私が司に離婚を切り出すと、書斎は水を打ったように静まり返った。司は眉間にしわを寄せ、いぶかしげに私の顔色をうかがった。「颯太の迎えに行かせなかったからか?彩月、お前がそんなみっともない雑用をする必要はない。送り迎えなんて、使用人に任せておけばいいんだ」彼はデスクを回って立ち上がり、私を抱きしめようとした。「最近、会社が忙しいんだ。面倒をかけないでくれよ」そんな適当ななだめ方をする彼を見つめながら、私は一歩後ずさった。そして、冷たく言い放つ。「離婚届と離婚協議書にサインしてくれれば、雑用も、人前に出せない妻もあなたを煩わせることはなくなるわ。司、これなら一石二鳥でしょう?」心を通わせようと7年間尽くしてきた思いやりも、司にとってはすべて些細な雑事に過ぎなかった。――心を込めて用意した誕生日のプレゼントも、たまに颯太を学校へ送ることも。息子の颯太まで、私を遠ざけるような態度を取る。「ママ、僕もう5歳だよ。テーマパークやアニメで子ども扱いしないで」「ママがくれたブレスレット、どこのブランド?誰の作品?どっちでもないの?じゃあいらない。着けてたら恥ずかしいもん」子供の言葉は、あまりにも残酷でストレートだ。容赦なく、いとも簡単に私の心をえぐっていった。ある日、書斎の前を通りかかったとき、司と颯太の会話が聞こえてきた。颯太が司にねだっていた。「パパ、蛍さんにテーマパークへ連れて行ってもらっていい?」部屋から返ってきたのは司の声ではなく、甘く優しい女性の声だった。「お上手なこと言って。でも、行けるかどうかは颯太くんのパパのお許し次第よ」「パパは蛍さんが一番大好きなんだから、蛍さんが賛成なら絶対いいって言うよ!」廊下に立つ私の手は、冷や汗でぐっしょりと濡れていた。颯太は、テーマパークや子どもっぽい遊びが嫌いなわけではなかったのだ。ただ、司と同じように、私のことが嫌いなだけだった。その瞬間、あまりにも広すぎる邸宅が冷え冷えとして、息が詰まるように思えた。もう、これ以上我慢し続ける理由が見つからなかった。彼らを愛そうと、自分を追い込むのはもうやめにしよう。
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