはねるちからではないぞ。時空と時空の壁を飛び越えるちから……簡単に言えばこの世界の魔力じゃな。この世界になじみ、呼吸とともに魔力をからだに取り入れなければならぬ。その『跳躍力』がなければ元の世界には帰れぬ」「……あの、どうすれば?」 話が難しくなって頭がこんがらがってきた。 とりあえず対処法を聞くと、緑の魔女は事もなげに言ってみせる。「簡単じゃ。この世界に身をゆだねる覚悟をすることじゃ。そしてこの世界に受け入れられること。さすれば魔力はからだを巡り、お主の『跳躍力』は増していく」 『緑の魔女』は、そこでトンボを捕まえるように南野の前でぐるぐると指先を回した。見ていると、同じような動きで目が回りそうになる。「この世界を拒絶してはならぬ。この世界の住人であることを受け入れよ。無理に帰りたいと思うな。もっとも、来てすぐのお主にはなかなか難しかろうが」 たしかに、南野は
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・6

 緑の魔女はまさしく魔女らしく、どこか妖しい微笑みを浮かべて頬杖を突いた。 悪魔に魅入られたようにからだが硬直して、南野は背筋をぴんと伸ばして膝に握りこぶしを置く。「集めることが好き、ということならば……この世界でも、『集めて』もらおうではないか。さいわい、時間はたんまりあることじゃしな」「……集める……? なにを、ですか?」「そうじゃな、難易度が高いほうが集めがいがあるじゃろ……これを持て」 そう言って、緑の魔女は一冊の本を差し出した。おそるおそる受け取って、ページを開いてみる。 ……なにも書いていない、白紙の本だった。「あの、これ……?」「まあ待て、今にわかる」 白紙の本の一ページ目を開いていると、ぼわ、と何かが浮かび上がってきた。精緻な図と文字だ。異国の文字だというのに、南野にはなぜかそれが読めた。 不思議に思いながらも、まずは内容に注目する。「NO.1、『レアアイテム図鑑』……?」「その本のことじゃな」 こくりとうなずく緑の魔女は、面白そうに言葉を続ける。「NO.1、とあるように、レアアイテムはこれひとつではない。この魔法が統べる世界には、100のレアアイテムが散らばっておる。お主はそのレアアイテム図鑑に導かれるまま、100のレアアイテムを集めてもらう」「100のレアアイテム……?」「そうじゃ。古の遺物、モンスターの一部、呪われた芸術品……なにが出てくるかはレアアイテム図鑑次第じゃが、とにかく入手困難な品物ばかりじゃ。それを手に入れて、妾のもとに送ってもらう。次元の壁を越えさせる対価としては安いものじゃろ?」 それで『取引』か……悪魔のように魅力的な笑みを浮かべて、緑の魔女は南野の答えを待った。 100のレアアイテム……それを集めてくる。 魔法が統べる世界の珍品を、この手で。残すことなく、100。 南野の腹の奥底がずぐりと熱くなった。『蒐集狂』としての血が騒ぐ。 異世界の珍品を集めるなんて、そんな困難なこと……達成した暁には、とんでもない快感が待っているに違いない。 入手困難なものを集める、コレクトマニアとしては願ってもいない無理難題だった。 南野は黙って『レアアイテム図鑑』を閉じ、自分の膝の上に置いて決然とした表情を浮かべた。 それを答えと受け取ったのか、緑の魔女はにんまりと笑って茶を飲み干す。「決まり、
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・7

 さいわい野盗にもモンスターにも出会わずに、緑の魔女が言った通り、南野は夕暮れどきには街にたどり着いた。 黄昏時の街は淡いランプの街灯や店の明かりに照らされて、活気に満ち溢れていた。行商人たちが品物を広げていたり、夜の店の客引きたちがあちこちで道行くひとびとに声をかけている。 ……ここに来るまでに少し考えていたのだが、この世界はいわゆるファンタジーRPGのような世界らしい。剣と魔法の世界だ。魔法もあればモンスターもいる。 ところどころ考えているものと差異があるだろうが、おおむねそんなところだ。 南野は『異世界転移』とやらに巻き込まれたようだ。ここに来る前に漫画かなにかで読んだことがある。ものすごく流行っていた記憶もある。 そう考えると、こういう『異世界転移』というものは意外とメジャーな現象なのかもしれない。 ただし、物語の主人公がたいていチートな能力を兼ね備えているのに対し、南野にはなんの能力もない。 今のところ魔法が使えるだとか、なにか特別なことができるだとか、そういった兆しはまったくない。前世の記憶が覚醒することもなければ、なにもしていなくても女の子が寄ってくる気配もない。 ないないづくしとはこのことだ。「無理ゲ―じゃないか……」 石畳の街路を歩きながら、南野はひと知れずため息をついた。 それでも、やるしかないのだ。 いや、やりたいのだ。 この異世界で100のレアアイテムを蒐集する……考えるだけでもぞくぞくする。ひとつひとつ、丁寧に、きっちり100集める。整然と、一分の狂いもなく。 そのコレクションのすべては緑の魔女のものになるのだが、『集める』という過程が、南野にとってはなによりも重要なのだ。 己を奮い立たせ、南野はとりあえず冒険者ギルドのある酒場を目指すことにした。 まずは伝手が必要だ。この不案内な世界をいっしょに巡ってくれるガイドが。 酒場は案外すぐに見つかった。街で一番派手で大きな酒場がそれだった。 扉をくぐると、店中の視線が南野に集まる。この世界では安物のスーツは珍奇ないでたちなのだろう、鎧やローブを着込んだ冒険者たちは、どこか剣呑な視線で南野を出迎えた。「……あの、ここ冒険者ギルドですよね?」 さいわい言葉は通じるらしく、受付の女は笑顔でうなずいた。「はい、そうです。パーティーをお探しですか? それとも依頼
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・8

 南野は素知らぬ顔でエールを飲むメルランスに両手を合わせてコメツキバッタのように頭を下げた。「そこをなんとか!」「やだ。お金が絡まないんじゃ話になんない」「ほら、義理とか、人情とか!」「あいにく今切らしてる」「せめて話だけでも聞いてくれませんか!?」 必死に頼み込む南野に、こころを打たれた……というより、うるさいと思ったのか、メルランスはようやくジョッキをカウンターに置いてこっちを向いた。「おいしい話じゃなきゃ承知しないよ」 よし、とりあえずとっかかりはつかんだようだ。 南野は、ここぞとばかりに自分が異世界から流されてきたこと、『緑の魔女』と出会い100のレアアイテムを蒐集することを条件に元の世界に戻してもらうことを、ところどころ言葉に詰まりながら説明した。「ふぅん……」 すべてを聞いたメルランスが、値踏みするような目で南野を眺める。ひょろりとした体躯をこわばらせ、南野は彼女の答えを待った。「『緑の魔女』のレアアイテムコレクションか……まあ、悪い話じゃないね。別にレアアイテム単品で考えなくても、おこぼれくらいにはありつけるだろうし」「そ、それじゃあ……!」「けど、あんたにそれができるの?」「うっ……!」 ずばっと切り込まれて、南野は思わず言葉に詰まった。 この世界のことを何も知らない、チート能力はおろか普通に秀でた能力もない南野が、果たして有象無象うごめく異世界でレアアイテムを集めきることができるのだろうか? ……現実的に考えれば、不可能だろう。 しかし、南野には『蒐集狂』としてのプライドがある。 『集めること』に関しては誰にも負けないという自負がある。 南野は突然、メルランスの小さな手をぎゅっと握りしめた。小さくてもとこどろころにタコがあって硬くなっている皮膚、その下にある血のあたたかさを感じる。 メルランスはその大きな碧の瞳を見開いて、南野を見つめた。その視線を真っ向から受け止めて、とうとうと語り出す南野。「……たしかに、今の俺にはちからがありません。けど、集めたいんです、この世界のレアアイテムを。そのためならなんだってします。悪魔にたましいを売ってもいい。そのお金であなたを雇えるのなら安いものです」 南野は握った手にぐっとちからを込めた。「約束します、俺は『緑の魔女』が提示した100のレアアイテムを蒐集しきり
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№01・レアアイテム図鑑・9

「いい? 勝負は一回きり、文句は受け付けないからね」「わかってます」 ぐびり、唾を飲み込む。 この世界でレアアイテムをコレクションできるかどうか、元の世界に帰れるかどうかのすべてが、この一瞬にかかっているのだ。 手がどけられる。 穴が開きそうなほどじっと相手の手を見つめ、南野は息をのんだ。 …………裏、だ。「やった……!」 表情を輝かせて、南野は小さく快哉を叫んだ。 一方のメルランスは、その結果に仰天したように目を見開いていた。 棒を飲み込んだがごとき顔で手の甲で裏面を向けている銅貨をつまみ上げ、裏表と矯めつ眇めつ検分し、ぽかんと口を開く。「どうかしましたか?」 勝利の余韻に浸りながら聞くと、メルランスは驚いた顔のまま尋ね返してきた。「……あんた、魔法……使った?」「まほう? まさか、俺はこの世界に来たばかりですよ? 使えるわけがない」「じゃあ……どういうこと?」 そのまま、ぶつぶつとつぶやきながら不思議そうにコインを眺める。 負けたことがよほど不服だったのだろうか。しかし完全なる運勝負だったはずだ。ここまでいぶかしむ方がおかしい。「約束ですよ、メルランスさん、俺のレアアイテム蒐集の旅、付き合ってもらいますからね」 約束をたがえられてはたまらない、と念を押すようにずいっと詰め寄ると、メルランスは胡散臭そうに南野を睨みつけてから、大切そうに銅貨を懐にしまった。 渋々といった様子でため息をついたメルランスは、「仕方ない、そういう約束だからね。ただし、言った通り最初のひとつを集めるのに付き合うだけ。あんたに100集めるちからがないとわかったそのときは、あたしは下りるから」「それで充分です」 勝負に勝って上機嫌になった南野は、メルランスの手を両手で取って笑顔で告げた。「しばらくの間、よろしくお願いします、メルランスさん」「勘違いしないで、あたしはただ冒険者として稼ぐためにあんたに付き添うだけだからね!」 ぱっと手を振りほどき、メルランスは突き放すように言った。 それからエールのジョッキをぐいっと傾け、カウンターに置くと、お代の銅貨数枚をバーテンに渡して席を立つ。「明日、またここで。最初の獲物がなんなのかはわからないけど、やってやろうじゃない」「わかりました」「それじゃ、おやすみ」 ひらりと手を振ってその場を去ろ
last updateLast Updated : 2026-08-25
Read more

№02・魔王の名刺・上

「おっはよ」「……おはようございます」「……なにやってんの?」 翌朝、約束通り酒場にやってきたメルランスは、南野の姿を見ていぶかしげな顔をした。 それもそのはず、南野はせっせと酒場の床をモップで磨いていたのだ。 モップにもたれかかって、南野はぜいと疲れたようなため息をついた。「昨晩はこの酒場の物置を借りました。その対価として、雑用を任されたんです」「あー、そういうこと」「雑用! モタモタしてんな! 次は芋の皮むきだ!」「は、はい! ……ってことで、出発はちょっと待ってください」「別に構わないけど」 メルランスはその様子を見ておかしそうにしながら、カウンターのスツールに腰を下ろして南野を待った。 ……二時間ほど後。 芋の皮むきと皿洗いを経て、ようやく南野が解放されたときには昼時になっていた。「お待たせしました」「ずいぶんこき使われたもんだね」 にやにや笑いながら、メルランスは南野が席に着くのを待った。 本当に、この女の子に頼っても大丈夫なのか……? 素性も知らない、名前と姿を知っているだけの少女がなにを考えているのか、南野には見当もつかないというのに。 不安に思いながらも、南野は話を切り出した。「それで、ふたつ目のレアアイテムなんですけど……」「どんなの? どんなの?」 わくわくと目を輝かせながら、メルランスは南野が開いて見せたレアアイテム図鑑の二ページ目を覗き込んだ。「…………『魔王の名刺』…………?」「魔王でも名刺なんて持つんですね。これって難しいアイテムなんですか?」 凍り付いたように動きを止めるメルランスに、南野はなんの気なしに尋ねてみた。「……あの……メルランスさん……?」「…………やっぱ、あたし下りようかな」 だらだらと冷や汗を流しながら、とんでもないことを口走るメルランス。ここで下りてもらっては困る。 南野は説得するような口調で問いかけた。「そんなに難しいものなんですか?」「バカ! 難しいなんてもんじゃないよ!」 急に大声を荒らげられて、目を白黒させてしまう南野。 メルランスはさらに追撃する。「魔王だよ魔王!? わかってんの!? すべてのモンスターの王様だよ!? 魔王討伐のために何人の勇者パーティが行方知れずになったと思ってんの! 人間の村は焼き払うし、ひとは食うし、ものすごい魔法使っ
last updateLast Updated : 2026-09-04
Read more
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status