LOGIN「どこじゃ!? おい、どこにおる!?」
「……こ、ここです」 鼻の頭を押さえてうずくまりながらも挙手。 家主はやっと南野を見つけたらしく、細い腕で南野のひょろっとしたからだを引きずり起こす。 家主の姿を見て、南野は絶句した。 『赤』に突き落とされたと思ったら、今度は『緑』だ。 足元まで届く緑の長い髪に、エメラルドグリーンの大きな瞳。緑のゆったりとしたガウンのようなものを羽織り、くちびるまで緑に塗っている。 年のころは自分と同じくらいだろうか、作り物のように整った顔をしている。コピー用紙くらい白い肌にはしみひとつない。ほっそりとした体躯で、風が吹けば飛ばされてしまいそうだった。 まばたきのたびに、瞳の緑が玉虫色のような不思議な色彩を帯びる。 ……まあ、日本ではまず見かけない容貌だった。どころか、世界のなかでもなかなかいないだろう。 強制的に立ち上がらされた南野は、ぎょっとした顔のまま緑の女を眺め、 「…………コスプレの方ですか?」 「こすぷれじゃと? なんじゃそれは?」 ものすごく怪訝な顔で返された。日本語が通じるということはとりあえずは日本人らしい。 しかし、コスプレではないとすると、一体全体なぜこんな奇妙奇天烈な色彩をまとっているのだろうか。なにかの趣味なのだろうか? 南野がそんなことを考えていると、緑色の女は、じい、と南野の顔を覗き込んでくる。 「そもそも、えきまえ、なんぞ聞いたこともない街の名前じゃな……やはりお主……」 「いやいや、駅前ですよ、このあたりに駅あるでしょ?」 「乗合馬車の駅かの?」 「ば、馬車……!?」 声が裏返った。どうも話がかみ合わない。いよいよ死後の世界説が真実味を帯びてきた。 だとすると、この緑の女は死神か。ずいぶんとド派手な死神だな、と思いながらも、南野はダメ元で状況を説明した。 「ともかく、電車の駅前の歩道橋から、やたら赤い女に突き落とされたんですよ。それで、気付いたらここにいました。なにがどうなってるのかまったくわからなくて……ここ、死後の世界ですか? 俺、死んだんですか?」 畳み掛けるように必死こいて南野が尋ねると、緑の女は途端に苦虫をかみつぶしたような顔をした。 「赤……『赤』、か。くそっ、『赤の魔女』め、また厄介なものを押し付けよって……!」 「は? 魔女?」 死神ではなく? 急に出てきた単語を咀嚼しかねていると、緑の女はぶっきらぼうに言った。 「ともかく、入れ。簡単にじゃが、妾にわかる範囲で説明をしてやる」 そう言うが早いか、緑の女は南野の腕をぐいぐい引いて室内へと引きずり込んでしまった。 ロッジの中はまるで映画のセットのようになっていた。 レンガ造りの暖炉には火が入っていて、あちこちに薬草のようなものが吊るされている。古びた食器に、民芸品のようなものもそこらじゅうに飾ってあった。 巨大なベッドはさっきまで家主が寝ていたのがわかるように乱れている。 食卓のようなテーブルに案内されて、おずおずと腰を下ろす。 緑の女は少しの間だけ席を外すとすぐに戻ってきた。そして、カップに入ったお茶のようなものを出してくる。 嗅いだことのないにおいに警戒したが、意を決して口をつけると、草花のにおいが鼻まで抜けた。ほっとする味だ。 「このお茶……おいしいですね」 「当然じゃ、妾が手づから煎じたものじゃからの」 緑の女はどこか誇らしげにしながら向かいの席に腰を下ろし、同じように茶をすすった。 「どこから話したものか……」 言ったきり、少しの間沈黙が流れる。手持無沙汰になった南野はただお茶を飲んでいた。 音を立てて茶器を置いた緑の女は、ため息ひとつついてようやく口を開く。 「まず、自己紹介からじゃ。妾は『緑の魔女』と呼ばれておる。本当の名前はひとには教えぬことにしておるから、そう呼ぶがよい」 魔女、魔女と来たものだ。死神ではないらしいが、どちらにせよ縁起が悪い。 「それで、俺は死んだんですか? ここは死後の世界なんですか?」 「まあそう急くな。お主はまだ死んでおらんよ……たぶん」 「た、たぶん?」 「なにぶん、ここはお主のいた世界とは違う世界なのでの。向こうにあるお主の肉体がどうなっているのかは皆目見当がつかぬ」 「は? ちょっと待ってください……違う世界? どういうことですか?」 そんなの聞いてないぞ、ドッキリ企画じゃあるまいし。 どこにぶつけるでもない憤りさえ感じていると、緑の魔女は続けた。 「たまぁにおるのじゃよ。別の世界から妾のもとに飛ばされてくる輩がの。すべては『赤の魔女』のしわざじゃ。『赤の魔女』はときに世界を救うため、ときに世界を滅ぼすため、ときに気まぐれでお主のようなものを送り込んでくる」 「世界を……?」 「まあ、今回は完全なる気まぐれじゃろ。お主にはまったくオーラが感じられんからの。まるっきりの凡人、完全なる一般人じゃ」 「はあ……」 一般市民なのは自分でもわかっているので反論はしないが、ここまで普通のひとだと言われるとなんだか複雑だ。 あの赤い女……『赤の魔女』は、時空を捻じ曲げて、ほんの気まぐれで南野を別世界へと送り込んだのだという。 なんてはた迷惑な話なんだ。もはや憤慨というよりも呆れてしまった。 そして南野は、『緑の魔女』に話の先をうながすように、一口お茶をすすって見せるのだった。「その本、開いちゃダメです!!」 キーシャの鋭い声が書架の間にこだまする。 しかし、時すでに遅しだった。「え?」 南野の手の中で開かれた書物はぼんやりと発光し、やがて…… 「『歪曲する運命の魔導書』ですって!?」 新たにキリトを迎えた四人で『レアアイテム図鑑』をめくっていると、キーシャが突然声を上げた。 いきなり素っ頓狂な声を上げたおかげで、他の三人は呆気にとられた表情で彼女を見つめている。「これがどうかしたんですか?」 『レアアイテム図鑑』を指さして問いかける南野に、キーシャは若干青ざめた顔で応じた。「『歪曲する運命の魔導書』……魔導書っていうのは一般的に魔法の指南書であると同時に、それ自体に魔法がかけられたマジックアイテムでもあります。今回は後者ですね……」「その魔法がなんかヤバいの?」 尋ねるメルランスに、キーシャは重々しくうなずいた。「あくまで教会学校の噂なんですけど……その名の通り、読んだ者の運命を狂わせるとか……書物自体が禁書の書架にあるのでなんとも言えませんが……」「禁書ねえ……そりゃ厄介だわ」「あの……禁書って?」 どうやら常識らしいが、南野はこの世界の事情に疎い。疑問の声をかけると、キーシャが解説を始めた。「この世に出てはいけない危険な書物、あるいは希少すぎて出してはいけない書物のことです。多くは魔導書で、国立図書館の閉鎖された区画に収められています。巨大な図書館のひとの立ち入らない最奥部……トラップはありませんが、収められている書物自体がトラップじみた奇書です」 なるほど、ある意味ダンジョンよりも厄介というわけか。国立図書館ともなると探索したことのある者の方が稀だろう。 目でメルランスに問いかけると、彼女は首をゆっくりと横に振った。「残念ながら、あたしには国立図書館の禁書区画を探索した経験はない。あんたもそうでしょ?」「ああ、あいにく書物とは縁がなかったのでな」 キリトも探索の経験はないらしい。こうなると、多少なりとも知識があるのはキーシャだけになる。今回は彼女頼りになりそうだ。「よろしくお願いします、キーシャさん」 軽く頭を下げると、キーシャはまだ浮かない顔で、「と言っても、私も二三度行ったきりでそう経験豊富ってわけじゃありません……禁書の取り扱いに関しては、少しは学校で習いましたけど」
「ドクター! 急患!」 メルランスが叫ぶと、デスクでこっくりこっくりと居眠りをしていた白衣の老人が、はっと目を覚ました。「なんじゃ? なんじゃあ??」「大蠍の毒にやられたの! 血清ある!?」 てきぱきとキリトをベッドに寝かせてから、老人の胸倉をつかむメルランス。老人は若干白目を剥きながら、「おおう? メルランスの嬢ちゃんか。大蠍の毒とな? おお、おお、あるとも。あるともさ。どれどれ……」 もっさりとした動作で薬棚を漁り、ようやく戻ってきた老医師の手には小瓶と注射器が収まっていた。 それから、なにかを思い出したように手を打つ。「……おお、そうじゃった。毒の血清にはギルド保険が効くんじゃった。冒険者証は持っとるかいな?」「多分あると思う!」 メルランスがキリトの懐を探ると、折りたたまれた羊皮紙のようなものが出てきた。それを受け取って、老眼らしい医師は目を細めて内容を一読する。「ふむ、間違いない。いや、間違いがあっては困るので確認する。青年、お前さんの名前は……」「……まっ、ちょっ、やめれくらはい……俺はキリト……」 なぜか名前を確認されるのを必死で止めようとするキリト。しかし、動きがおぼつかないのでそれもままならない。 老医師は無慈悲にキリトの名前を口にする。「……ジョン・フンバルト・ヘガデル・ミモデル、で間違いないかの?」 一瞬、医務室がしんとなった。全員がまったくの真顔になっている。 しかし次の瞬間、ふっとメルランスが吹き出したのを皮切りに、医務室は爆笑に包まれた。「ぶぁははははは!! ジョンって普通!! ふっつぅぅぅっぅぅぅ!! しかも『踏ん張ると』『屁が出る』『実も出る』ってなんかのギャグ!? それとも奇跡!?!?」「あははははははは!! 全然キリトじゃない! ジョンさんじゃないですか! 踏ん張ると屁が出るし実も出るし!!」「ふっ、ぷくくくく……ふっ、ふたりとも、あんまり、笑っちゃ……ふふっ、悪いですよ……ジョン・フンバルト・ヘガデル・ミモデルさん(笑)に悪いじゃないですか……!」「……おい若白髪、お前が一番ひどいからな……! フォローすると見せかけて()の中、丸見えだぞ……!」 老医師に血清を打たれながら、キリト、改めジョンは恨めしげな視線を三人に送った。 治療を終えた老医師は注射器を消毒液の盆に戻し、「これで
「ふむ、なるほど……ずいぶんと面白そうなことになっているようだな」 南野の説明を聞き終えたキリトは、口の端を釣り上げて笑い、赤いマントをばさりとひるがえした。「いいだろう、俺のちからを欲するならば乞い願うがいい。この魔神のちからを宿した……」「あ、人手は足りてるんでいいです」「そんなこと言うなよぉぉぉぉぉぉ!!」 あっさりと断った南野にキリトは半泣きになりながら取りすがった。「絶対役に立つから! 俺強いしカッコいいし、パーティに入れといて絶対損はないって!!」「ちょ、やめてくださいよ」 必死の懇願だった。しかし男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。振りほどこうとしていたそのときだった。「南野!」 メルランスの緊迫した声が走る。きょとんとする南野を、今度はキリトが突き飛ばした。「危ない!」 声がしたのと、南野が砂漠に倒れるのと、どす、と嫌な音がしたのは同時だった。「……キリト、さん……?」 砂地にへたり込んだまま見上げると、キリトは苦しげな表情で肩口を抑えている。そしてがっくりと膝をつき、そのまま倒れ込んでしまった。「『第七十六楽章の音色よ! 創生神ファルマントの加護のもと、虚空に爆ぜる無色の狂乱のごとき旋律を解き放て!』」 メルランスが口早に詠唱すると、キリトの背後にいた瀕死の大蠍の腹辺りで空気が爆発した。からだの半分を爆砕されて、今度こそ大蠍は絶命する。「……くっ……仕留め損なっていたか……!」「しゃべらないで!」 砂地に這いつくばって呻くキリトに、メルランスとキーシャが駆け寄る。「……多少活性は失われてますが、確かに大蠍の毒が回ってます……!」「回復魔法でどうにかならないの?」 問いかけるメルランスに、キーシャはゆるく首を横に振った。「体力の回復や造血の魔法ならあるんですけど、特定の毒素を除去する魔法はないんです。こればっかりは、血清を打たないと……」「冒険者ギルドの医務室にあるかも!」 そう言うと、メルランスは大蠍の残骸を振り返って短刀を取り出し、一撃でその鋭い尾をもぎ取った。それを南野に投げてよこす。「ほら! 今回の目的はこれでしょ!? 終わったなら早く連れて行かないと! あんたがそいつ担いで!」「……ううううう……死にたくなぁい……死にたくないよぅ……!」 めそめそするキリトのからだを肩に担いで、南野は『
現れた左目は、右と変わらないなんの変哲もない碧色のきれいな瞳だった。特に魔神が封印されているだとか、ものもらいだとか、そういう気配は感じられない。「なんだ、どうにもなってないじゃないですか。よかった」 ほっとする南野をしり目に、エルフの青年は、あ、だとか、う、だとか言葉にならない声を発してなにかを取り繕うとしている。「いや、これは……これは! その……そうだ! 魔力のない人間には普通に見えるかもしれないが、ここにはたしかに魔神が……!」「……なんも見えないけど?」「見えませんねー」 追いついてきたメルランスとキーシャが続けざまに言う。魔力のある彼女らが言うからには、本当になにもないらしい。「ぐ……! そうじゃなくて……! あの、違うよ? 魔力があっても同じ魔神のちからを宿していないと見えなくて……! ほら、魔神のちから同士は引かれあうから……! べ、別にそんなんじゃないから!?」 顔を真っ赤にして、ころころ言うことが変わる。そうかと思えば、はっとして右腕の包帯をほどき始めた。その下には、複雑な紋様のあざがあった。「ほら! これ! ふ、ふっふっふ! 魔神イーグニットのちからに魅了された人間にはこの呪いの紋様が刻まれて……!」「あ、これ剥がれる」「シールですねー、おしゃれさんですねー」「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!」 ぺりぺりと剥がれる紋様は、どうやらタトゥーシールらしかった。刺青ですらないらしい。「こ、これは……」 ごくり、唾を飲む南野。この現象に心当たりがあったからだ。 その気配を感じ取って、エルフの青年は目に見えて慌てだした。「ち、違うから! 俺は魔神イーグニットが欲するままに強者との戦いに明け暮れる修羅の道を行くもので……!」 間違いない、これは……「…………中二病だ…………」「ちゅうにびょう? なにかの病気なんですか?」 尋ねてくるキーシャに、南野はわかりやすく説明した。「俺の世界の……まあ、思春期にかかる病気といえば病気ですね。やたらダークな設定を自分につけてみたり、一匹狼を気取ってみたり、技に名前を付けたり……症状は様々ですが、要はカッコつけ病です」『……あー……』 メルランスとキーシャはそろって心底残念そうな声を上げた。「な、なんだよ!! いいだろ別に!! 実際俺が強いのはさっき見ただろ! これだからな
メルランスは早速砂まみれになっているキーシャの襟首をひっつかんで拘束した。リードを引かれる犬のような有り様だ。「そう深くにはもぐらないはずだから、体の一部が露出してるはず。よく目を凝らしてそれを見つけて……」 言いかけて、メルランスが口をつぐんだ。何事かと問いかけようとすると、し、と人差し指をくちびるに当てる。「……どこかで剣戟の音がする……」 言われて耳を澄ませてみると、たしかにどこからか、きん、きん、と金属質のもの同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。近い。 誰かが戦っているのだ。「助けないと!」 気が付いたら、南野は音のする方へ駆け出していた。釣られてメルランス、キーシャも走り出す。「ちょっと、大蠍はどうすんの!?」「だって、だれかが戦ってるんですよ!? 助けないと! それに、うまくすれば謝礼がもらえるかもしれませんよ!」「そんな不純な動機でいいんですかー!?」 謝礼云々はどうでもいいとして、とにかく誰かが剣を振るっているのだ。近くにいる以上、加勢するのが筋だと南野は考えた。 とはいえ、南野にはなんのちからもない。結局はメルランスたちのちからをかりることになるのだが。 砂丘をひとつ越えたところで、砂塵の向こうで躍動する人影が見えた。その人影が対峙している相手は、3メートルほどの大蠍だ。「ビンゴ! 獲物まで見つかるなんてラッキーじゃん!」 ぱちん!と指を鳴らすメルランスに、砂嵐の向こうへ目をこらした南野が告げる。「戦ってるのはひとりですね!」「よーし、謝礼として『大蠍の尾』もらっちゃおう! 労せずして目的完遂!」「メルランスさん、加勢をお願いします!」「任せて!」 走りながら会話をしているうちに、砂塵に紛れてよく見えなかった人影がはっきりと見えてきた。 白い詰襟のような服を着て、赤いマントをたなびかせた男だ。整った顔をしており、耳が長い。怪我をしているのか、片目は眼帯でふさがっており、左腕にも包帯を巻いている。「……あれ、エルフですね……」 後ろの方でぜいぜい息を切らせているキーシャがつぶやいた。 エルフ。ファンタジーでよく耳にする種族だ。森に住み、強大な魔法を操り、美しい容姿をしているという。 エルフの青年は両手に一本ずつ構えた細剣で大蠍の攻撃を防いでいる。ざっ、と砂を蹴り、鋭い眼光で大蠍を睨みつけていた。
「『大蠍の尾』?」 朝食のBLTサンドを食べ終わり、指に残ったソースを舐めながらメルランスが怪訝そうな顔をした。「ええ、次の獲物です」 南野はモップを片手に、ページを開いた『レアアイテム図鑑』をカウンターの上に置く。「なになに……『3メートルを超える巨大な蠍の尾。その尾には象をも一撃で昏倒させる毒が宿っており、しばしば暗殺のための毒薬として使用される』……なるほどね」「私も知ってます、強力な魔法薬の材料としても使われます」 隣で市場で買ってきたらしいリンゴをかじりながら、キーシャが便乗する。 うーん、とうなるメルランスの顔の険しさを見て取り、南野は不思議そうな顔をした。「なにか問題でもあるんですか?」 すると、メルランスは結い上げた金の髪を掻きながら、「多分、この毒がないとレアアイテムとは認められないんだろうね……この毒、大蠍が死ぬと活性を失うんだ。ってことは、生きた大蠍を仕留めてすぐに尾を切り離さないといけないってこと」 そう言って、メルランスはエールのジョッキをぐっと傾けた。 それを聞いた南野の顔色が青ざめる。「さ、3メートルの大蠍を、ですか……?」「そ。まあ、ある程度経験を積んだ冒険者ならそんなに難しい獲物じゃないけど」「じゃあ、私が魔法でお手伝いします!」「ダメ。あんたの場合は必要な尾まで爆砕させちゃうでしょ」「ううう……!」 図星を突かれたキーシャは悔しそうにリンゴをがじがじと噛みしめている。「熟練の冒険者……だったら、メルランスさんがいれば大丈夫じゃないですか」 南野が言うと、メルランスはジョッキを干してから深いため息をついた。「……あたし、虫って苦手なの」「……へ?」 いきなり出てきた意外な言葉に、思わず間の抜けた声がこぼれてくる。 メルランスは言い訳をするようにまくし立てた。「だってなんなの!? あのうじゃうじゃした脚とか、妙につやつやした外骨格とか、なに考えてるかわかんない複眼とか! そりゃあ、ダンジョンとかで遭遇したらきちんと倒すけど、あんまり積極的に戦いたい相手じゃないの!」 メルランスにも苦手なものがあるのか……となんとなく感慨深く感じた南野。 とはいえ、相手はまだ年端もいかない女の子だ。虫くらい苦手な気持ちもわかる。今までずっと頼り切りだったが、彼女だって得手不得手くらいあるのだ。「







